オーストリアの作家ローベルト・ムージルの文学的営為を、畢生の大作『特性のない男』を中心に代表作を網羅して論じます。
ムージルは20世紀のドイツ語圏における最重要作家の一人であり、とりわけ未完に終わった『特性のない男』は、プルーストの『失われたときを求めて』、ジョイスの『ユリシーズ』と並び称される長編小説です。
ムージルの作品は、1970年代からようやくドイツ語圏で研究が盛んになり、日本においてもこれまで翻訳や紹介がなされてきました。
しかし処女作『寄宿生テルレスの混乱』から『特性のない男』まで総括的に論じたものは日本でいまだ存在しません。
本書は、ムージルの全体像を日本で初めて紹介するものであり、文学研究のみならず近代における思想や文化を学ぶ人に資する1冊です。
作品論という側面を強調し、ムージルの代表作への案内書としても読めるように、また、ムージルになじみの薄い読者のために難解な専門用語を避け、生涯と作品の関係がわかりやすいようにする年譜をつけています。
目次
まえがき
序 ムージル論のための「文学研究」の定位
1 『特性のない男』へ
『寄宿生テルレスの混乱』
『愛の完成』と『トンカ』
『静かなヴェローニカの誘惑』
補説 『合一』における皮膚=身体――沈黙への通路
『黒つぐみ』
2 『特性のない男』
認識批判とユートピア的思惟
愛のユートピア
狂気のディスクール
『特性のない男』における終わりなき省察
註
参考文献
『特性のない男』の構成
あとがき
ローベルト・ムージル略年譜
人名索引
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著者紹介(肩書は発刊当時、敬称略)
北島玲子…きたじま・れいこ/上智大学文学部ドイツ文学科教授、文学博士