講座 単元を創る
講座 単元を創る[最終回]単元づくりの「勘どころ」を磨く
授業づくりと評価
2020.05.31
講座 単元を創る
[最終回]単元づくりの「勘どころ」を磨く
島根県立大学教授
高知県教育委員会事務局学力向上総括専門官
齊藤一弥
(『学校教育・実践ライブラリ』Vol.12 2020年4月)
■summary■
資質・能力ベイスの「単元を創る」ことは、次代を支えていく教師に期待される重要な力量であり、そのいわゆる「勘どころ」を「目的」「内容」、そして「方法」の3つの視点から磨いていくことが求められている。
単元づくりの3つの「勘どころ」
この1年間の連載で、資質・能力ベイスの単元を創ることについて考えてきた。これらは教師に期待される力量であり、単元を創るためのいわゆる「勘どころ」である。これまでの話題を整理しながら、新課程に対応する単元づくりの3つの「勘どころ」をまとめていきたい。
(1)単元づくりの「Why(目的)」
まずは、単元を創る目的(Why)である。新課程の実施に合わせて、なぜ「単元を創る」ことが必要なのかを明らかにしておくことは、授業づくりの根幹を支えることとして極めて大切である。
資質・能力ベイスの新課程を編成するにあたっては、「教材単元」と「経験単元」という2つの単元づくりの考え方を踏まえた上で、双方のよさを十分に活かしながら、各教科等の系統的な内容(「何をどのように学ぶか」)を扱いつつ、学習のまとまりを子供にとって価値のある学び(「何ができるようになるか」)で描くことが重要である。両者の価値を最大限生かした単元づくりを追究することが必要である(「子供と単元」Vol.1)。
さらに、資質・能力ベイスの新課程においては、教科目標や指導計画の全面的な読み直しが求められ、目標や内容等の連続性、特に見方・考え方の一貫した成長プロセスを重視して、資質・能力を段階的に高めていく単元が期待されている。また、単なる評価の観点の変更による書き直しに終わらずに、子供の見方・考え方の成長が育成すべき資質・能力の変容を支えていく過程を、客観的かつ妥当性のある規準で把握することも期待されている(「資質・能力ベイスの単元を創る」Vol.2)。
このような考え方を受けて、学習指導要領の総則では指導計画編成の留意事項として「単元のまとまりを見通す」ことが重視されている。これは、単位時間等で何を指導しそれをいかに配列するかといったこれまでの内容ベイスの単元観とは異なる資質・能力ベイスの新たな単元をいかに描くか、また、そこではいかなる学習活動を組織すべきかを検討することを求めている(「単元のまとまりが意味すること」Vol.9)。
(2)単元づくりの「What(内容)」
次に、単元にはどのような内容(What)を位置付けるかである。「単元はある」のではなく、「単元は創る」という考え方に立つと、単元に何を位置付けるかを明らかにすることは単元づくりのスタートラインとなる。
単元は、各学校の教育課程に基づき教師が学習指導要領に示された主旨や内容を適切に解釈した上で、目の前の子供の興味・関心等によって、最適な形で描くべきである。そのためには、まずは学習指導要領を確かに読み込み、教科指導の目的や価値を基盤に据えて何をどのように教えたらよいのかを考えながら、一方で洗練された教科書の教材単元のよさも活かしながら、資質・能力ベイスの単元を創ることが教師に求められている(「単元を創る出発点」Vol.3)。
ここで、学習指導要領をいかに読めばよいかということが問題になる。新課程では、教科目標の柱書に資質・能力ベイスの授業づくりの基本が示されている。教科等の「見方・考え方」を働かせて、教科らしい「学習活動(例えば、国語でいえば言語活動)」を通して、教科等が期待する「資質・能力」を育成するという3つの視点である。これらの関連を明確にしながら単元のまとまりを描いていくことが求められている(「教科目標を実現する単元」Vol.6)。そこでは、育成する「資質・能力」というゴールと「見方・考え方」の成長を意識しながら、教科らしい「学習活動」をいかに組織するかも大きな課題になる。見方・考え方を基盤に据えた「学習活動」を描いていくことはこれまでにはない新たな視点であり、これからの教師に期待される力量といえるだろう(「見方・考え方を働かせた学習活動」Vol.4)。
(3)単元づくりの「How(方法)」
最後は、単元を描く方法(How)である。いかにして、新課程の理念を単元に落とし込んでいくかである。
まずは、見方・考え方を働かせた学習活動を成立させることである。子供が見方・考え方を働かせて学ぶためには、学習対象に積極的にかかわり、それにこだわり続けるためには、学習活動の目的や学びのゴールを明確に意識しているか、学習対象を価値あるものとして自覚しているか、そして学び進むために必要な見方・考え方を活かすことができているかなどの要件を満たしていることが必要となる(「学習目的の明確化」Vol.8)。
また、子供が見方・考え方を意識しながら学び続けるために、教材のつながりを見方・考え方で捉え直すことが肝要である。内容ベイスでは、指導内容のまとまりで単元枠を区切ってきたが、資質・能力ベイスでは、指導内容の連続性や関連性を見方・考え方に着目して整理し直して、新たなまとまりで単元枠をくくるなど、従来の教材単元の枠組みを再構成することも必要になってくる(「教材単元の再構成」Vol.7)。
この単元の再構成においては、見方・考え方の成長の視点から、学びの「縦」の系統と「横」の関連を意識することが求められる。「縦」「横」を意識した単元を描くことで、子供は学びから得た見方・考え方を働かせながら学び続けることができるようになる(「縦と横を意識した単元づくり」Vol.5)。さらに、見方・考え方の成長を支えていくには、学年や校種を越えた関連・連携を意識していくことも欠かせない。子供が身に付けてきた見方・考え方を働かせながら学びをつないでいくための単元デザインへの転換も期待されている(「見方・考え方の成長と校種間関連」Vol.10)。
これまでの内容ベイスの単元では、内容をもれなく指導していくための教材配列等に関心が向きがちであったが、資質・能力ベイスでの単元では、学び手である子供の見方・考え方、関心や思考と教師の期待するゴールや指導したい内容の折り合いつけながらどのような学習活動を描いていくかが重要になる。資質・能力ベイスの学びの実現に向けて「単元を創る」ためには、常にその両面をバランスよく意識しながらデザインし続けていくことが大切である(「学び主体へのアップデート」Vol.11)。
Profile
島根県立大学教授
高知県教育委員会事務局学力向上総括専門官
齊藤一弥
さいとう・かずや
横浜国立大学大学院修了。横浜市教育委員会首席指導主事、指導部指導主事室長、横浜市立小学校長を経て、29年度より高知県教育委員会事務局学力向上総括専門官、30年10月より現職。文部科学省中央教育審議会教育課程部会算数・数学ワーキンググループ委員。近著に『新教育課程を活かす能力ベイスの授業づくり』。