Q&Aスクール・コンプライアンス
最新 Q&A スクール・コンプライアンス120選 Q15 公務員は利害関係者から利益供与を受けてはならないといわれますが、一切の利益供与が禁止されるのでしょうか。
学校マネジメント
2020.11.12
最新 Q&A スクール・コンプライアンス120選
第1章 教職生活のコンプライアンス
菱村 幸彦
国立教育政策研究所名誉所員
(『最新 Q&Aスクール・コンプライアンス 120選』2020年10月)
Q15 公務員は利害関係者から利益供与を受けてはならないといわれますが、一切の利益供与が禁止されるのでしょうか。
◯こういう行為が禁止される
平成27年に私立学校の入試説明会に参加した公立学校の教員が、会議終了後、学内の食堂で軽食とビールの接待を受け、図書カード(2,000円)を受領したことが、公務員の倫理規定に反するとして問題となりました。この程度の便宜供与も問題となるのか、と驚かれる方も少なくないと思いますが、公立学校の教員が利害関係者から接待を受けたり、金品を受領したりすることは、公務員倫理に反し、服務義務違反となります。
国家公務員倫理法で国家公務員が利害関係者から金品や供応などの利益を受けることが厳しく規制されていますが、地方公務員についても、国家公務員に準じて、職員倫理条例や職員倫理規程などで、同様の規制が行われています。
例えば、東京都では、教育委員会の職員服務規程(訓令)で、職員は、上司が承認した場合を除き、「利害関係があるものから金品を受領し、又は利益若しくは便宜の供与を受ける行為その他職務遂行の公正さに対する都民の信頼を損なうおそれのある行為をしてはならない」(7条の4)と定めています。
この規程に基づき、都教委は各学校長に「利害関係者との接触に関する指針」(以下「指針」)を示しています。指針では、利害関係者(児童生徒、保護者、物品購入、教科書採択、教材選定など教職員の職務に利害関係を有する者)との間で、①会食(パーティーを含む)をすること、②遊技、スポーツ、旅行をすること、③金銭、物品(せん別、祝儀、香典などを含む)を受けること、④供応接待を受けることなどをしてはならないと定めています。
◯上司の承認の要件
ただし、これには2つの例外があります。1つは、職務に関係のない場合です。例えば、家族や友人などの個人的関係に基づく私生活面における行為は、指針に掲げる行為であっても、規制の対象とはなりません。
もう1つは、上司の承認を得た場合です。指針に掲げる禁止事項であっても、上司の承認を得れば許容されます。この場合、上司の承認について、指針は次のように示しています。
第1は、会食(パーティーを含む)。利害関係者との会食が承認されるのは、①職務上の必要性が認められ、正当な対価を支払う場合、②利害関係者の公式的行事に職務として出席する場合で社会通念上許される範囲の飲食が出される場合、③PTAの行事に出席する場合で社会通念上許される範囲の飲食が出される場合です。
第2は、旅行。利害関係者との旅行が認められるのは、①職務として児童生徒を引率する場合(遠足、修学旅行、部活動など)、②職務上の必要性から利害関係者と出張する場合、③PTAの行事で旅行に参加する場合です。
第3は、物品。利害関係者から物品を受領できるのは、①広く配布される宣伝広告用の物品で、社会通念上許される範囲のもの(カレンダー、手帳、ボールペンなど)、②利害関係者が主催する公式的な行事に職務として出席する場合で出席者全員に配布される記念品に限られます。
服務規程などに反する行為は、服務義務違反として、地方公務員法上の責任が問われることになります。
Profile
菱村 幸彦(ひしむら・ゆきひこ)
京都大学法学部卒業。昭和34年文部省入省。教科書検定課長、高等学校教育課 長、総務審議官、初等中等教育局長、国立教育研究所長、駒場東邦中学校・高等 学校長などを歴任。現在、国立教育政策研究所名誉所員。
著書に『校長が身につけたい経営に生かすリーガルマインド―身近な事例で学ぶ 教育法規』(教育開発研究所)、『管理職のためのスクール・コンプライアンス』(ぎょうせい)、『戦後教育はなぜ紛糾したのか』(教育開発研究所)、 『はじめて学ぶ教育法規』(教育開発研究所)、『やさしい教育法規の読み方』 (教育開発研究所)など多数。