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授業力を鍛える新十二条

齊藤一弥

授業力を鍛える新十二条[第9回]価値ある問いを描く 第九条:〈教材研究の知恵〉―「問い」〜学びの対象

NEWトピック教育課題

2020.01.20

授業力を鍛える新十二条

[9]価値ある問いを描く
第九条:〈教材研究の知恵〉「問い」〜学びの対象

島根県大学人間文化学部教授
高知県教育委員会事務局学力向上総括専門官 齊藤一弥

『リーダーズ・ライブラリ』Vol.9 2019年1月

身に付ける資質・能力を確認し、見方を磨き、考え方を鍛えるため「問い」を見極め、学びのゴールから問うべき「問い」を位置付けるとともに、常に「問い」の質の上げ下げを臨機応変に描くこと〜価値ある問いを描く〜が授業デザインに欠かせない力になる。

問いを描く教師の「知恵」

 授業デザインで欠くことができないのが「問い」の吟味である。子どもが何を思考・判断し、表現していくかは「問い」によって決まるからである。そのために、教師はいかに子どもの問いづくりに取り組めばよいのであろうか。子どもに身に付けるべき資質・能力を見極めて、それをいかに子どものものにするのか、その成否の鍵は「問い」の設定にある。

 そのような「問い」を描けるようになるには、授業づくりの「知恵」が必要になる。「知恵」とは、教師がそれまでの豊かな経験から身に付けてきたものであり、その豊かな経験は質の高い授業実践と出合い、それを丁寧な授業分析を積み上げていく過程で磨かれていくものである。漫然と形式的に授業実践を繰り返すのではなく、常に批判的に授業実践を丁寧に振り返る中で教師の「知恵」は磨かれていく。

見方を磨き、考え方を鍛える問い

 中学校1年の理科において、既習の学習内容を用いて身の回りの物質の性質を見出す学習が行われる。学習指導要領解説の内容を確認してみると、身の回りの物質の性質や変化に着目しながら観察、実験などを通して、その性質や状態変化における規則性を見出して表現することや、問題を見出すとともに見通しをもって観察、実験などを行う技能を身に付けることがねらいとされている。しかし、この文言を読み返しても具体的な授業イメージはなかなか沸いてこない。多くの教師は教科書教材を参考にして課題設定し、その解決に取り組むことになる。

 高知市立A中学校のN教諭は、理科教員としての経験こそ浅いが授業改善に大変熱心である。校内の授業研究で、小学校での理科の既習事項を想起させて複数の無色透明の水溶液の性質を判断する授業に取り組んだ。教科書の素材を参考にしながら、酸性・アルカリ性の判別、加熱処理した際に摘出される物質の有無、金属などの物質を入れた際の水溶液の状態変化などを根拠に、それらを組み合わせて比較することで物質の性質を探ろうとする授業を組み立てた。

 本時では、前時までに計画された班ごとの探究方法にそって希塩酸と水酸化ナトリウム水溶液の判別に取り組んだ。導入で用意された課題は「どちらが希塩酸、水酸化ナトリウム水溶液であるかを計画をもとに調べよう」であり、生徒も手際よく計画どおりに実験・観察を進めてその判断を行い、全ての班が同様の結果を導き出すことができた。その後、各班が実験結果を口頭で紹介し合って授業は終わった。

 授業後の研究会では、本時の学習の価値が話題になった。本時で取り組んだ実験・観察によって生徒は何ができるようになったのかを見極め、それに向かって生徒が思考・判断および表現していくことが必要であって、それにどの程度取り組めていたのかということである。計画どおりに手順よく安全性に留意しながら実験・観察を進められたことも探究の技能として重要ではある。しかしそれに加えて、実験結果を比較・関連付けることから得られる知見に関心をもって、これまでの経験知と比べることで生徒自身が理科の見方・考え方の成長を自覚することが大切ではなかったのかということである。

 では、そこに関心が向くようにするために、この授業に何を加えることが必要であったのであろうか。学習指導案には、物質を性質や変化といった定性的な視点から着目して、観察、実験結果を比較・関連付けながらそれらの性質を見出すといった学習指導要領で示された目的は押さえられていたが、生徒自身が理科の見方を磨き、その考え方を鍛えるための「問い」が不在であった。そのために実験結果の確認で授業を終えることになってしまったのである。「何を知るため」に実験・観察をするので終わらずに、「何ができるようになるため」に実験・観察を行うのかということを明確にするための「問い」が必要であった。「問い」とは自分の経験知とのずれから生まれ、それに関心をもって問題解決することで自己の経験知の質的向上を目指すことを、この授業に加えることが必要であった。このような問いづくりの視点をもつこと、言い換えるとそのような授業イメージをもつことが、教師に期待されている「知恵」なのである。

いかに問いを描くか

 授業研究の場において「授業づくりをするためには、まずは学習指導要領を読み込めというが、しかし、それだけでは授業イメージはもてない」という声を聞くことが多い。確かに教材分析として学習指導要領や解説の文言を何度読み返しても、目指すべき授業イメージはなかなかもつことは難しい。今回の実践においても、N教諭は新学習指導要領を丁寧に読み込み、指導すべき内容について十分確認をして臨んだのだが、生徒自らが「問い」をもちながら、理科の問題解決に進んで関わっていく授業をいかに描くかという大きな壁にぶつかったわけである。

 問題解決とは、不確定的状況におかれた課題の中の困難を感得するところからスタートする。「水溶液の性質の判別」の学習で言えば、これまで小学校理科の学習で別々に扱ってきた判別方法(例えば、酸性・アルカリ性、加熱処理、金属などの変化)に着目して、それらを組み合わせて比較・検討しないと結論を出せないことを確認して、ここに「問い」を設定することが肝要となる。複数の方法を組み合わせることで妥当な結果を導き出すという新たな探究の視点を丁寧に確認して、生徒がそこに問題解決の価値を見出しながら学習していくための「問い」を描くことが必要であった。

 また、デューイが、「問題状況が探求を受けるために提出した問題は何かがわかれば探求はうまく進むが、問題をとりちがえれば今後の探求が的はずれとなり道に迷う原因になるし、何よりも問題がなければ暗中模索になる」と指摘したように、問題の所在をとらえて解決の方向性を明確にしなければ、意味のない活動に時間が費やされることになる。希塩酸と判断した方法とその結果を比較する際も、これまでの学習に比べて何ができるようになったのかに関心をもつ「問い」を設定することも重要である。

 生徒は希塩酸であることを次の3つの方法で実験し、その結果から水溶液の性質を判断した。しかし、これらの方法で判断ができたことの確認で終わるのではなく、3つの方法を比較および関係付けることによって水溶液の性質を判断するための新たな知見を獲得することが必要であった。2つの実験方法を組み合わせることで物質の性質の判断が可能になるという、小学校では扱わなかった比較方法や関係付けの視点そのものを問うための「問い」を位置付けることが期待されていたわけである。そして、実験方法およびその結果の関係を可視化して比較させることで、生徒がこれまでにない探究の視点や方法を確認することへ関心をもたせ、自己の中に多様性を生み出すことで理科の見方・考え方を成長させていくことが大切になる。

 

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齊藤一弥

齊藤一弥

島根県立大学人間文化学部教授

横浜国立大学大学院修了。横浜市教育委員会首席指導主事、指導部指導主事室長、横浜市立小学校長を経て、29年度より高知県教育委員会事務局学力向上総括専門官、30年10月より現職。文部科学省中央教育審議会教育課程部会算数・数学ワーキンググループ委員。近著に『新教育課程を活かす能力ベイスの授業づくり』。

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