教職 その働き方を考える

高野敬三

教職 その働き方を考える[最終回]教師の働き方改革のこれから

トピック教育課題

2020.01.16

教職 その働き方を考える
[最終回]教師の働き方改革のこれから

明海大学副学長 高野敬三

『リーダーズ・ライブラリ』Vol.12 2019年4月

●本稿のめあて●
中央教育審議会は、学校における働き方改革に関して答申を出しました。本シリーズの最終回に当たって、答申のポイントや特徴を取り上げるとともに、これからの働き方改革に関して、所見を述べてみます。

学校における働き方改革に関する「中教審答申」の特徴

 中央教育審議会は、平成31年1月25日に、「新しい時代に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について」と題する答申(以下、「答申」といいます)を出しました。答申では別添資料として、「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」を示しています。

 全体的に、学校現場の教師の多忙について、教員勤務実態調査結果やヒアリングを通して把握し、現行法制度(地方公務員法、いわゆる「給特法」や「働き方改革推進法」など)を踏まえた答申となっています。以下、特筆すべき特色を挙げてみます。

(1)学校における働き方改革の目的を保護者等に理解を求めている

 「第8章(略)確実な実施のための仕組みの確立とフォローアップ等」では、「今回の学校における働き方改革は、我々の社会が、子供たちを最前線で支える教師たちがこれからも自らの時間を犠牲にして長時間勤務を続けていくことを望むのか、心身ともに健康にその専門性を十二分に発揮して質の高い授業や教育活動を担っていくことを望むのか、その選択が問われているのである。子供たちの未来のため質の高い教育を実現するには、保護者・PTAや地域の協力が欠かせない。この答申の最後に、学校における働き方改革についての保護者・PTAや地域をはじめとする社会全体の御理解と、今後の推進のための御協力を心からお願いすることとしたい」と結んでいます。同様の記述が、「はじめに」と「学校における働き方改革の目的」(第1章)にも見られます。

(2)学校における勤務時間の上限をガイドラインとして示している

 校外での部活動等の引率を含めて、教員の時間外勤務の上限を、原則月45時間、年360時間と定めました。また、特別な事情があっても月100時間未満、2から6か月の月平均で80時間、年720時間までとしたガイドラインを別添1で示しました。

(3)学校・教師が担ってきた代表的な業務の在り方について見解を示した

 登下校に関する対応など「基本的には学校以外が担うべき業務」の4点、調査・統計等への回答など「学校の業務だが、必ずしも教師が担う必要のない業務」の4点、給食時の対応など「教師の業務だが、負担軽減が可能な業務」の6点について、具体的に、文科省が実施すべき取組を記載しました。

(4)一年単位の変形労働時間制の導入の提言を行った

 労働基準法等の現行制度上、一年単位の変形労働時間制は地方公務員に対して適用除外となっています。しかしながら、地方公務員のうち教員については、児童生徒が学校に登校して授業等の教育活動を行う期間と児童生徒が登校しない長期休業期間とでは、その繁閑の差があるので、地方公共団体の条例等で一年単位の変則労働時間制を導入することができるように国として法制度上の措置を講ずべきであるとしました。

教師の働き方改革のこれから

 答申を受け、文部科学省においては、今後、様々な施策を講じるかと思いますが、ここで、私見をいくつか述べます。

(1)国、地方公共団体、教育委員会は、この答申の趣旨を踏まえて、教師が長時間労働を余儀なくせざるを得ない状況を作り出すことがないようにすべきです。各種調査、報告などを、今一度、ゼロベースで見直すべきです。特に、不夜城と言われるくらいに職員の残業率の高い文科省及び教育委員会における職員の働き方改革を徹底的に実施すべきです。ここの働き方改革なくして学校の改革はありません。

(2)学校管理職は、これまでの慣例慣行で行ってきた教育活動のうち、「基本的には学校以外が担うべき業務」については全廃するとともに、「学校の業務だが、必ずしも教師が担う必要のない業務」や「教師の業務だが、負担軽減が可能な業務」について、棚卸をして、廃止を含めた整理統合の上、必要なことは教育委員会が対応するよう依頼すべきです。また、学校管理職であれば、必ず把握していますが、実は、学校内には、子供のためと考え勤務時間を超えて仕事をする教師と、できるだけ学校の仕事を回避して個人と家庭のことばかり優先して授業以外の仕事を行わない教師が一定数いることも事実です。こうした教師がいるために、いくら校務分掌を組織して機動的な校務運営体制を整えていても、一部の教師にしわ寄せがいくことが実態です。すべての教師がいわゆる「過労死ライン」を超えているわけではないのです。「働く」教師と「働かない」教師の間にメリハリを付けた給与体系の確立が求められます。

(3)世の中の多くの方々は、一般公務員や民間の企業と同じように、教師には残業代が支払われていると誤解しているようです。教師は7時間45分を超えて仕事をしても超過勤務手当(いわゆる残業代)は支給されません。勤務時間の上限ガイドラインは、果たして機能するのでしょうか。学校外での部活動の引率等を含めた上限ガイドラインとなっておりますが、一日2時間の超勤をした場合は、月45時間を超えることが予想されます。この時間数が達成可能であるかどうかです。ガイドラインを超えるからといって、子供との面接指導等が長時間になった場合、「さあ、時間です。私は退勤します」などといって指導を中止できるのでしょうか。また、すべての教員に付与される「教職調整額4%」があるといっても、この勤務時間を超えた超過勤務時間に対する残業代は付かないことも課題となってきます。さらには、多くの教師は上限を超えないように退勤して、残りの仕事は家庭で行うようになります。こうしたことに対する課題解決策が必要です。

(4)スポーツ庁や文化庁が示した部活動に関するガイドラインも課題が残ります。週のうち2日以上の休養日(平日1日と土日で1日)は、保護者の納得が得られていない状況が垣間見られます。また、公立と私立との間で温度差が出始めています。関連団体や保護者の納得を得る必要があります。

 

 

Profile
明海大学副学長
高野敬三

たかの・けいぞう
昭和29年新潟県生まれ。東京都立京橋高校教諭、東京都教育庁指導部高等学校教育指導課長、都立飛鳥高等学校長、東京都教育庁指導部長、東京都教育監・東京都教職員研修センター所長を歴任。平成27年から明海大学教授(教職課程担当)、平成28年度から現職、平成30年より明海大学外国語学部長、明海大学教職課程センター長、明海大学地域学校教育センター長を兼ねる。「不登校に関する調査研究協力者会議」委員、「教職課程コアカリキュラムの在り方に関する検討会議」委員、「中央教育審議会教員養成部会」委員(以上、文部科学省)を歴任。

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