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Q&Aスクール・コンプライアンス

菱村幸彦

最新 Q&A スクール・コンプライアンス120選 Q36 学習指導要領に定める必修科目を履修しなかった生徒の卒業認定はどうなりますか。

NEW学校マネジメント

2020.12.10

最新 Q&A スクール・コンプライアンス120選
第2章 教育指導のコンプライアンス

菱村 幸彦
国立教育政策研究所名誉所員

『最新 Q&Aスクール・コンプライアンス 120選』2020年10月

Q36 学習指導要領に定める必修科目を履修しなかった生徒の卒業認定はどうなりますか。

◯補習授業で是正

 学習指導要領に反する教育課程編成は法令違反となります。私立学校には指導要領の適用がないと誤解している教師もいるようですが、指導要領は、国公私立を問わず、すべての学校に適用されます。指導要領に違反する教育課程は、是正する必要があります。必修「世界史」の未履修が問題となったとき、文部科学省は、未履修の必修科目の補習授業を年度内に実施するよう通知「平成18年度に高等学校の最終年次に在学する必履修科目未履修の生徒の卒業認定等について」(平成18年11月2日)を出しました。問題となった「世界史」は2単位なので、本来70コマの授業が必要ですが、通知では、生徒の負担が荷重にならないよう「50単位時間程度」に縮減できる措置を示しました。

 ここで留意を要するのは、高等学校の指導要領では、履修と修得を区別していることです。「履修」とは、授業に出席することで、通常、授業時数の3分の2程度出席した場合、その科目の履修が認められます。一方、「修得」とは、指導内容を会得することで、履修要件をクリアした上で、その科目の成績が一定水準に達した場合に単位が認定されます。

 指導要領が必修科目について定めるのは、履修義務であって修得義務ではありません。したがって、未履修科目について生徒に求められるのは、未履修科目の補習授業への出席であって、補習を受けた結果、成績が一定水準に達するかどうか(つまり、単位が修得できるかどうか)までは求めていません。いずれにしても、履修認定や修得認定は校長の権限に属します。

◯卒業認定は有効

 問題となるのは、卒業生の扱いです。当初、卒業生の卒業認定が取り消されるのではと心配した向きもありましたが、通知で「取り消す必要はない」と示しました。文部科学省通知が「取り消す必要はない」といったのは、行政法学でいう「瑕疵ある行政行為の治癒の理論」に基づいています。

 行政行為は、法律に適合していなければなりません。しかし、ときに内容や手続などに瑕疵(欠陥)がある場合があります。瑕疵ある行政行為は、普通、無効又は取消しの対象となりますが、無効又は取り消すことにより、相手の信頼を裏切り法律生活の安定を害する場合、その瑕疵が治癒されたものとみなして、適法な行政行為として扱うという理論です。

 必修科目未履修の卒業認定は、指導要領違反(法令違反)で瑕疵ある行政行為です。しかし、それを取り消すと、著しく法的安定を損ないます。そこで瑕疵を治癒したものと見なして、卒業を有効としたわけです。

 実はもう1つ問題がありました。それは調査書の扱いです。大学進学などの際、必要となる調査書について、高校側は、未履修科目を履修したように偽って提出していました。これは刑法155条の公文書偽造罪に該当するおそれがあります。

 このとき調査書について公文書偽造で問題となることはありませんでしたが、未履修騒動の渦中で一人の校長が自殺しました。その校長は「調査書、成績表について、生徒に瑕疵はありません」という遺書を残していました。こうなると、指導要領違反も人の生死にかかわる深刻な問題といわねばなりません。

 

 

Profile
菱村 幸彦(ひしむら・ゆきひこ)
京都大学法学部卒業。昭和34年文部省入省。教科書検定課長、高等学校教育課 長、総務審議官、初等中等教育局長、国立教育研究所長、駒場東邦中学校・高等 学校長などを歴任。現在、国立教育政策研究所名誉所員。
著書に『校長が身につけたい経営に生かすリーガルマインド―身近な事例で学ぶ 教育法規』(教育開発研究所)、『管理職のためのスクール・コンプライアンス』(ぎょうせい)、『戦後教育はなぜ紛糾したのか』(教育開発研究所)、 『はじめて学ぶ教育法規』(教育開発研究所)、『やさしい教育法規の読み方』 (教育開発研究所)など多数。

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最新 Q&Aスクール・コンプライアンス120選 ハラスメント、事件・事故、体罰から感染症対策まで

2020年10月 発売

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菱村幸彦

菱村幸彦

国立教育政策研究所名誉所員

京都大学法学部卒業。昭和34年文部省入省。教科書検定課長、高等学校教育課長、総務審議官、初等中等教育局長、国立教育研究所長、駒場東邦中学校・高等学校長などを歴任。著書に『校長が身につけたい経営に生かすリーガルマインド―身近な事例で学ぶ教育法規』『はじめて学ぶ教育法規』『やさしい教育法規の読み方』(いずれも教育開発研究所)など多数。

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