「見方・考え方」の理解とこれからの教科等の学びの在り方 齊藤一弥(高知県教育委員会事務局学力向上総括専門官)

トピック教育課題

2019.05.22

『新教育課程ライブラリⅡ』Vol.9 2017年

 移行措置期には、新学習指導要領に基づくカリキュラム・マネジメントを迅速かつ確実に推進していく必要がある。中でも資質・能力ベイスでの教育課程編成や授業づくりにおいては、学校全体での教科の「見方・考え方」の主旨や実践化へのプロセスの共有が欠かせない。

「見方・考え方」の共通理解

(1)「見方・考え方」登場の背景

 まず、新学習指導要領の各教科等の目標で「見方・考え方」という言葉が示された背景の理解から進めることが必要である。学習指導要領改訂に先立って、文部科学省が設置した「育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会」の論点整理(2014/3)の中に「見方・考え方」のもととなる内容が示されている。そこでは、資質・能力に基づく学力を三つの視点で整理している(図1参照)。一つ目が教科等を横断する「汎用的なスキル(コンピテンシー)」。二つ目がその対極にある「教科等に固有の知識や個別のスキル」。これは以前からあるいわゆるコンテンツと言われる個別の知識・技能。三つ目が両者の間に位置する「教科等の本質に関わるもの」である。これは各教科等ならではの教科の本質であり、それが教科を超えた汎用的なスキルと各教科等に固有の個別的な知識・技能をつなげていくものとして教科等の「見方・考え方」と呼ばれた。


図1

 このように学力を三つの視点から構造的に示す一方で、新学習指導要領では三つの柱で、学校教育法第30条2項に沿って「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力等」「学びに向かう力、人間性等」と整理している。この資質・能力ベイスでの整理の仕方は、先の三つの視点での分け方とは異なるようにみえるが、これは子どもの学力という構造体をどのように分析するかによって生じたものであり、これまでの学力に関する三つの視点での議論で教科等の本質を重視するという考えが「見方・考え方」という視点で学習指導要領に位置付けられたと考えると分かりやすい。


図2

(2)「見方・考え方」のイメージ

 「見方・考え方」とは、教科等の特質に応じてどのような視点で物事を捉え、どのような考え方で思考していくのかという物事を捉える視点や考え方のことである。また、この「見方・考え方」が、習得・活用・探究という学びの過程の中で働くことを通じて、三つの柱の資質・能力がさらに伸ばされたり、新たな資質・能力が育まれたりし、それによって「見方・考え方」が更に豊かなものに成長していくという相互の関係にもなっている。

 「見方」とは、教科で身に付ける知識・技能等を統合および包括する「キーとなる概念」であり、「考え方」とは、教科ならではの認識や思考、表現の「方法」のことである。子どもがそれまでの学習等で身に付けた「概念」や「方法」が整理されたものが「見方・考え方」であり、子どもはこれらを働かせることによって「深い学び」が期待する教科らしい問題解決を進めることが可能になる。

 例えば、国語科においては、対象と言葉、言葉と言葉の関係を、言葉の意味、働き、使い方等に着目して捉え、その関係性を問い直して意味付けることであり、算数・数学科においては、事象を数量や図形及びそれらの関係などに着目して捉え、論理的、統合的・発展的に考えることなど、対象として何に着眼して、その対象に対してどのようにアプローチするかという教科ならではの関わり方のことである。このような教科ならではの対象への着眼やアプローチの仕方そのものが教科の重要な学力の側面であり、教科を学習する本質的な意義を形成するものの一つが「見方・考え方」ととらえることが重要である。

「見方・考え方」を軸にした教育課程の見直し

 「見方・考え方」は、教科等の学習を通して育成するもの、成長していくものと考えられている。つまり、学習が進むにつれて対象への着眼点はより明確かつ多面的・多角的なものになり、対象へのアプローチの仕方も体系的かつ構造的で、複雑なものにも積極的に関わるなど変容していく。そもそもその教科で育成する「見方・考え方」は、子どもが潜在的に有するものであって、教科指導には、それらをそれぞれの段階の指導の中で顕在化させ、働かせて学習することにより、一段質の高い「見方・考え方」に高めていくことが期待されている。

 例えば、新学習指導要領の小学校算数の図形指導(3年から5年)において、次のように示されている。

  • 3年 図形を構成する要素に着目し、構成の仕方を考えるとともに、図形の性質を見いだし、身の回りのものの形を図形として捉えること。
  • 4年 図形を構成する要素及びそれらの位置関係に着目し、構成の仕方を考察したり、図形の性質を見いだし、その性質を筋道を立てて考え説明したりすること。
  • 5年 図形を構成する要素及び図形間の関係に着目し、構成の仕方を考察したり、図形の性質を見いだし、その性質を筋道を立てて考え説明したりすること。


 学年が進むにつれて、図形という対象への着眼点は「構成要素」から「構成要素の位置関係」、さらには「図形間の位置関係」に広がり、アプローチの仕方も「性質を見いだすこと」から「性質を筋道立てて考え説明すること」に深まっていくことがわかる。

 このように「見方・考え方」を育成させ、またそれが成長していくものとするためには、これまでの教育課程を資質・能力ベイスで見直す必要がある。教科の特質を踏まえて「見方・考え方」が確かに成長していくように、内容や方法の系統や段階、関連等を吟味・分析した上での新教育課程の編成が必要になってくる。

「見方・考え方」を踏まえた授業づくり

 先述の通り、「見方・考え方」も三つの柱の資質・能力も子どもの学力を表すものである。その学力をどのような側面からとらえるかによって異なるわけであるが、資質・能力ベイスの授業をつくるためにはこの両者の関係をいかに捉えるかが鍵になる。

 新学習指導要領に基づく授業づくりを考える際、子どもに身に付ける力やその評価については「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力等」「学びに向かう力、人間性等」で示された三つの柱から検討することが望ましい。しかし、その授業をいかにデザインするかを考えるときには、その教科ならではの「見方・考え方」を育成していくことを軸に据えていくことがとても有効である。「見方・考え方」を念頭に置くことによって、子どもが着眼すべき対象やその内容、対象へのアプローチの仕方など、目指すべき授業の具体が見えやすくなるからである。

 「見方・考え方」というのは、教科ならではの対象への関わり方、アプローチの仕方であるため、指導者にとっては「見方・考え方」を意識することで指導が一貫したものになり、また、授業を受ける側の子どもにとっても学び進む方向がはっきりしたものになる。個別の授業は、それぞれ違う対象、内容を別々に扱うわけだが、子どもにとって授業で扱われるものに連続性や関連性が見えて、大切な概念、観点が理解できるようになるとともに汎用性のある思考方法、表現方法を活用できるようになる。そのような学習の連続の中で知識や技能もばらばらのものではなく、関連したもの、統合されたものとして認識されるようになり確かな概念へと高まっていくことが期待できる。「見方・考え方」を意識した授業に取り組むことによって、これまでの内容ベイスでの学力はもとより、資質・能力ベイスが重視している「思考力、判断力、 表現力等」や「学びに向かう力、人間性等」などの学力もより確かなものになっていくと考えられる。

 目標設定とその評価における三つの柱の資質・能力と具体的な授業デザインや授業コントロールにおける「見方・考え方」が、互いに支え合う互恵的な関係にあることを踏まえた新たな授業づくりに挑戦していくようにしたい。

「見方・考え方」を視点にした教科指導へ

(1)教科における「見方・考え方」の確認

 「見方・考え方」は、今回の改訂によって登場した新しいものではなく、これまでも教科の本質を追究する実践においては重視されてきたことである。しかし、内容ベイスの教育課程においてはそれを位置付けることは少なく、授業で意図的・計画的に十分指導されることもなかった。まずは、学校全体で「見方・考え方」の主旨理解とともに教科におけるそれの具体を共有することが急務であろう。これまで教科によっては「見方」「考え方」が、指導方法や教材分析、評価の観点等でそれぞれ固有に使用されており、従前のものとの差異を確認することなども必要になる。新学習指導要領に基づく授業づくりを正しくスタートする意味でも重要である。

(2)「見方・考え方」を働かせた授業〜文脈の生起〜

 「見方・考え方」は教科指導の土台を支えるものであり、教科の本質を確実に学ぶために不可欠なことである。その「見方・考え方」を子どもが働かせながら学ぶには、真正で本物の教科学習の場を用意することである。先人先達の文化継承としての教科の役割を意識しながら、社会事象の課題解決の中での生活創造および教科内容を築き上げてきた文化創造等、いずれの文脈においても教科の「見方・考え方」を働かせながら学ぶことが大切であり、それによって子ども自らが教科の価値に出会い、それを実感的に納得することを可能にする。

 内容ベイスでの形式的な学習過程に拘泥することなく、教科指導の本質を見極め、三つの柱の資質・能力を育成するための文脈を生成するために、教育課程運営・改善や校内授業研究、教科会等において新しい授業の在り方についての検討が必要になってくる。

(3)「見方・考え方」の明示的指導の充実

 子どもが「見方・考え方」を意識しながら教科の本質を目指していくような明示的指導の充実も欠かせない。「見方・考え方」の育成は、表面上異なった対象への関わり方、アプローチの仕方、そしてそれらを支えるアイデアの裏側に共通するものの存在に気付くようにすることとも言える。

 個々の事実や知識を統合・包括する概念や教科ならではの認識や表現の方法などに子どもが関心をもつように、また子どもの経験群の意味する一段抽象度の高い概念や思考をはぐくむように日々の指導方法を見直していくことが求められている。

 

[引用文献]
・ 文部科学省「育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会」論点整理(2014/3)
・ 文部科学省「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)補足資料 育成を目指す資質・能力の三つの柱」(2016/12)
・ 文部科学省「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)別紙1 各教科等の特質に応じた見方・考え方のイメージ」(2016/12)

 

高知県教育委員会事務局学力向上総括専門官
齊藤一弥
Profile
さいとう・かずや 東京都出身。横浜国立大学大学院教育学研究科修了。横浜市教育委員会授業改善支援課首席指導主事、指導部指導主事室長として「横浜版学習指導要領」策定、横浜型小中一貫教育の企画・推進などに取り組む。平成24年度より横浜市立小学校長を経て平成29年度より現職。文部科学省中央教育審議会教育課程部会算数・数学ワーキンググループ委員、小学校におけるカリキュラム・マネジメントの在り方に関する検討会議協力者。主な著書に『「数学的に考える力」を育てる授業づくり』(東洋館出版社)、『算数 言語活動 実践アイディア集』(小学館)、『シリーズ学びの潮流4 しっかり教える授業・本気で任せる授業』(ぎょうせい)、などがある。

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