教師生活が楽しくラクになる魔法の作戦本部 [最終回] うつは教師の勲章
トピック教育課題
2023.06.12
目次
教師生活が楽しくラクになる魔法の作戦本部
[最終回] うつは教師の勲章
明治大学教授
諸富祥彦
ある小学校の学級担任の教師が、学級崩壊を経験しました。
担任の先生は、崩壊状態にあった学級をなんとか立て直そうとしましたけれども、なかなか立て直すことができませんでした。それどころか、まるで、子どもたちによる集団いじめ。モノを投げられる、「こいつ」呼ばわりして嘲(あざけ)られる……。人格を否定されたような状態に置かれたまま、毎日、教室の中で耐えているうちに、うつ病になってしまったのです。
子どもたちから、クラスの様子を聞いた保護者の間でも、否定的な情報が広まりました。保護者会では、「やめろ、やめろ」とヤメロコールを浴びせられ、「教師として力量不足ではないか」と責めたてられました。
その瞬間に心の中で何かがプツンと音を立てて切れたといいます。うつ病を発症したのです。
「もう限界だ、私は、教師失格だ」
「でもまだ、辞める決心がつかない。その前に、一度、お休みをもらおう」
そう考えて、校長先生のところに休職の相談に行きました。
そのときの、校長がただモノではなかった。
「うつ病になっても、耐えて、担任をやってくれてるんですね。ありがとうございます。実は、私もね、今、この薬飲んでて……」
校長先生は、自分が服用している抗うつ剤を見せてくれました。担任の先生が飲んでいるのと同じ系統のお薬でした。
そしてこう言ってくれたのです。
「君ね、うつ病になるというのは、一生懸命教員をやっている証拠だよ。日々の仕事を流してしている人はうつ病になんかならないからね。
うつは、あなたが日々の仕事に全力で取り組んでいる証拠……。うつは、教師の勲章だよ……」
担任は、この言葉を言われた瞬間に、どんなに気持ちが楽になったかしれないと言います。この校長のもとでならやっていけるかも、と思った担任教師は、結局休職もせず、勤務を続けることができました。
今、多くの教師のメンタルヘルスが不調に陥っています。まじめな教師に仕事が集中し、その結果、「できる教師」「責任感の強い教師」「仕事をいやがならない教師」に仕事が集中し、うつに追い込まれている傾向があります。校長の言うように、「うつは勲章」なのです。
教員同士の支えあいこそ教師のメンタルヘルスを支えるものです。「支え合える職員室」「弱音を吐ける職員室」こそが、今、必要とされているものではないでしょうか。
Profile
諸富祥彦 もろとみ・よしひこ
明治大学文学部教授。教育学博士。日本トランスパーソナル学会会長、日本教育カウンセラー協会理事、日本カウンセリング学会認定カウンセラー会理事、日本生徒指導学会理事。気づきと学びの心理学研究会アウエアネスにおいて年に7回、カウンセリングのワークショップ(体験的研修会)を行っている。教師を支える会代表、現場教師の作戦参謀。臨床心理士、公認心理師、上級教育カウンセラー、ガイダンスカウンセラー、カウンセリング心理士スーパーバイザー、学校心理士スーパーバイザーなどの資格を持つ。単著に『教師が使えるカウンセリングテクニック80』(図書文化社)、『いい教師の条件』(SB新書)、『教師の悩み』(ワニブックスPLUS新書)、『教師の資質』(朝日新書)ほか多数。テレビ・ラジオ出演多数。ホームページ:https://morotomi.net/を参照。『速解チャート付き 教師とSCのためのカウンセリング・テクニック』全5巻(ぎょうせい)好評販売中。