玉置崇の教育放談 [最終回] 自ら情報を取りにいく姿勢を持とう

授業づくりと評価

2023.06.08

玉置崇の教育放談
[最終回] 自ら情報を取りにいく姿勢を持とう

岐阜聖徳学園大学教授 
玉置 崇

『教育実践ライブラリ』Vol.6 2023年3

「今度は個別最適な学びと協働的な学びですか?」という問いに驚き

 ある校長が、私に次のように言われました。

 「文部科学省は、今度は『個別最適な学びと協働的な学び』を推進せよと言っていますね。ということは、これからは『主体的・対話的で深い学び』ではなく、『個別最適な学びと協働的な学び』の実現に向けて頑張れっ! てことですね。次から次へ変更してきて、現場にどうしてほしいのだろうと思いますよ、まったく!」

 以前から「文部科学省は現場のことをわかっていない」とボヤいておられた方(ちなみにそういった方はけっこう存在します)で、その気持ちを口に出されたようです。

 私は思わず「えっ、そのように理解されておられるのですか!」と返してしまいました。その校長は、校長職を経験した私なら同意してくれると思って発言されたのでしょう。ところが、同意するどころか、あなたのとらえはおかしいという返しをしたので、その場の空気が固まってしまいました。

 校長が勘違いしているのを残念に思いながら、どうしてそうなってしまったのだろうと考えてみました。あちこちで講演をさせていただいている身としては、情報を伝えた側に問題があったのではないかと推測しつつ、校長は自分で情報の真意を確かめていないのではないかと考えました。

個別最適な学びと協働的な学びの位置づけ

 読者の皆さんなら誤解はないと思いますが、この校長のとらえは完全に間違っていることを文部科学省「学習指導要領の趣旨の実現に向けた個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に関する参考資料」(令和3年3月発行)をもとに説明しておきます。以下の「本資料作成の趣旨」の一部を読むだけでも、とらえ違いがよくわかります。

 学習指導要領に基づいた児童生徒の資質・能力の育成に向けて、ICT環境を最大限活用し、これまで以上に「個別最適な学び」と「協働的な学び」を一体的に充実し、主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善につなげるとともに、カリキュラム・マネジメントの取組を一層進めるに当たり、留意することが重要と考えられる内容を学習指導要領の総則の構成に沿ってまとめました。

 主体的・対話的で深い学びを実現するためには、「個別最適な学び」と「協働的な学び」を充実させることが有効であると示しています。けっして、主体的・対話的で深い学びを変えると言ってはいません。人は、新たな文言が出てくると、それに置き換わると思い込む傾向がありますので誤解したのかもしれません。

 GIGAスクール構想もしっかりと位置づけられています。「ICT環境を最大限活用」することによって、主体的・対話的で深い学びの実現につながると明言しています。これを踏まえれば、1人1台の情報端末の活用によって、子どもたちの学びが変化することが求められます。

 情報端末配備初年度は、まずは使うことを目的としても致し方なかったと思います。しかし、それが現在も継続したままの学校が散見されます。つまり、端末を活用することが目的となったままなのです。教育委員会への端末稼働報告も、その活用内容を顧みることをせず、時間のみ報告している学校もあるようです。これでは管理職の見識が疑われてもしかたがありません。

情報は自ら取りにいく姿勢を持とう

 学校管理職や教育委員会指導主事など、教育の最新情報を得るべき立場の方々と話すときに、この方は大丈夫だろうかと心配になることがあります。情報にとても疎い方がおられるのです。こうした方々は、自ら最新の教育情報を手に入れる努力を怠っているのだと感じます。だからこそ、先に紹介したような誤解をしたままの方がおられるのだと思います。

 文部科学省サイトでは、会議開催前から、その会議での検討事項やそれに関連した資料を得ることができます。また、翌日には、そこで出された委員の意見をコンパクトに発信している新聞社もあります。その気になれば、資料を手に入れることができます。会議後、フェイスブックに自らの発言を掲載している委員もいます。

 アンテナを高くしておけば容易に最新情報を手にすることができる時代に、待ちの姿勢であっては自らリスクを背負うようなものです。この機会に、自分が情報を得ている手段を整理してみてはどうでしょう。私は、かつて先輩に「少なくとも給料の2、3割は書籍代に充てるべきだ」と言われたことがあります。その言葉に従って、一月に数冊の教育書やビジネス書や定期雑誌を数種類購入していました。内容をさあっと眺め、役立ちそうだと勘が働く箇所だけの拾い読みでしたが、自分を高めるのに大いに役立ちました。まだ校務支援システムがないときに、システム開発を発想できたのは、社内ネットワークを駆使して業務を行っている企業事例を読んだからです。したがって、この冒頭で紹介した校長のような勘違いはしなかったと自負できます。

 

 

Profile
玉置 崇 たまおき・たかし
 1956年生まれ。愛知県公立小中学校教諭、愛知教育大学附属名古屋中学校教官、教頭、校長、愛知県教育委員会主査、教育事務所長などを経験。文部科学省「統合型校務支援システム導入実証研究事業委員長」「新時代の学びにおける先端技術導入実証事業委員」など歴任。「学校経営」「ミドルリーダー」「授業づくり」などの講演多数。著書に『働き方改革時代の校長・副校長のためのスクールマネジメントブック』(明治図書)、『先生と先生を目指す人の最強バイブルまるごと教師論』(EDUCOM)、『先生のための話し方の技術』(明治図書)、『落語流 教えない授業のつくりかた』(誠文堂新光社)など多数。

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