玉置崇の教育放談 [第2回] 学習評価「主体的に学習に取り組む態度」の形骸化が心配

授業づくりと評価

2022.10.19

玉置崇の教育放談
[第2回] 学習評価「主体的に学習に取り組む態度」の形骸化が心配

岐阜聖徳学園大学教授 
玉置 崇

『教育実践ライブラリ』Vol.2 2022年7

 新しい学習指導要領が完全実施となって小学校は3年目、中学校は2年目、高等学校は初年度を迎えました。それに伴い、学習評価の観点は「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」に変更されました。

 心配しているのは、子ども一人一人の「主体的に学習に取り組む態度」を真にとらえようとせず、形だけの評価になっていないかということです。小学校では過去2年、中学校では昨年1年、なんとなく評価をして保護者に通知表で伝えても、質問や疑問を受けることがないことに安心し、「主体的に学習に取り組む態度」の評価について深く考えていない学校や教師が多いように思うのです。

「主体的に学習に取り組む態度」の定義を再確認する

 ここで改めて「主体的に学習に取り組む態度」の定義を確認します。平成31年1月21日に、「中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会」が報告した「児童生徒の学習評価の在り方について(報告)」の「『主体的に学習に取り組む態度』の評価の基本的な考え方」の項には、次のように示されています。

 「主体的に学習に取り組む態度」の評価に際しては、単に継続的な行動や積極的な発言等を行うなど、性格や行動面の傾向を評価するということではなく、各教科等の「主体的に学習に取り組む態度」に係る評価の観点の趣旨に照らして、知識及び技能を獲得したり、思考力、判断力、表現力等を身に付けたりするために、自らの学習状況を把握し、学習の進め方について試行錯誤するなど自らの学習を調整しながら、学ぼうとしているかどうかという意思的な側面を評価することが重要である。

 あなたの学校では、ここに示された基本的な考え方を踏まえた学習評価が実施できているでしょうか。冒頭に示されている注意事項のように「継続的な行動=例 忘れ物がなく、宿題もしっかりやっている」、「積極的な発言=例 挙手の回数が多い」など、子どもの性格や行動を「主体的に学習に取り組む態度」の根拠にしている学校はないでしょうか。

 また、他の2観点「知識・技能」「思考・判断・表現」と関連付けて、この2観点がA評価であるので、「主体的に学習に取り組む態度」もA評価になるだろうと推測評価をしていたり、2観点がC評価であるのは、「主体的に学習に取り組む態度」が身に付いていないからだと関連付けてC評価をしていたりする事例に出合ったことがあります。

 教育熱心な保護者が、先に示した報告書をもとに、「『主体的に学習に取り組む態度』の評価は、ここに示してあることと異なっているように思うのですが……」と問うことがあるかもしれません。そのときになって慌てて学習評価について校内で共有化を図ろうとしても、手遅れになると思うのです。

「振り返り」で「主体的に学習に取り組む態度」を評価する

 報告書には「自らの学習を調整しながら、学ぼうとしているかどうかという意思的な側面を評価すること」と明示されています。意思的な側面を評価するわけですから、子どもの表情からは評価できません。そのため、子どもに内面を表出させる「振り返り」を書かせることが、とても有効で現実的な評価手段だと考えています。

 早稲田大学教授の田中博之氏は、「主体的に学習に取り組む態度の汎用的な評価規準」として、次のことを挙げています(一部)。振り返りの良い内容としてとらえてください。

・友だちとの対話や交流を学びに生かした様子を書いている
・もっとよい学び方はないか考えて書いている
・学習の計画や見通しをもって取り組んでいる様子を書いている
・間違えたり失敗したりしてもねばり強く取り組んだ様子を書いている
・自分の学習の成果と課題を書けている
・自分の学習を改善する具体例を書いている
・新たな疑問や学習課題を書いている

 こうしたことが振り返りに書かれていれば、その箇所にアンダーラインや二重丸をつけて価値付けをします。振り返りの質や自ら学習を調整しようとする子どもの意欲を高めることができるでしょう。これならば、多忙な学校現場でも実行可能な「主体的に学習に取り組む態度」の評価方法だと思います。

 ただし小学校では、全教科において、子どもが振り返りを書いて、それを教師が見取ることは大変なことです。当初は、いくつかの教科に限って行えばよいでしょう。継続することで、子ども自身が振り返りの価値に気づき、指示をしなくても楽しんで書くようになった例をいくつも把握しています。継続することが大切です。「振り返る時間がなかなかないのです」という悩みを聞くことがありますが、振り返りを書くのは、必ずしも授業の終わりではありません。「授業で心に留めておきたいこと、心が動いたことを書いておきましょう」と子どもたちに伝えることで、授業の進行中に少しずつ書き始める子どもがいます。指導の参考にしていただければ幸いです。

 

 

Profile
玉置 崇 たまおき・たかし
 1956年生まれ。愛知県公立小中学校教諭、愛知教育大学附属名古屋中学校教官、教頭、校長、愛知県教育委員会主査、教育事務所長などを経験。文部科学省「統合型校務支援システム導入実証研究事業委員長」「新時代の学びにおける先端技術導入実証事業委員」など歴任。「学校経営」「ミドルリーダー」「授業づくり」などの講演多数。著書に『働き方改革時代の校長・副校長のためのスクールマネジメントブック』(明治図書)、『先生と先生を目指す人の最強バイブルまるごと教師論』(EDUCOM)、『先生のための話し方の技術』(明治図書)、『落語流 教えない授業のつくりかた』(誠文堂新光社)など多数。

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