message 次世代型授業をニューノーマルに ─協働的な学びをどう実現するか

トピック教育課題

2022.09.07

message 次世代型授業をニューノーマルに ─協働的な学びをどう実現するか

鎌倉女子大学教授
高橋正尚

『教育実践ライブラリ』Vol.1 2022年5

学校経営計画(教育課程の編成・実践・評価・改善)の作成

 学校経営計画は、教育の質を保証し、学力の向上を図るために校長が経営ビジョンを明確にし、学校教育目標、重点目標、中期目標、年度の目標を立て、各年度における学習指導、生徒指導、進路指導等の教育活動や学校運営の目標とこれを達成するための具体的な方策や評価目標を示したものである。学習指導要領の内容ベースのカリキュラムは評価基準が明確であるが、資質・能力ベースの定義は各学校で捉え方が異なることや、教員一人一人に様々な考え方があったりするので、定義、評価の方向性等を明確にして取り組んでいく必要がある。

コンピテンシーベースの授業を実現する組織体制づくり

 教育目標を具現化するため、校長のリーダーシップが発揮できる組織を構築する必要がある。学力向上に対する教職員の意識を高めるために、我が校では教育課程委員会の中に「教育課程編成」と「指導法の改善」を推進組織とした「学力向上チーム」と「分析チーム」を設置した。学力向上チームは教育課程編成の推進や指導法の改善を検討する。分析チームは各種データを分析して成果や課題を見出し、その結果をまとめる。

 学力の重点目標と現在の学習状況との乖離を徹底的に分析し、目標を達成する方法を絶えず工夫改善していく。校長は、客観的な資料を用いて次の方策を検討し教職員に諮る。

 資料の活用方法には、教科指導の改善、学習相談、学習集会、学習だより、保護者会での説明、校長面談、データに基づく教職員研修等がある。教科指導の改善には、授業内容、教材、授業方法、習熟度別指導法、主体的な学習態度の育成方法等の再検討が含まれる。

 学校運営改善のために求められるものは、校長のリーダーシップの下、それを支える組織の形成・強化を図ることである。特に、ミドルリーダーの育成は校長の重要な役目である。

 ミドルリーダーは担当する校務や学校規模、教職員構成、学校文化、地域によってその役割と活動は多種多様であるが、プランを作成する力やチームをまとめる力、課題を短期間で解決する力、共同学習の技法を用いて指導する力、ICT活用等の能力が必要である。また、管理職のサポートや各校務分掌・各学年のパイプ役になるだけでなく、若手教員の育成にもリーダーシップを発揮することが期待されている。教職員が組織体として十分に機能していくには、教職員一人一人のフォロワーシップも重要になってくる。教職員それぞれが仕事にやりがいを持ち、チームとして機能していけるよう校務分掌などへの配置や見直しを図っていくことも大切である。

A中学校における総合的な学習の時間(EGGゼミ)の事例

(1)課題発見・解決能力や論理的思考力を育成するEGGゼミ
 EGGゼミでは、アクティブ・ラーニングに必要なスキルの習得を図るとともに、課題発見・解決能力や論理的思考力を育成するため、多様な言語活動、調査、探究・発表活動に取り組む。

 また、EGGゼミでは、中学校3年間を通して七つの探究的な学習が発展的に順序だてて配置する。「世界を幸せにする第一歩」という3年間に共通するテーマを設定し、日常生活や社会に広く目を向けて課題を設定したり、次の課題につなげたりできるようにする。

 第1学年では、二つの探究的な学習を行う。前期では主に図書館やインターネット等を利用して資料による調査をし、個人で新聞にまとめる。その成果を基に、後期ではグループで身近なところの「世界を幸せにする第一歩」となるような実践をし、個人単位ではレポートとしてまとめ、グループ単位ではポスターセッションで発表する。特に、アクティブ・ラーニングに必要なスキルを数多く集中して学習することで、それらのスキルを各教科の授業で活用できるようすることが重要である。

 第2学年では、1年間を4期に分けて四つの探究的な学習を行う。1期・2期では「芸術的な作品の制作」「英語でのスピーチ」を一斉展開で行い、3期・4期では「HPの作成」「ミニ論文集作り」を行う。これらを通して、生徒に多様な探究的・協働的・体験的な学習活動を経験させる。

 第3学年では、1年間を通して個人での卒業研究に取り組む。これまで学んだスキルを駆使して、自分で探究したい課題を見つけ、調査・分析して論文にまとめ、シンポジウムでプレゼンテーションを行う。

(2)豊かなコミュニケーション力を育成するEGG体験
 入学して6〜8か月の期間にお互いに助け合って課題解決させる機会や自由に発言し合う機会を設けるなど生徒が安心して過ごせる学習環境を作るプログラム(構成的グループエンカウンター、コミュニケーション研修)を実施する。また、入学直後から「学校はわからないことを学ぶところ。わからないことは恥ずかしいことではない」という意識の定着を図る。このような取組で生徒一人一人がコミュニケーションのスキルを身に付けたことで、A中学校が目指す「安心して学べる集団づくり」に大変よい影響をもたらした。

 総合的な学習の時間や様々な教育活動の場面においてICTを活用すれば、必要な情報を容易に収集することができるだけでなく、Zoomでのビデオ会議を用いることで、時間や距離の制約を取り払うことができ、ペアやグループでの意見交換や論文の指導をはじめ、遠方にいる講師からインターネットを介して講義を受けることができる。また、個々の理解度や到達度に応じた学習も可能になる。

 

 

Profile
高橋正尚 たかはし・まさなお
 昭和26年島根県生まれ、千葉県公立小学校・横浜市公立中学校教諭・副校長・校長、横浜国立大学教育学研究科修了、横浜市教育委員会首席指導主事、横浜市立南高等学校附属中学校校長。平成28年より鎌倉女子大学教授・初等・中等教育統括部長、令和2年より鎌倉女子大学理事、令和4年より中・高等部部長(校長)を兼務。

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特集:個別最適で協働的な学びをどう実現するか
~令和の授業イノベーションを考える~

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