授業力を上げるためにリーダーは?

寺崎千秋

授業力を上げるためにリーダーは?[最終回]「学習指導・学習評価計画」の作成・改善

トピック教育課題

2021.06.24

授業力を上げるためにリーダーは?
[最終回]「学習指導・学習評価計画」の作成・改善

一般財団法人教育調査研究所研究部長 
寺崎千秋

『新教育ライブラリ Premier』Vol.6 2021年3月

「指導と評価」から「学習指導・学習評価」へ

 新教育課程では、「生きる力」を育むため「資質・能力の三つの柱」として「基礎的・基本的な知識・技能の習得」「思考力、判断力、表現力等の育成」「学びに向かう力、人間性等の涵養」を重視している。これを身に付けるため、各学校は「社会に開かれた教育課程」を編成し、その実施に当たっては「カリキュラム・マネジメント」の確立とともに「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善に取り組んでいる。主体的な学び、対話的な学び、深い学びをそれぞれ授業改善の視点として、子供たちの学びが深まる学習指導の在り方を研修し力量を高める努力をしている。これにより、これまでの教師中心の一斉画一型授業、説明中心の子供を受け身にする授業、知識・理解重視に偏った授業から脱皮し、子供の主体的で対話的な学びが成立し、子供が学びを深め資質・能力を身に付けていく学習指導への転換が期待されている。教えることに偏った「指導」から子供の主体的な学びを成立させる「学習指導」への転換である。したがって、計画は「いかにうまく指導し教えるか」から、「いかに子供が自ら学ぶように学習指導するか」を視点にした計画となるように工夫したい。評価も教師の指導の過程や結果の評価中心から、子供の学びの状況の評価、その過程や結果からの学習指導や計画の評価という「学習評価」として受け止めることが必要である。リーダーは若手教員等とこの認識を共有することを出発点とする。

学習指導・学習評価計画の作成

 学習指導計画作成の手始めは、新学習指導要領の各教科等の目標及び内容が資質・能力の三つの柱で構成されていることやその扱い方などを「解説書」で確認する。その目標・内容等が子供の主体的な学びで実現することを目指して計画を作成する。

 順序としてまず、学習指導要領の目標や内容等を基にする指導内容にふさわしい教材を開発したり選択したりする。主たる教材として教科書の研究をして計画に位置付ける。その際、教科書会社作成の指導書等も参考にする。次に、教材をどのような学習活動で取り扱うかを検討し位置付ける。子供たちの主体的な学びを引き出し学びに向かっていくような教材の提示、学習意欲や問いを引き出す発問を関連付けて位置付ける。このように、学習指導計画に何をどのように学習するかを位置付けて学習過程を構成する。その核は問題の発見・解決過程となるように工夫する。学習指導計画には子供の主体的な活動が生起し発展していくようにするために、教師が子供の学習活動の何をどのように支援し補助するかなどを学習指導上の留意点として明記しておく。

 以上の計画に並行して、学習評価を学習過程のどの時点で、どのような学習活動について、どんな観点からどのように行うかなど、評価の観点、評価規準(基準)、評価方法、評価の記録、評価後の学習指導の手立てなどを示す。これにより学習指導計画と学習評価計画を一体的に作成することになる。

実践記録の集積と分析から改善へ

 授業は学習指導・学習評価計画に基づいて実施される。多くは、学級の実態に即した計画を週の学習指導計画(週案)に具体化して実施し、その成果や課題も週案に記録している。教師はこれらに沿って子供の学びの姿を見取り、聞き取り、感じ取り、読み取るなどに努める。その結果をすぐに次の学習指導につなげたり生かしたりして、子供の学びがよりよい方向に向かうように努める。また、評価結果を記録したり記憶に留めたりして、授業後に振り返りを行い週案などに記録し、今後の改善に生かすようにする。これらはカリキュラム・マネジメントの一番の現場であり、改善の根拠ともなるものである。

 学習指導・学習評価計画に沿って実践し週案などに記録した結果を、単元ごと、週や月、学期ごとなどに集積し分析することは、学習指導さらには学習指導・学習評価計画の改善に重要な作業であり、やりっぱなしにしてはならない。子供たちの学びの過程や結果の記録から読み取れる子供の成長、よさや進歩、今後の可能性などの把握に努める。一方で十分な成果を得られていない点について学習指導・学習評価上の課題を明らかにし、これらをどう改善するかを判断し改善策を講じて、学習指導・学習評価計画を改善する。こうした作業は地味な取組だが、確実に教師の力量を高める。リーダーは折々に若手を巻き込んで一緒に取り組み、分析や改善のアドバイスしながらこの経験を積めるようにしたい。

個別最適な学びの実現等、新たな視点での改善

 中央教育審議会は「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~」を答申した。学習指導・学習評価計画の作成と改善に当たって答申に示された視点を踏まえるようにする。
 
 一つは、「個別最適な学び」である。これまでも重視してきた「個に応じた指導」の在り方を、一人一人の特性や学習進度、学習到達度等に応じ、指導方法・教材や学習時間等の柔軟な提供を行うなどの「指導の個別化」と、一人一人に応じた学習活動や学習課題に取り組む機会を提供することで、子供自身が学習が最適となるように調整する「学習の個性化」として具体化しその充実を求めている。この「個に応じた指導」を学習者視点から整理したのが「個別最適な学び」であり、この視点を計画にどう位置付けるかが課題である。他の一つが「これまでの実践とICTとの最適な組み合わせを実現する」こと。GIGAスクール構想により、基盤的なツールとして1人1台の端末と高速大容量の通信ネットワーク環境が実現する。これを生かし端末を日常的に活用すること。これまでの実践とICTとをどのように組み合わせれば最適なものになるのかを考え工夫すること。これらをどのように評価するかを計画に位置付けることなど。これらの計画と実現が課題である。

 答申を踏まえ、以上の課題にリーダーは先頭に立ち若手の強みを生かしながらリードしてほしい。

 

 

Profile
寺崎千秋(てらさき・ちあき)
全国連合小学校長会会長、東京学芸大学教職大学院特任教授等を歴任。現在、一般財団法人教育調査研究所評議員・研究部長、教育新聞論説委員、公立小学校2校の学校運営協議会委員、小中学校の校内研究・研修の講師、教育委員会主催の教員研修講師等を務めている。

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一般財団法人教育調査研究所評議員・研究部長

全国連合小学校長会会長、東京学芸大学教職大学院特任教授等を歴任。現在、一般財団法人教育調査研究所評議員・研究部長、教育新聞論説委員、公立小学校2校の学校運営協議会委員、小中学校の校内研究・研修の講師、教育委員会主催の教員研修講師等を務めている。

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