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やってはいけない外国語の授業あれこれ

菅正隆

やってはいけない 外国語の授業あれこれ[最終回]原点に立ち戻って考えてみる その手法、英語嫌いを育てていませんか

NEWトピック教育課題

2021.06.28

やってはいけない 外国語の授業あれこれ[最終回]
原点に立ち戻って考えてみる その手法、英語嫌いを育てていませんか

大阪樟蔭女子大学教授 
菅 正隆

『新教育ライブラリ Premier』Vol.6 2021年3

1.原点に立ち戻る

 今から遡ること15年程前(2005年当時)、小学校に英語を導入するために奔騰していた頃の話である。世間では、導入を「よし」としない論客がマスコミを日々賑わせていた。お茶の水女子大学の藤原正彦氏、立教大学の鳥飼玖美子氏、慶應大学の悪友大津由紀雄氏の錚々たるメンバーが、小学校英語導入に反対の論を張ったのである。また、産経新聞に至っては、名指しは避けたものの、私を標的に導入反対の記事を載せた。彼らは、英語以前に母語教育、国語教育の重要性を説いた。また、中学校のスキル中心の前倒しとなることに反対したのである。もしそれならば、私も反対したであろう。国語教育を蔑ろにしろというわけではない。今後訪れるであろうグローバル社会に対応すべく、英語教育とはいっても、それ以上に国際理解教育や異文化理解教育、異文化共生教育、そして、コミュニケーション能力の向上を図るためにも、英語教育の姿を借りて、子ども中心に情意面を育てようとしたのである。そのために、「コミュニケーション能力の素地を育てる」との文言を生み出したのである。

 それ以前の2002年実施の学習指導要領では、総合的な学習の時間に、各学校の判断により、「国際理解に関する学習の一環としての外国語会話等」を行うことが可能となり、その際、「学校の実態等に応じ、児童が外国語に触れたり、外国の生活や文化などに慣れ親しんだりするなど小学校段階にふさわしい体験的な学習が行われるようにする」とされた。そして、2011年に高学年で外国語活動が実施された。また、2020年からの外国語活動(中学年)では、学習指導要領に、「外国語活動を通して、外国語や外国の文化のみならず、国語や我が国の文化についても併せて理解を深めるようにすること。言語活動で扱う題材についても、我が国の文化や英語の背景にある文化に対する関心を高め、理解を深めようとする態度を養うのに役立つものとすること」とある。また、外国語(高学年)には、「広い視野から国際理解を深め、国際社会と向き合うことが求められている我が国の一員としての自覚を高めるとともに、国際協調の精神を養うことに役立つこと」とある。心地良い文言である。これらは元を正せば、大津由紀雄氏等の理想を明文化したものでもある。しかし、現実はどうか。

2.現実を直視する

 大阪市内のある国立大学附属の小学校では、外国語活動や外国語に十分な時間を確保せず、ほとんど実施していない。聞くと「中学校入試に関係ないので、時間を国算理社に振り分け、隙間時間でほんの少し行っている」「塾で英語を学習しているので必要ない」などと答える。これが現実である。外国語活動や外国語の重要性が全く認識されていない。

 また、全国を見渡すと、学習指導要領の理念や哲学がほぼ教師には伝わっておらず、パターン・プラクティス(反復練習)や暗記、フォニックス、単語テスト、スキル向上のみを目指した授業、まさに中学校の前倒しに過ぎない授業が行われている。これでは、先の論客の考えどおり、私も反対の旗を振りたくなる。このままでは、小学校卒業段階で、多くの英語嫌いをつくり、中学校との連携や一貫教育も水の泡と消えてしまいかねない。

●やってはいけない授業のパターン

(1)英語のための英語を教える。
 中学校及び高等学校での英語の授業を思い起こしていただきたい。教科書では、さまざまなテーマが取り扱われていたことを記憶していると思う。例えば、キング牧師のスピーチ ‘I have a dream.’ などの人権問題や、セヴァン・スズキの国連地球環境サミットでのスピーチによる環境問題など、英語を通してさまざまなテーマを扱い、生徒の知識、情操教育を行っている。ただ単に、スキル向上を図るものにはなっていないはずである。

 一方、小学校を見てみよう。中学年の ‘Let's Try!’ のテキストや高学年の教科書をじっくり読んでみると、スキル向上だけを目指しているものでないことが分かる。主体的・対話的で深い学びの中で、知的年齢に合った情操教育が出口として求められている。それなのに現場では、英語のスキル向上のみを目的とした授業が行われている。まさに、かつて大津由紀雄氏が揶揄した「ピーチクパーチク」の類である。これでは、英語のための英語の授業であって、そこには、理念も哲学もなく、英語嫌いを生み出す元凶だけになっている。これを打破するためには、教師が子どもたちのどのような情意面を育て、どのようなメッセージを伝えるのかを明白にすることである。もちろん、教科書にそれらが無くてもよい。例えば、動物を扱う単元では、パンダやサイなどの絶滅危惧種について触れてもよいし、食べ物に関しては、食糧問題や水資源について話してもよいだろう。友達とのペアワークやグループワークでは、相手をリスペクトするコミュニケーションの重要性を認識させながら、いじめのないクラスづくりの基礎を構築してもよい。つまりは、他の教科では取り扱うことのない領域に関して、英語をツールとして情意面の育成を図ることで、子どもも教師もウィンウィンの関係を保つことである。

「何を伝え、何を教えるのか」の確固たる考えを持って、授業に当たることである。

(2)テクニックやスキルのみに走る。
 かつて、日本経済新聞の記者が2005年当時、私に「小学校に英語教育が導入されれば、2000億円もの市場が開ける」と話した。内訳は英語塾の費用、ALTの雇用、教材教具の購入費用等である。この予想は、奇しくも的中した。多くの企業が参入し、一大産業に成長した。それらは主に、ALTの派遣会社や小学生向けの英語塾、学校採用の教材やテストの類を販売する会社である。学校や教師はこれらに踊らされて、授業がスキルベースになり、テクニック向上を図る英語塾さながらの授業になっている。

 当然、子どもたちの多くは英語を嫌いになっている。教室からは、訳も分からずに「ア、ア、ア、アップル」などのフォニックスの練習声が聞こえる。後で子どもに「英語は好き?」と尋ねると、「大嫌い」と返ってくる。それは当然である。訳も分からずに発音を強いられ、ルールをたたき込まれているだけである。これが、真に学習指導要領に沿った授業であろうか。小学校に求められていることは何か、もう一度立ち止まって考えていただきたい。

 また、教師側にも、たとえ英語が苦手でも、子どもたちに伝えたいこと、身に付けてもらいたいことがたくさんあるはずである。それに英語の服を着せて、楽しく身に付けさせればよいのである。これができるのは、小学校の教師ならではのことである。目を覚ます時が来ているのである。

□(3)SDGsを意識しない授業はナンセンス。
 さまざまな報道がなされているとおり、今、我々にも子どもたちにも、地球を温存させるために、環境問題は大きなテーマとなっている。それなのに、外国語活動や外国語の授業となると、さまざまな教材や教具を手作りする。それに要する紙やマジック類等、膨大な量である。ここでも、一歩立ち止まって考えてみてはいかがだろう。先輩の使った教具を借りたり、廃棄物を教具にしたり、ITを使ったりと、脱用紙や脱マジック類や、DVD付きの本(SDGsの考え方に反する)を購入するなどは止めにするべきである。このことも子どもたちに伝え、地球に優しい授業を目指したいものである。

 

Profile
菅 正隆(かん・まさたか)
岩手県北上市生まれ。大阪府立高校教諭、大阪府教育委員会指導主事、大阪府教育センター主任指導主事、文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官並びに国立教育政策研究所教育課程研究センター教育課程調査官を経て現職。調査官時代には小学校外国語活動の導入、学習指導要領作成等を行う。

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大阪樟蔭女子大学教授

岩手県北上市生まれ。大阪府立高校教諭、大阪府教育委員会指導主事、大阪府教育センター主任指導主事、文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官並びに国立教育政策研究所教育課程研究センター教育課程調査官を経て現職。調査官時代には小学校外国語活動の導入、学習指導要領作成等を行う。

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