小学校の改訂ポイント 寺崎千秋(一財教育調査研究所研究部長)

トピック教育課題

2019.05.16

『新教育課程ライブラリⅡ』Vol.1 2017年

小学校教育の基本と、低・中・高学年のそれぞれの課題

 小学校段階については、小学校教育の基本として、幼児教育や中学校教育との接続を図りながら、子供たちにとって幅のある6年間を、低学年、中学年、高学年の発達の段階に応じた資質・能力の在り方や指導上の配慮を行うことを求めている。以下は要点。

 〈低学年〉2年間で生じる学力差がその後に大きく影響するとの指摘を踏まえ、中学年以降の学習の素地の形成や一人一人のつまずきを早期に見いだし指導上の配慮を行う。

 〈中学年〉低学年において具体的な活動や体験を通じて身に付けたことを、次第に抽象化する各教科等の特質に応じた学びに円滑に移行できるようにする指導上の配慮を行っていく。

 〈高学年〉子供たちの抽象的な思考が高まる時期であり、教科等の学習内容の理解をより深め、資質・能力の育成につなげる観点、生徒指導上の課題への対応の観点から、学級担任のよさを生かしつつ専科指導を充実することによる指導の専門性の強化を図る。

 以上のように、高等学校卒業までに育成を目指す資質・能力や、義務教育を通じて育成を目指す資質・能力の在り方などを見通して教育課程を編成することが必要である。

言語活動の育成と国語教育、外国語教育の改善・充実

 答申では、学習や生活の基盤作りという観点から、言語を扱う国語教育と外国語教育の改善・充実と両者の連携を図り、言語能力の育成を推進するとした。

 国語教育に関する課題は、目的に応じて情報を整理して文章にすることや文章全体の構成や表現の工夫を捉えることなどである。これに対応すべく教科目標や内容の見直しが図られるが、特に、低学年において、語彙量を増やしたり、語彙力を伸ばしたりして、語彙を生活の中で活用できるように指導の改善・充実を求めている。学力調査等でとかく高学年の国語力に目が向きがちであるが、改めて低学年からの国語力の向上、言語活動の充実を重視した教育課程の編成に取り組む必要がある。

 外国語教育の充実に関しては、小・中・高等学校を通じて一貫して育成を目指す「聞くこと」「読むこと」「話すこと(やり取り)」「話すこと(発表)」「書くこと」の領域別の目標を設定して初等中等教育全体を見通して確実に育成することを求めている。その上で中学年から「聞くこと」「話すこと」を中心とした外国語活動を通じて外国語に慣れ親しみ、外国語学習への動機付けを高めた上で、高学年から発達の段階に応じて段階的に文字を「読むこと」及び「書くこと」を加えて、総合的・系統的に扱う教科学習を行うとしている。時数は、高学年で70単位時間、中学年で35単位時間が必要としている。

 答申では、高学年、中学年それぞれの位置づけについての方向性や語彙、表現などについて重視することを示しており、今後、これらの基本を理解し踏まえることが大切である。

 また、言語能力向上の観点から、国語教育との関連を図り言語としての共通性や固有の特徴に気付くなどの相乗的な効果を生み出し、言語能力の効果的な育成につなげていくことを求めている。このことは教科等横断的なカリキュラム・マネジメントであり、教育課程編成に当たって重要な視点である。

情報技術を手段として活用する力やプログラミング的思考の育成

 将来の予測が難しい社会においては、情報や情報技術を受け身で捉えるのではなく、手段として主体的に活用していく力が求められる。そのためには、発達の段階に応じて情報活用力を体系的に学んでいくことが重要とし、小学校段階では、情報技術の基本的操作の着実な習得を求めている。これまでも情報技術の基本的操作等は教育課程に位置づけて実施してきたが、今後その能力が着実に身に付くことを求め指導の充実を図る必要がある。

 また、将来どのような職業に就くとしても時代を越えて普遍的に求められる「プログラミング的思考」を含むプログラミング教育の実施が求められるとし、小学校においてもその実情などに応じて、プログラミング教育を行う単元を位置づける学年や教科等を決め指導内容を計画・実施していくとしている。今後、指導事例集や教材等の開発・改善や研修の実施、環境整備が行われるが、これらと連携して教育課程の編成や指導力の向上などに努めることが必要である。

小学校における弾力的な時間割編成

 各小学校では、学習指導要領に基づき育成を目指す資質・能力を設定し、時間割の編成を含めて指導内容を体系化したり、地域や社会との連携・協働の中で、どのように人的・物的資源を活用していくかを計画したりしていくことが求められている。このことは学校の教育目標の見直しであり、それを実現するカリキュラム・マネジメントである。次期教育課程は学びの量と質の双方が重要であるとし、教科と教科等横断的な学習の双方の充実を求めている。そのために各教科等の指導内容は維持しつつ、資質・能力育成の観点から質的な向上を図ることを前提とし、指導内容や授業時数の削減はしないとしている。一方で、高学年の外国語の教科化や中学年の外国語活動の導入による授業時数増に対応すべく、短時間学習の導入等の時間割の弾力的な編成の工夫が必要となっている。答申の中でも時間割編成の事例や配慮事項が示されているが、今後、文部科学省の検討会議が成果を普及するとしており、これらを参考にして各学校で創意工夫することが求められる。

 

一般財団法人教育調査研究所研究部長
寺崎千秋
Profile
てらさき・ちあき 一般財団法人教育調査研究所研究部長。東京都公立小学校教員。東京都教育委員会指導主事、同主任指導主事。都立教育研究所教科研究部長。練馬区立開進第三小学校長、同光和小学校長。全国連合小学校長会会長。全国生活科・総合的な学習教育研究協議会会長。生活科・総合的な学習教育学会常任理事。中央教育審議会臨時委員。文部科学省政策評価有識者会議委員。東京学芸大学教職大学院特任教授。著書『新教育課程完全実施の授業力更新』他、多数。

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特集:中教審答申を読む(1)─改訂の基本的方向

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