「社会に開かれた教育課程」とカリキュラム・マネジメント 天笠 茂(千葉大学特任教授)

トピック教育課題

2019.05.14

新教育課程ライブラリⅡ Vol.1 2017年

学習指導要領改訂のキーワード

 次の学習指導要領の基本的な方向性について、2016(平成28)年12月21日、中央教育審議会は、
「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について」(答申)(以下、「答申」)をまとめた。
 本稿では、この「答申」の第1部第4章「学習指導要領等の枠組みの改善と『社会に開かれた教育課程』」を取り上げ、そのポイントについて解説することにしたい。
 この章では、このたびの学習指導要領改訂の基本的な方向性、及び、全体的な枠組みを記しており、次のようなキーワードをもって、構成されている。
・キーワード1:「社会に開かれた教育課程」
・キーワード2:「学びの地図」
・キーワード3:「カリキュラム・マネジメント」
・キーワード4:「主体的・対話的で深い学び」(「アクティブ・ラーニング」)
 「社会に開かれた教育課程」に込められた理念を掲げ、実現のための方策として「カリキュラム・マネジメント」を、さらに、「アクティブ・ラーニング」を提起する。そして、その進め方や手順を総則に記す。このような学習指導要領改訂の方向性や全体的な姿を述べたのが、本章ということになる。
 以下、これらキーワードについて、意味するところを解説してみたい。

「社会に開かれた教育課程」について

 「答申」は、これからの教育課程は、社会の変化に柔軟であることが欠かせないとして、次にあげる三つの要件を備えた「社会に開かれた教育課程」であることが求められると述べている。
① 社会や世界の状況を幅広く視野に入れ、よりよい学校教育を通じてよりよい社会を創るという目標を持ち、教育課程を介してその目標を社会と共有していくこと。
② これからの社会を創り出していく子供たちが、社会や世界に向き合い関わり合い、自らの人生を切り拓いていくために求められる資質・能力とは何かを、教育課程において明確化し育んでいくこと。
③ 教育課程の実施に当たって、地域の人的・物的資源を活用したり、放課後や土曜日等を活用した社会教育との連携を図ったりし、学校教育を学校内に閉じずに、その目指すところを社会と共有・連携しながら実現させること。
 学校と社会の関係をいかにとらえていくか。社会との距離を保ち、世の中の複雑な動きを純粋化、単純化した環境を学校に求めた時代もあったように、両者の関係をめぐっては、古くて新しいテーマとして常に議論が交わされてきた。
 このたび、「答申」は、学校について、社会や世界との接点を持ち、様々な人々とつながりを保ちながら学ぶことのできる開かれた環境を維持する必要があるとの認識を示し、教育課程もまた社会とのつながりを大切にすべきと指摘する。
 そこには、社会や世界の急速な変化と学校の教育課程の間に無視できないギャップに対する危機意識がある。日進月歩で進む社会や世界の動きに対して、学校が、組織にしても、教育課程にしても、そのもとで仕事をする教職員にしても、あまりに硬直的であり、もっと柔軟に状況に立ち向かえないものか、という認識の存在がある。
 変化に自立的に立ち向かう資質・能力の育成を通して人生の基礎を築いていく。そのための教育課程であるには、社会や世界の状況を幅広く視野に入れることが、また、求められる資質・能力を明らかにすることが、そして、その実施にあたって社会と共有・連携することが必要であるという。
 このように、めざすべき改善の方向性について、その総称として掲げられたのが「社会に開かれた教育課程」であり、このたびの学習指導要領改訂の理念として位置づけられた。「社会に開かれた教育課程」の実現を通して必要な資質・能力の育成を図る。そのための方策として示されたのが、「カリキュラム・マネジメント」であり、また、「アクティブ・ラーニング」である。

学習指導要領の枠組みの見直し

 このたびの改訂では、学習指導要領の枠組みの見直しが掲げられ、そのもとに、一つは「学びの地図」が、もう一つに総則の抜本的改善があげられている。

(1)「学びの地図」について
 「答申」は、多様で質の高い学びを引き出すためには、教育課程や学習指導要領が、学びの意義を自覚する手掛かりを見いだすなど、子どもたちをはじめ、家庭や地域、社会の関係者などにも幅広く活用できるものとなることが求められていると指摘する。
 その上で、学習指導要領が、子どもをはじめ多くの人々にとって、「学びの地図」となることが求められる、と次のように述べている。
 すなわち、教科等や学校段階を越えて教育関係者の間で共有が図られるなど、「学校教育を通じて子供たちが身に付けるべき資質・能力や学ぶべき内容などの全体像を分かりやすく見渡せる『学びの地図』」となることが求められている、と。
 このような、学習指導要領の見直しをめぐる審議にあたって、必要な事項として提示されたのが、次にあげる6点である。
① 「何ができるようになるか」(育成を目指す資質・能力)
② 「何を学ぶか」(教科等を学ぶ意義と、教科等間・学校段階間のつながりを踏まえた教育課程の編成)
③ 「どのように学ぶか」(各教科等の指導計画の作成と実施、学習・指導の改善・充実)
④ 「子供一人一人の発達をどのように支援するか」(子供の発達を踏まえた指導)
⑤ 「何が身に付いたか」(学習評価の充実)
⑥ 「実施するために何が必要か」(学習指導要領等の理念を実現するために必要な方策)
 これらが、「答申」の第1部を構成するそれぞれの章となったことを確認しておきたい。

(2)総則の抜本的改善について
 一方、学習指導要領の枠組みの見直しは、総則の抜本的改善と結びついている。そこには、教育課程の編成にあたって総則が一定の役割を果たしてきたものの、それが中途半端であったとの認識が存在する。この点をふまえ、総則を構成する必要な事項について、各学校における教育課程編成の手順を追ってわかりやすくなるように整理するとした。
 そのねらいについて、全ての教職員が校内研修や多様な研修の場を通じて、新しい教育課程の考え方について理解を深めることをあげている。
 総則を日常的に参照し活用することによって、教育課程の理解を深める。それは、これまでの教員研修や校内研修の進め方に対する新たな提起といったねらいも含まれている。
 また、総則の抜本的改善には、「カリキュラム・マネジメント」の導入を図るねらいもある。すなわち、日常的に総則を参照することを通して、各学校における「カリキュラム・マネジメント」を軸とした学校教育の改善・充実を図ることもねらいとされている。

「カリキュラム・マネジメント」について

 「カリキュラム・マネジメント」とは、各学校において、総合的な教育計画である教育課程を核にして、各教科等の教育内容の組織化などを図り、経営資源の投入や協働を促すなど諸条件の効果的な活用を通して、学校教育目標の実現をめざす営みである。
 「答申」は、学校の全体的な在り方の改善の重要性について、「各学校が編成する教育課程を軸に、教育活動や学校経営などの学校の全体的な在り方をどのように改善していくのかが重要になる」と述べている。
 この学校教育の全体的な改善・充実にあたり、好循環を生み出していく方策として「カリキュラム・マネジメント」があり、その導入のねらいがある。
 「答申」は、「カリキュラム・マネジメント」についてこれを三つの側面として、次のように示している。
① 各教科等の教育内容を相互の関係で捉え、学校の教育目標を踏まえた教科横断的な視点で、その目標の達成に必要な教育の内容を組織的に配列していくこと。
② 教育内容の質の向上に向けて、子供たちの姿や地域の現状等に関する調査や各種データ等に基づき、教育課程を編成し、実施し、評価して改善を図る一連のPDCAサイクルを確立すること。
③ 教育内容と、教育活動に必要な人的・物的資源等を、地域等の外部の資源も含めて活用しながら効果的に組み合わせること。
 このように、「カリキュラム・マネジメント」は、まず、③の教育内容に向けた経営資源の効果的な活用を基盤にして、②の教育課程の編成・実施・評価を核にしたPDCAサイクルの確立が位置づき、さらに、今回の改訂において、①の教育内容の相互関連や教科横断による組織化による授業の推進が加えられた、と全体的な構図を描くことができる。
 先にも述べたように、「カリキュラム・マネジメント」の導入は、学習指導要領総則の抜本的改善への道を開くことになった。「答申」は、総則の見直しのねらいについて、「カリキュラム・マネジメント」の実現を容易にすることにあると述べている。

「主体的・対話的で深い学び」の実現

(「アクティブ・ラーニング」の視点)について
 学習指導要領改訂について文部科学大臣より中央教育審議会への諮問(2014(平成26)年11月20日)を契機にして、一躍話題の用語となったのが「アクティブ・ラーニング」である。最近では、「主体的・対話的で深い学び」といわれるものの、「アクティブ・ラーニング」への関心は高い。その意味で、このたびの学習指導要領の改訂にあたり、教育現場の関心を高めるという点において、「アクティブ・ラーニング」が果たした役割は大きなものがあるといってよい。
 本章では、学びの質を高めていくために、「主体的・対話的で深い学び」が授業改善の重要性な視点となることを指摘する。授業改善に向けた取組の活性化の視点として「アクティブ・ラーニング」があることを指摘している。すなわち、以下のように、「アクティブ・ラーニング」をめぐり、特定の型や形式に陥ることのないよう留意点とともに、そのめざすところを記している。
 「形式的に対話型を取り入れた授業や特定の指導の型を目指した技術の改善にとどまるものではなく、子供たちそれぞれの興味や関心を基に、一人一人の個性に応じた多様で質の高い学びを引き出すことを意図するものであり、さらに、それを通してどのような資質・能力を育むかという観点から、学習の在り方そのものの問い直しを目指すものである」そのうえで、以下のように、学校全体の機能を強化する観点から、「カリキュラム・マネジメント」と「アクティブ・ラーニング」の一体的運用の大切さを指摘している。
 「今回の改訂において提起された『アクティブ・ラーニング』と『カリキュラム・マネジメント』は、教育課程を軸にしながら、授業、学校の組織や経営の改善などを行うためのものであり、両者は一体として捉えてこそ学校全体の機能を強化することができる」
 「カリキュラム・マネジメント」と「アクティブ・ラーニング」を車の両輪として一体的に機能させることを通して、「社会に開かれた教育課程」の実現をはかる道を拓く。改めて、学校をマネジメントする全体構想が問われていることを確認しておきたい。

千葉大学特任教授
天笠 茂
Profile
あまがさ・しげる 昭和25年東京都生まれ。川崎市立子母口小学校教諭、筑波大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。昭和57年千葉大学講師となり、平成9年より同大教授、平成28年度より同大特任教授。学校経営学、教育経営学、カリキュラム・マネジメント専攻。中央教育審議会初等中等教育分科会委員など文科省の各種委員等を務める。単著『学校経営の戦略と手法』『カリキュラムを基盤とする学校経営』をはじめ編著書多数。

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