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移行期のカリキュラム・マネジメントにどう着手するか 村川雅弘(甲南女子大学教授)

NEWトピック教育課題

2019.05.14

『リーダーズ・ライブラリ』Vol.1 2018年

 小学校は平成30年度より2年間、中学校は30年度より3年間、移行期に入る。教科等ごとに取扱いが異なる。教科書対応が必要でない総則及び総合的な学習の時間、特別活動は新学習指導要領による実施が求められている。平成27年3月に特別の教科となった道徳に関しては、小学校は30年度より、中学校は31年度(30年度より先行実施可能)より新学習指導要領対応となる。また、小学校の外国語活動と外国語科については、新学習指導要領の内容の一部を加えての実施が求められている。教科では、小学校においては生活、音楽、図画工作、家庭、体育、中学校においては音楽、美術、技術・家庭、外国語が新学習指導要領対応を可能とし、その他の教科に関しては、指導内容の欠落が生じないように指導することを求めている。
 本稿では、総則を中心に教育課程全体に関して、移行期にカリキュラム・マネジメント(以下、カリマネ)をどう考え展開していけばよいのかを示したい。

答申を紐解きながら総則を確認する

 筆者の知るところ、学校現場には、新しい学習指導要領、特に総則に目を通す習慣がこれまでなかったように思える。教育課程編成は教務主任以上の一部の教職員の校務で、学習指導要領を読まなくても検定教科書を使っていれば大丈夫という考えが根強いと感じる。今次改訂でもそのようなスタンスでよいのだろうか。
 平成31年度より教員養成系の学部・学科の教育課程に関連する科目が、教員免許状取得の必修となり、カリマネの内容を必ず含めること、学習指導要領をテキストとして必ず使用することが示されている。教育課程及びカリマネに関する理解が新任を含める全ての教職員に求められ、「学習指導要領を読まない、総則を知らない」では済まない時代を迎えている。
 今次改訂では総則部分が現行に比べ倍増している。各学校において校長の方針の下でのカリマネの実現が求められており、カリマネに関する内容がかなりの部分を占めている。また、資質・能力の育成を目指した目標設定やその達成のための授業改善の視点に関する共通事項は総則に示されている。教職員で総則を適切に理解しておくことが求められる。移行期の中でカリマネ実現に向けどのように考え進めていけばよいのか、学習指導要領作成の基盤となった中教審答申(平成28年12月)も紐解きながら確認していきたい。

子どもの実態を踏まえて教育目標と資質・能力の明確化を図る

 カリマネでまず大事なことは、学校として子どもたちのどのような力を付けたいのかという目標のベクトルを揃えることである。今次改訂では、「豊かな人生の実現や災害等を乗り越えて次代の社会を形成することに向けた現代的な諸課題に対応して求められる資質・能力」(「小学校学習指導要領(平成29年告示)」(p.5)の育成が求められており、具体的には資質・能力の三つの柱「生きて働く『知識・技能』」「未知の状況にも対応できる『思考力・判断力・表現力等』」「学びを人生や社会に生かそうとする『学びに向かう力・人間性等』」が、各教科等の目標の中で示されている。中学校も高等学校も同様である。
 学校が教育目標やその具体である資質・能力を設定する上で、子どもや地域の実態を把握し、共有化することが前提となる。筆者は、「概念化シート」を使った子どもの実態分析ワークショップ(1)を勧めている。縦軸を「よさ」と「課題」、横軸を「生活面」と「学習面」とする。授業改善や学校改革のための具体的なプランを同僚と協働的に計画・実施していく上で有効な研修である。子どもの実態を共通理解した上で、学習指導要領で示されている資質・能力を踏まえて、学校教育目標や学校として求める資質・能力を明らかにしていきたい。
 かつて生徒指導困難校であった岩国市立川下中学校は、その改善後、学力向上を目指した(2)。校内研究を始めるに当たり、生徒の実態把握を行った。そのとき行ったのがこの研修である。その結果、「主体性」「向上心」「表現力」の課題解決のために「自ら学び、豊かに、表現できる生徒」、「基礎学力」「聴く力」「表現力」の課題解決のために「学びの基盤づくりと聴き合う、伝え合う生徒」という研究主題と副主題を掲げた。「学びの基礎づくり」としての「学習の手引き」の開発、授業改善の視点としての言語活動の充実、教師の指導技術の向上のための「かわしもモデル」の作成等を行い、学力向上を果たした。

全国学力・学習状況調査の結果の分析を通して子どもの実態を捉える

 全国学力・学習状況調査(以下、「全国学調」)や都道府県版学力調査等の各種調査も子どもたちの実態把握に活用したい。その分析・検討は全教職員で取り組みたい。結果は全て学校の成果であり、課題である。特に、課題に関しては具体的な改善策を学校全体で模索し、その実現に取り組む必要がある。
 全国学調の以下の項目(( )が小学校、[ ]が中学校)は子どもたちの現状を知る上で参考となる。
 まず、(8)[8]「友達と話し合うとき、友達の話や意見を最後まで聞くことができる」、(9)[9]「友達と話し合うとき、友達の考えを受け止めて、自分の考えを持つことができる」、(36)[38]「学級会などの話合いの活動で、自分とは異なる意見や少数意見のよさを生かしたり、折り合いをつけたりして話し合い、意見をまとめている」、(55)[57]「授業では、先生から示される課題や、学級やグループの中で、自分たちで立てた課題に対して、自ら考え、自分から取り組んでいたと思う」、(57)[59]「授業では、学級の友達と〔生徒〕の間で話し合う活動をよく行っていたと思う」、(68)[70]「学級の友達と〔生徒〕の間で話し合う活動を通じて、自分の考えを深めたり、広げたりすることができている」などは現行の言語活動の充実の成果であるが、主体的・対話的で深い学びにつながる実態である。
 次に、(11)[11]「授業で学んだことを、ほかの学習や普段の生活に生かしている」、(73)[75]「国語の授業で学習したことは、将来、社会に出たときに役に立つ」、(83)[85]「算数・数学の授業で学習したことを普段の生活の中で活用できないか考える」、(84)[86]「算数・数学の授業で学習したことは、将来、社会に出たときに役に立つ」などは資質・能力の三つ目の柱「学びを人生や社会に生かそうとする『学びに向かう力・人間性等』」に関する子どもの実態と言える。
 そして、(54)[56]「『総合的な学習の時間』では、自分で課題を立てて情報を集め整理して、調べたことを発表するなどの学習活動に取り組んでいる」も重要な項目である。この3年間、広島県及び高知県の探究的な授業づくりに関わった。特に総合的な学習の時間に力を入れた中学校は、この項目の数値にその成果が表れており、軒並み全国学調の数学や国語の成績が向上している。新学習指導要領においても総合的な学習の時間の充実が謳われているが、重要な指標となる。

主体的・対話的で深い学びと学習の基盤づくりに着手する

 資質・能力育成の鍵を握るのが主体的・対話的で深い学びによる日々の授業改善である。「主体的な学び」とは「学ぶことに興味や関心を持ち、自己のキャリア形成の方向性と関連付けながら、見通しを持って粘り強く取り組み、自己の学習活動を振り返って次につなげる」学びである。「『学びに向かう力・人間性等』の涵養」につながる。「対話的な学び」とは「子供同士の協働、教職員や地域の人との対話、先哲の考え方を手掛かりに考えること等を通じ、自己の考えを広げ深める」学びである。自己の考えと比べたり関連付けたりすることによる「先哲」との対話(いわゆる「自己内対話」)も含まれる。「深い学び」とは「習得・活用・探究という学びの過程の中で、各教科等の特質に応じた『見方・考え方』を働かせながら、知識を相互に関連付けてより深く理解したり、情報を精査して考えを形成したり、問題を見いだして解決策を考えたり、思いや考えを基に創造したりすることに向かう」学びである。各教科等で身に付けた知識や技能及び「見方・考え方」を意識的に活用して学習することが重要である。
 各校において、教科や道徳、総合的な学習の時間、特別活動等の活動場面で「主体的な学び」「対話的な学び」「深い学び」につながる子どもの具体的な姿とはどのような姿なのか、その姿を引き出すためにどのような手立て(学習規律や言語活動の育成、教材や発問、板書、ワークシートの工夫、教室環境の整備、ICT の活用など)を打てばよいのか、具体化と共有化を図る研修を勧めている。写真1のように、横軸を「主体的な学び」「対話的な学び」「深い学び」とし、縦軸を「子どもの姿」と「教師の手立て」としたマトリクスを活用したワークショップである。幼稚園から高等学校、特別支援学校等で共通に活用できる。また、教員免許更新講習のような様々な学校種の教員による混成チームでも有効である。幼稚園や小学校の場合には、3歳児・4歳児・5歳児や低・中・高学年のチームに分かれて整理し、その結果を付き合わせることで発達段階による子どもの姿やそのための教師の手立てが明確になってくる。中学校や高等学校では教科ごとや教科学習と道徳、総合的な学習の時間、特別活動のチームに分かれて整理し比較・検討することが有効である。

学校が目指す授業の共通イメージをカタチに共有化を図る

 「主体的・対話的で深い学び」の実現には、子ども一人一人が安心して自己の思いや考えを述べ合い、受け入れ合い、つなげ合える受容的な関係づくりや学習規律、学習技能の定着に学校を挙げて取り組むことが求められる。筆者はこれまで「学びのインフラ整備」と呼んできたが、総則では「学習の基盤」として「言語能力、情報活用能力(情報モラルを含む)、問題発見・解決能力等」を挙げている。
 これらの能力は個々の教師の力では定着させることは困難である。学校として共通理解を図り、積み上げていくことが求められる。前述の川下中のように「学習の手引き」のような形で共有化を図り定着させた学校は少なくない。また、「授業スタンダード」(例えば、「課題の確認」「自力解決」「集団解決」「まとめ」「振り返り」といった授業の展開や構成に関する共有化)として、授業の大きな展開については概ね揃えた上で、教科や内容の特性、教師の個性により必要に応じてアレンジできるようにしている学校も増えてきた。


 高知県の本山町立嶺北中学校でも授業スタンダードとして「嶺北スタンダート」を設定し、授業改善に取り組んできた。授業に対する生徒の満足度は年々上がってきている。また、指導案を工夫し、「学校で育てたい資質・能力」や「主体的・対話的で深い学び」との関連や思考の可視化を図る板書計画を記載することで授業スタンダードに基づく授業づくりの質を担保しようとしている(3)。指導案は授業の設計・実施・評価において共通理解を図る上で重要な役目を果たす。自校の授業づくりの基本的な考え方が反映された指導案の形式に従って授業を計画していくことにより、その学校が目指している授業の共有化が図られる。子どもたちも教師(特に若手教員)も安心して授業に臨むことができる。

[参考文献]
(1)村川雅弘著『ワークショップ型教員研修 はじめの一歩』教育開発研究所、2016年、p.61-62

(2)山口県岩国市立川下中学校「全教職員で子どもの実態を把握し目標と手立てを共有」村川雅弘・野口徹・田村知子・西留安雄編著『「カリマネ」で学校はここまで変わる!』ぎょうせい、2013年、p.101-113
(3)高知県本山町立嶺北中学校長・大谷俊彦「授業改善と教員の意識改革へのアプローチ」村川雅弘編『学力向上・授業改善・学校改革 カリマネ100の処方』教育開発研究所、2018年、p.181-189

甲南女子大学教授
村川雅弘
Profile
むらかわ・まさひろ 鳴門教育大学大学院教授を経て、2017年4月より甲南女子大学教授。中央教育審議会中学校部会及び生活総合部会委員。著書は、『「カリマネ」で学校はここまで変わる!』(ぎょうせい)、『ワークショップ型教員研修 はじめの一歩』(教育開発研究所)など。

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