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思考をアクティブにする授業とは―小学校算数を例に 齊藤一弥(横浜市立羽沢小学校長)

NEWトピック教育課題

2019.05.16

新教育課程ライブラリ Vol.1 2016年

思考がつながらない子ども

 平成27年度に実施された全国学力・学習状況調査小学校算数のA問題4で興味深い結果が出た。

 (1)の問題は、180°よりも大きな角のおよその大きさを、二直角、三直角をもとに考えるもので、正答率は81.4%であった。一方、(2)の問題は、180°より大きな角である210°の大きさを測定するもので、こちらの正答率は58.2%であった。同じ210°の角を提示して、180°より大きな角と意識していても、34.8%もの子どもが、測定すると150°になると誤答した。(2)の場合、直線、二直角または半回転の180°より大きいことはすぐに見てわかる。しかし、多くの子どもが150°と誤って計測した原因はどこにあるのであろうか。

 まず、一般的には答えの見積もりができていないことが挙げられるであろう。分度器を当てる前に、角アは直線または二直角よりも大きい、つまり180°を超えることを確認しておけば、少なくとも150°という間違えはないはずである。しかし、(1)の角の大きさの見積もりではかなりの子どもができていることから考えると、180°を超えた部分(30°)の測定方法を既習事項と結び付けてイメージすることができないということを原因として考えるのが妥当であろう。つまり子どもの思考が二つの問題で連続していかないのである。直線を引くことで180°までの大きさを明らかにした上で、残りの部分を測ることで正しい測定ができるという筋道を辿ることが難しかったと言える。このような思考ができれば大きな誤りは防ぐことができ、少なくとも180°より小さい角を答えとして出すことはなくなるはずである。

 このような誤答が出てくる背景から、算数・数学の授業の課題と解決への方向性が見えてくる。まずは、量感の育成である。150°と答える子どもは、180°を意識していない場合が多い。直線を超えて広がる角は180°よりも大きいことを実感的につかんでいないことが原因である。次に、能率的な測定方法の意味的理解である。角アを見た時に、分度器を使用しなくても直線を伸ばして引きさえすれば180°よりも大きいことがわかる。この作業の意味の確認を十分に行わないのである。半円分度器を使用している子どもは、この確認をせずに180°の範囲内で対応する目盛を探すことになってしまう。角の大きさの計測の練習に終わってしまい、計器の働きやよさを確認しながら正確かつ的確で、より能率的な測定方法を学ぶことに関心が向いていないことがわかる。

思考をアクティブにするポイント -小学校算数・角の大きさの実践からー

 同じ仕事なら、なるべく簡便で効率的に、しかも正確に済ませたいものである。しかもそれが確かな思考に支えられて、誰もが納得できるような方法として表現できるのであればなお望ましい。量の測定では、その手続きや操作は正確でかつ能率的に処理する力を期待している。算数・数学はこのような仕事を実現可能にしていくために思考するといっても過言ではない。このような学びを実現するためにいかに子どもは思考していけばよいのだろうか。先の問題を具体的な授業に置き直して考えていく。

(1)思考対象とプロセスを明確にする明示的指導

 授業では、まず角のおよその大きさを見積もることから始める。示された角の大きさ(210°)が、どのくらいであるかを見積もり、その際に、直線、二直角または半回転(180°)を基にして判断できるようにする。

T9 : なぜ200°くらいだと思ったのですか。
C12: 半回転より大きいし、それより20°くらい大きいと感じたから。
C13: 210°くらい。二直角より大きいから180°より大きくて、それより30°くらい大きい。
T10: 今の予想では、どちらも200°よりも大きいようです。予想の仕方で似ているところはどこですか。
C14: 半回転や二直角の180°を使っていること。
T11: なぜ半回転や二直角を使って予想したのでしょうか。
C15: それはすぐにわかるから。直線を引けば分かる。
C16: 直線は180°とすぐにわかるから。

 

 子どもが使用している半円分度器で直接測定できるのは180°までだが、C14、15、16など、分度器を使用しなくても180°を測定することができる理由について意見が集中していることがわかる。角の大きさの見当をつける段階で、すでに半円分度器では測定できない大きさの測定方法の見通しをもつことができていて、余分な労力を省いて能率的に測定するためのアイデアに関心が向いている。子どもが180°は測定していけばよいことをつかんでいることがわかる。このような算数・数学として大切にしたいアイデアを明示的な指導によって自覚化させて、「直線を引く」という測定方法の意味的理解を確かなものしていくことが大切である。

 その後の自力解決により、どの子も測定方法として「直線を引いて180°と30°に分けて求める方法」と「360°から150°を引いて求める方法」のいずれかの解を得ることができた。子どもが主体的に学ぶための第一歩である「他者に伝えたいことをもつ」「自分の考えをもつ」ことができて、同時に協働的に学ぶ準備が整った。

 この二つの方法のアイデアの意味を確認するために、「なぜ2つに分けたのか」「なぜ360°から引くのか」と問うことで、二直角・半回転(180°)や四直角・一回転(360°)をもとにして、そこから能率的に測定していることを明らかにしていった。

T16: なぜ180°とそれ以外の角に分けて測定したのですか。
C24: 180°は直線を伸ばせば角度を測らなくてもいいからです。あとは残りの角の大きさを測るだけだから。
T17: 180°は測らなくてもわかると言うのはとても便利なことだね。360°から150°を引いた理由も説明してください。
C25: 一回転は360°だからこれも測らなくてもわかります。あとは150°の部分を測ればいいです。
T18: どちらも分度器で直接測らなくてもわかるところを上手く使っているわけですね。

 

 このように二直角・半回転や四直角・一回転をうまく活用すれば、180°を超えた大きさであっても180°内での測定によって処理できると思考をつなげていることがわかる。このように思考し続けることで、仕事や物事の処理が簡単になったり生活や作

業が楽になったりすることを実感できるようになることは算数を学ぶよさであり、先人が築き上げてきた算数という文化を知ることにつながる。

(2)思考結果の価値の確認 ~全円分度器があれば、今までの苦労は不要ではないのか~

 算数を学ぶよさをさらに実感していくために、全円分度器を提示して、半円分度器でも360°までの角の大きさを手際よく測定できることを確認した。

T20: これは何かわかりますか。
C28: 円?…円の分度器?
T21: そうです。全円分度器と言います。

C29: 360°まで測れるの?それはずるいなあ。
C30: それがあったら全部簡単にわかる。
T22: では、なぜ皆さんは全円分度器ではなくて、半円の分度器を使っているのだろうか。
C31: それがあったら勉強にならないからかな。180°より大きな角の大きさが何もしないで求められるから。
C32: 勉強しなさいということだよ。
C33: 直線を引いて分けたり、全体から引いたりして考えれば、180°までの半円の分度器でも測れるから必要がないんだと思う。だからこの分度器でいいんだと思う。
T23: すぐにわかることを使って分けたり、引いたりすれば、半円の分度器でも問題ないというのはすごい発見です。

 

 C33の「全円分度器でなくても問題ない」という発言は、既習事項を活用することで労力が軽減されるよさを経験したことの結果であり、既習事項を有効活用していこうとする態度につながるものである。

 210°の角の大きさを150°としてしまう誤答を無くすためには、ただ単に測定練習を形式的に繰り返すだけでは不十分である。180°より大きな角の測定方法を支えている「直線で分ける」「全体から引く」というアイデアの意味的理解を図りながら、そのよさを実感させていくように思考をつなげていくことが求められている。能率的に測定ができる、しかも正確に作業ができる子どもを育てていくためには、先人が考え出した方法を丁寧に辿っていくオーセンティック(真正)な学習によって思考を活性化させていくことが期待されているのである。

思考の質を問う ー全ての教科に求められることー

 これから教科を指導する上で留意すべきことは、これからの時代を生き抜く人材に期待される望ましい態度や習慣、そして能力を着実に育成していくことの重要性である。教科指導である以上、教科固有の知識・技能の習得の重要性は揺るがないが、一方でその習得がゴールにならないために教科で大切したい見方や考え方をつなぎ役として汎用性のある資質・能力の育成を目指していくことが求められている。このことは子どもが思考すべき対象を丁寧に見極めて、価値ある問いに向き合って、その解決に向けて思考することが期待されていると言えよう。

 また、その資質・能力を育成するためには、学び手にとって真正で本物の学習の場を用意して、それを有効に活かしていく文脈を用意することも大切になる。そして、主体的に学びに取り組むとともに、他者との協働の中から多様性を追究し、教科の価値に出会うような文脈の工夫が求められている。このことは子どもの思考プロセスの吟味や思考結果の活用に関心をもつことを意味している。形式的な問題解決学習に拘泥することなく、子どもをよき問題解決者に育むためのプロセスを開発していく努力が求められているのである。

 思考をアクティブにしていくために、今、改めて教科指導の本質を見極め、身に付ける力の明確化とともに、それを育むための文脈の見つめ直しが期待されている。

横浜市立羽沢小学校長
齊藤一弥
Profile
さいとう・かずや 1958年東京生まれ。横浜国立大学卒業。横浜市立大岡小学校在任中には能力ベイスのカリキュラム開発にあたり、その後、横浜市教育委員会事務局では首席指導主事・指導主事室長として、横浜版学習指導要領の策定、横浜型小中一貫教育の推進等に関わった。横浜市立岸谷小学校では算数教育を通して授業研究の開発を進め、現職ではキャリア教育の研究に取り組んでいる。

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