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新教育課程がめざすアクティブ・ラーニングとは 田村 学(文部科学省初等中等教育局視学官)

NEW『ライブラリ』シリーズ/特集ダイジェスト

2019.05.14

新教育課程ライブラリ Vol.1 2016年

アクティブ・ラーニングの始まりと広がり

 中央教育審議会答申(平成26年12月22日)「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について~すべての若者が夢や目標を芽吹かせ、未来に花開かせるために~(答申)」には、アクティブ・ラーニングを「学生が主体性を持って多様な人々と協力して問題を発見し解を見いだしていく能動的学修」とし、大学教育を、従来のような知識の伝達・注入を中心とした授業から、学生が主体性を持って多様な人々と協力して問題を発見し解を見いだしていくアクティブ・ラーニングに転換するとしている。
 このアクティブ・ラーニングという言葉は、中央教育審議会答申(平成24年8月28日)「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ~(答申)」において、「教員と学生が意思疎通を図りつつ、一緒になって切磋琢磨し、相互に刺激を与えながら知的に成長する場を創り、学生が主体的に問題を発見し解を見いだしていく能動的学修(アクティブ・ラーニング)への転換が必要である」として示された。こうした大学教育改革の動きが高等学校の授業改善にも広がり、現在、高等学校や小・中学校の授業をアクティブ・ラーニングの視点で改善していこうとする改革が始まろうとしている。

求められる授業の質的転換

 平成26年11月20日、学習指導要領の改訂に向けて文部科学大臣から諮問文が発表された。そこでは、変化の激しい21世紀の社会では、一人一人の可能性をより一層伸ばし、新しい時代を生きる上で必要な資質・能力を確実に育んでいくことを目指し、未来に向けて学習指導要領等の改善を図る必要があるとしている。つまり、次期学習指導要領の改訂は、資質・能力の確実な育成にあるとし、そのためにアクティブ・ラーニングによる授業改善を目指すとしている。
 諮問文では、学びの質や深まりを重視することを指摘した上で、「課題の発見と解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習(いわゆるアクティブ・ラーニング)」とし、そのために指導方法等を充実させることの必要性などが示されている。今回の学習指導要領の改訂は、学習内容の付加や削除といった見直しのみならず、子どもが自ら学び、ともに学ぶアクティブ・ラーニングへと質的転換を図ろうとしていることが理解できる。
 こうしたアクティブ・ラーニングが登場した背景は、大きく二つ考えることができる。一つは、激しく変化し、未来を予測することが不可能な社会背景にある。社会の変化に対応し、社会を創造できる人材の育成こそが、社会の幸福と豊かな人生を創り出していくことにつながるのであろう。
 二つは、十分に育成し切れていない子供の学習状況にある。根拠や理由を明らかにして考えを述べること、解釈・考察して説明すること、自己肯定感や主体的に学習に取り組む態度、社会参画意識などの育成が期待されているのであろう。

アクティブ・ラーニングは過去を否定するものではない

 新しいキーワードが登場すると、私たちは何か身構えてしまうところがある。そして、これまでに大切にしてきたことを忘れかけてしまうこともある。
 それは、次のような会話になって表れる。
 「次の改訂はアクティブ・ラーニングらしいよ」
 「どんなことをするのだろう」
 「今までの授業を全て見直さなくてはならいのかな」
 「アクティブ・ラーニングに向けて、全く新しい手法を取り入れなくてはいけないのだろうか」
 今回の諮問で示されたアクティブ・ラーニングは新しい概念なのだろうか。過去を否定するものなのだろうか。
 この言葉は、先に示したように高等教育改革の流れから大きくクローズアップされるようになってきた。大学での授業があまりにも一方的で画一的な指導者中心の授業になってはいないか。そのことが、結果として学び手に期待する学力を育成しているのか。そうした問いからアクティブ・ラーニングを取り入れる動きが広まってきた。
 その考えは、むしろ初等教育における授業改善、特に小学校における授業研究、授業力向上の取組に学ぶべきものと考えてよいだろう。つまり、これまでの我が国における長き教育史に残る優れた教育実践、現在も行われている様々に豊かな教育実践こそがアクティブ・ラーニングと考えるべきである。例えば、発見学習、問題解決学習、体験学習、調査学習、教室内でのグループ・ディスカッション、ディベート、グループ・ワーク等はアクティブ・ラーニングの視点が生かされていると考えることができる。全く新しい指導方法を取り入れていこうとするのではない。むしろ、これまでの素晴らしい実践に学び、そのよさを確実に広げ、より一層の質的向上や面的拡大を目指すとともに、新たな指導方法も取り入れていくことと考えることが重要になろう。

払拭したいアクティブ・ラーニングに対する誤解・曲解

 アクティブ・ラーニングという言葉には大きなインパクトがあり、アクティブ・ラーニングの言葉のもと、小・中・高等学校において、熱心な実践研究が始まっていることは好ましいことである。しかし一方で、アクティブ・ラーニングに対する偏ったものの見方が広まっていたり、限定的な方法を推進したりしている取組がないわけではない。例えば、アクティブ・ラーニングの言葉が活動性の高い授業をイメージさせるせいか、動的な授業を行うことのみを推奨する傾向もある。もちろん身体がアクティブであることも考えられるが、最もアクティブに活性化してほしいのは子供の頭の中、つまりは思考と考えるべきであろう。あるいは、アクティブ・ラーニングを行う方法のみを追究し、全ての学年の、全ての教科等の、全ての単元を、型にはまった方法で指導するなどの心配もある。様々な方法が検討され、子供の実態に応じた不断の授業改善となることが欠かせない。
 アクティブ・ラーニングが目指すところは、見た目の指導方法のみを改善するのではなく、むしろ、子供の思考がアクティブに活性化し、一人一人の子供が能動的に学習に取り組み、期待する資質・能力が育成されているかどうかを確かに検証しながら授業改善していくことなのであろう。その指導方法は、子供の発達や教科の特性、単元や学習場面等によって様々に存在する多様なものであると考えるべきである。

資質・能力の育成に向けたアクティブ・ラーニングの三つの視点

 中央教育審議会教育課程企画特別部会では、平成27年8月に論点整理をまとめ、学習指導要領改訂の方向性を明らかにした。そこでは、学習する子供の視点に立って、育成すべき資質・能力を以下の三つの柱で整理した。

  1. 「何を知っているか、何ができるか(個別の知識・技能)」
  2. 「知っていること・できることをどう使うか(思考力・判断力・表現力等)」
  3. 「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか(学びに向かう力、人間性等)」

 

 これからの社会では、子供が「何を知っているか」だけではなく、「知っていること・できることをどう使うか」や「知っていることを使って、どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか」が重要である。それは、知識・技能、思考力・判断力・表現力等、学びに向かう力や人間性などの情意・態度等に関わるもの全てを、総合的に育んでいくことでもある。
 こうした資質・能力を育むためには、アクティブ・ラーニングが重要であると考え、論点整理において、以下の三つの視点で子供の学びを改善すべきであると示した。

  • ① 習得・活用・探究という学習プロセスの中で、問題発見・解決を念頭に置いた深い学びの過程が実現できているかどうか。
  • ② 他者との協働や外界との相互作用を通じて、自らの考えを広げ深める、対話的な学びの過程が実現できているかどうか。
  • ③ 子供たちが見通しを持って粘り強く取り組み、自らの学習活動を振り返って次につなげる、主体的な学びの過程が実現できているかどうか。

 

 これまでの授業は、個別の知識・技能の習得のみに重きを置く傾向があった。その場合、乱暴な言い方をすると、授業のエンドゾーンさえ押さえれば何
とかなったのかもしれない。学習内容を教師がチョーク&トークの講義で示し、最後に「これを覚えておきなさい」と教え込むようなスタイルである。しかし、授業で思考力・判断力・表現力、情意・態度等の育成まで行うとなれば、知識のように詰め込
むことはできない。授業の中に、思考・判断・表現するなどの場面が頻繁に生成され、学習意欲が継続的に喚起される場面が用意されている必要がある。なぜなら、思考力・判断力・表現力、情意・態度等は、そうした力が発揮される子供の姿が繰り返され、積み重ねられていくことによって確かになっていくからである。つまり、学習活動のプロセスが充実してこそ、資質・能力は総合的に育成されていくと考
えることができる。
 ここで、もう少し丁寧に三つの視点を検討してみよう。
 論点整理では、先に示した三つの視点について、それぞれに詳しく説明を加えている。「深い学び」については、「新しい知識や技能を習得したり、それを実際に活用して、問題解決に向けた探究活動を行ったりする中で、資質・能力の三つの柱に示す力が総合的に活用・発揮される場面が設定されることが重要である。」とある。習得・活用・探究の学習プロセスを行う中で、資質・能力が「活用・発揮」されることが重要であると指摘している。これまで以上に、知識・技能を活用したり、思考力・判断力・表現力等を発揮したりするなどのoutputする場面を充実することが大切になるのであろう。
 「対話的な学び」については、「身に付けた知識や技能を定着させるとともに、物事の多面的で深い理解に至るためには、多様な表現を通じて、教師と子供や、子供同士が対話し、それによって思考を広げ深めていくことが求められる。」とある。資質・能力の育成に向けた学習プロセスが一層充実するために、多様な方法で、多様な他者と対話する場面を、意図的に用意することが大切になるのであろう。
 「主体的な学び」については、「子供自身が興味を持って積極的に取り組むとともに、学習活動を自ら振り返り意味付けたり、獲得された知識・技能や育成された資質・能力を自覚したり、共有したりすることが重要である。」とある。学習へのモチベーションを高めること、学習の成果を確かにすることなどを指摘している。今まで以上に、自分事として学習活動に取り組むようにするとともに、丁寧に自らの学びを振り返る場面を工夫することが大切になるのであろう。
 こうして育成される資質・能力には、次のような特徴があると考えることができる。一つは、より実社会で活用できる汎用性の高い思考力・判断力・表現力等である。現実の問題状況を解決していく中で自在に発揮される思考力・判断力・表現力等とも考えることができよう。二つは、よりネットワーク化され、構造化された知識や技能である。新しい知識・技能と既存の知識・技能を関連付けたり組み合わせたりした、安定的で活用可能な知識・技能と考えることができよう。三つは、より恒常的で、持続的な学びに向かう力である。自らの学びを推進するエンジンであり、自らの学びを推進する意志と考えることができよう。
 これからの授業は「何ができるようになるか」のために「どのように学ぶか」も、学習内容と同等もしくはそれ以上に大切にすべきこととなってくる。そのためにも、先に示した三つの視点による不断の授業改善と学習者である子供の学びを起点とした多様な取組、調和のとれた実践が、今、求められているのである。

文部科学省初等中等教育局視学官
田村 学
Profile
たむら・まなぶ 1962年新潟県生まれ。新潟大学卒業。上越市立大手町小学校、上越教育大学附属小学校で生活科・総合的な学習の時間を実践、カリキュラム研究に取り組む。2005年4月より、生活科・総合的な学習の時間担当の教科調査官。2015年より、現職。日本生活科・総合的学習教育学会常任理事。主な著書『総合の新しい授業アイディア』(ぎょうせい)、『思考ツールの授業』(小学館)、『授業を磨く』(東洋館出版)など。

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