これからの学習指導の在り方・取組み方 天笠 茂(千葉大学特任教授)
トピック教育課題
2019.05.22
学習の内容と方法の両方を重視する
育成をめざす資質・能力:三つの柱
このたびの学習指導要領改訂がめざしたことの一つが、学習内容(コンテンツ)重視のカリキュラムから資質・能力(コンピテンシー)重視のカリキュラムへの転換であった。学習指導要領の構造を資質・能力を起点にして見直しを図るというものである。
まずは、様々にあげられている資質・能力を整理して次のように三つの柱として示した。
- ① 何を理解しているか、何ができるか(生きて働く「知識・技能」の習得
- ② 理解していること・できることをどう使うか(未知の状況にも対応できる「思考力・判断力・表現力等」の育成)
- ③ どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか(学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力・人間性等」の涵養)
そのうえで、これら三つの柱に基づいて各教科等の目標や内容について再整理を図るとした。すなわち、発達段階に応じた縦のつながりと、各教科等の横のつながりを行き来させながら、各学校・学年段階で学ぶ内容の見直しを図り、教育課程の全体像の構築がめざされ、「審議のまとめ」にまとめられた。
学習内容と指導方法
一方、学習内容と指導方法を一体的に扱ったことも、このたびの学習指導要領改訂を特徴づけたものとしてとらえることができる。
従来の学習指導要領改訂では、どのように学習内容を配列して基準として示すかに関心が注がれ、どう指導していくかといった方法面については、踏み込んだ扱いは避けてきた。そこには、指導方法については、教育現場の創意・工夫に多くを委ねるという学習指導要領改訂をめぐる役割分担、“暗黙の棲み分け”が存在していたとみることもできる。
しかし、学習指導要領の構造を資質・能力から見直しを図ったこのたびの改訂は、これまでの学習内容と指導方法とを分離して扱う見方を見直し、両者を一体的にとらえていく方向へと転換を図ったということになる。「審議のまとめ」には、次のような記述がある。
「今回の改訂が目指すのは、学習の内容と方法の両方を重視し、子供の学びの過程を質的に高めていくことである。単元や題材のまとまりの中で、子供たちが『何ができるようになるか』を明確にしながら、『何を学ぶか』という学習内容と、『どのように学ぶか』という学びの過程を組み立てていくことが重要になる。『見方・考え方』を軸としながら、幅広い授業改善の工夫が展開されていくことを期待するものである」
しかし、指導方法を重視するといっても、特定の型の普及をめざしたり、教師の創意・工夫の制約をねらったものでないことは確認しておかねばならない。
一方、学校内外における授業の公開と参観による教師相互の学び合いが、授業力の向上に大きく寄与しており、“日本の学校教育の質を支える貴重な財産”といってよい。
ただ、その「授業研究」が、授業の進め方など狭い意味の“方法上の工夫”の検討にとどまる傾向にあり、学習内容をめぐる研究・研修は停滞気味である。
その意味で、学習の内容と方法の両方を重視するとした、このたびの学習指導要領改訂を契機に、子どもの発達、学習スタイル、学習内容などをもとにした授業方法の創意・工夫を支える観点から、「授業研究」について新たな在り方を拓いていくことが期待される。
主体的・対話的で深い学び
〜授業改善・三つの視点〜
これからの学習指導の在り方について述べるにあたって「アクティブ・ラーニング」を落とすことはできない。それは、授業改善の方向性を示すものとして示された、今回の学習指導要領改訂を特徴づける、もう一つの柱としてとらえることができる。
「審議のまとめ」では、これを「主体的・対話的で深い学び」として表記し、授業改善の視点として、次の3点をあげている。
- ① 学ぶことに興味や関心を持ち、自己のキャリア形成の方向性と関連付けながら、見通しを持って粘り強く取り組み、自己の学習活動を振り返って次につなげる「主体的な学び」が実現できているか。
- ② 子供同士の協働、教職員や地域の人との対話、先哲の考え方を手掛かりに考えること等を通じ、自己の考えを広げ深める「対話的な学び」が実現できているか。
- ③ 各教科等で習得した概念や考え方を活用した「見方・考え方」を働かせ、問いを見いだして解決したり、自己の考えを形成し表したり、思いを基に構想、創造したりすることに向かう「深い学び」が実現できているか。
先にみた、資質・能力の三つの柱。そして、これら授業改善の視点としての「主体的な学び」「対話的な学び」「深い学び」。この資質・能力と授業改善の視点のクロスによって描き出されるマトリクス。諸々の要素が複雑に絡み合いながら全体的・総合的に成り立っている授業をとらえる枠組みとして、また、「授業研究」の着眼点や方向性などを探るにあたって、活用が考えられる。
いずれにしても、学習指導要領改訂にあたり内容とともに方法の重視は、「アクティブ・ラーニング」の求めと重なる。もちろん、ねらうところが、特定の型の普及や教師の創意・工夫の否定にあるわけではない。めざすところは、生涯にわたって能動的(アクティブ)に学び続ける学習者を育てることにあり、そのために、質の高い授業の実現めざし、学習内容を深く理解し、指導方法に工夫・改善を重ねていく授業者への問いかけがある。
千葉大学特任教授
天笠 茂
Profile
あまがさ・しげる 昭和25年東京都生まれ。川崎市立子母口小学校教諭、筑波大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。昭和57年千葉大学講師となり、平成9年より同大教授、平成28年度より同大特任教授。学校経営学、教育経営学、カリキュラム・マネジメント専攻。中央教育審議会初等中等教育分科会委員など文科省の各種委員等を務める。単著『学校経営の戦略と手法』『カリキュラムを基盤とする学校経営』をはじめ編著書多数。