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「社会に開かれた教育課程」における学習活動 村川雅弘(甲南女子大学教授)

NEWトピック教育課題

2019.05.22

新教育課程ライブラリ Vol.11 2016年

 次代を生き抜くと共に未来の創り手である子どもたちに求められる資質・能力を学校だけで育成することには限界がある。これまで以上に、家庭や地域社会と共通理解を図った上での連携・協力が不可欠である。審議のまとめでは「教育課程を通じて、子供たちが変化の激しい社会を生きるために必要な力の育成を目指していくこと、社会との連携・協働を重視しながら学校の特色づくりを図っていくこと、現実の社会との関わりの中で豊かな学びを実現していくことが求められる」「学校が社会や地域とのつながりを意識し、社会の中の学校であるためには、学校教育の中核となる教育課程もまた社会とのつながりを大切にする必要がある」と社会に開かれた教育課程の実現が提言されている。しかし、日々の各教科等におけるアクティブ・ラーニングや教育目標の設定と教育課程の編成及び実施・評価・改善を組織的に進めていくカリキュラム・マネジメントが先行している。社会に開かれた教育課程の実現を目指す教育活動の具体的な姿が見えていないからと考える。

安全防災を通して地域社会に貢献する

 筆者の「社会に開かれた教育課程」のモデル校の一つは横浜市立北綱島小学校(昆しのぶ校長)の安全防災教育である。「学援隊」(1年)、「子ども110番の家」(2年)、「安全な町」(3年)、「消防団」(4年)、「家庭防災」(5年)、「防災リーダー」(6年)とどの地域でも実践可能な汎用性の高いテーマを設定している。また、防災教育全体構想図、資質・能力表、学習材と系統表、年間指導計画、教科等関連を図った学習指導案等がカリキュラム・マネジメント研修を通してしっかり整えられてきた。

 11月1日の公開研の様子を見てみよう。1年は登下校を温かく見守ってくれている学援隊の人たちの思いを理解しもっと仲良くなるために、子ども自ら学援隊に挑戦し、その体験を通した気づきを話し合った(写真1)。3年生は地域の防災マークについての調査活動を通し、安全な町づくりには町の人がみんな仲良くなることだと考え、地域で使ってもらうマークの作成を行っている。三十数点のアイデアの中から一人ひとりが理由を書きグループでピラミッドチャートを用いて絞り込みをかけた(写真2・3)。「8がいいです。みんな仲よく手をつないでいて仲良くなれると思ったからです」などと熱い思いが語られる。入学直前に東日本大震災を経験し、1年次から安全防災教育を積み重ねてきた6年生は集大成として、自助のプロとしての防災リーダーになるためのプロジェクトに取り組んでいる。この日は、ブロック塀が倒れてきたらどう避けるか、下学年へどう伝えるかをシミュレートしながら協議した(写真4)。どの学年もそれまでの学びや経験、地域の人々とのかかわり、各教科等で身に付けた知識や技能を生かしている。また、豊かな体験を基に子ども主体の話し合いにより問題解決を図ろうとしている。

 学援隊12名、子ども110番の家89軒、消防団9名をはじめ地域拠点運営委員会会長や家庭防災員、神奈川大学荏本孝久教授(地震工学)など、各学年の取組みに応じて、多様な立場や世代の人とかかわり、知恵を借りながら地域貢献を行っている。防災訓練も校内に留まらず、隣接の特別支援学校との合同訓練(5・9月)、保護者参加の学校防災訓練(6月)、家庭防災会議(7・8月)、地域防災拠点訓練(10月)、授業参観・公開授業研(6・10・11月)などを通して次代を創る子どもに育成したい資質・能力やそのために学校が目指す教育活動を具体的に示している。

 審議のまとめに示されている「社会に開かれた教育課程」実現のための3つのポイント「①社会や世界の状況を幅広く視野に入れ、よりよい学校教育を通じてよりよい社会を創るという目標を持ち、教育課程を介してその目標を社会と共有する」「②これからの社会を創り出していく子供たちが、社会や世界に向き合い関わり合い、自らの人生を切り拓いていくために求められる資質・能力とは何かを、教育課程において明確化し育む」「③教育課程の実施に当たって、地域の人的・物的資源を活用したり、放課後や土曜日等を活用した社会教育との連携を図ったりし、学校教育を学校内に閉じずに、その目指すところを社会と共有・連携しながら実現する」が具現化されている。

総合的な学習との関連から社会と繋がる

 日本生活科・総合的学習教育学会は平成26年度末に、特に総合的な学習の時間(以下、総合)に力を入れてきた全国の小・中・高校各10校程度に、資質・能力に関する調査を行った(1)。小学校で最も秀でた結果だったのが福山市立新市小学校(5年生42名)である(2)。肯定的回答(「そう思う」と「どちらかといえばそう思う」の合計)が100%だった設問が、「日常生活や社会の中で『知りたいな』と思うことや『不思議だな、なぜだろう』と思うことがある」「問題になっていることの中から取り組んでみたいことを見付けることができる」「人の役に立てるような人になりたいと思う」「自分と異なる考えや意見でもしっかり聞いて理解しようとする」「考えや意見が違っても相手の良い点を認めることができる」「総合では生きていく上で大切なことを学んでいる」「総合で学んだことは、普段の自分の生活や将来に役立つと思う」などの10項目である。身近な社会に関心を抱き、課題を見出し、貢献意識を持ち、多様な他者との対話を通して問題解決を図り、学びを通して生きる上で必要とされる資質・能力を身につけている姿が浮き彫りになる。

 平成21年度の広島県「基礎・基本定着状況調査」において、「自分のよさは、周りの人から認められていると思う」と回答した児童が45.7%であったが、26年度では同様の設問と比べて約30ポイント上昇している。平成21年度に「自分にはよいところがあります」と回答した児童が58.7%であったが、平成26年度全国学力・学習状況調査の同様の質問「自分には、よいところがあると思いますか」への肯定的な回答(「当てはまる」「どちらかといえば、当てはまる」の合計)が85%(全国平均76.3)と約26ポイント上昇している。

 学力面での伸びも大きい。県の学力調査の結果を見ると、国語の平均点が平成22年度は県平均と同水準であったが、23年度は3.3ポイント、24年度は7.7ポイント、25年度は8.8ポイント県平均を上回っている。算数に関しても22年度は県平均と同水準であったが、23年度は3.0ポイント、24年度は5.8ポイント、25年度は11.2ポイント、県平均を上回っている。その後も右肩上がりが続いている。

 何がこのような成果をもたらしたのか。調査対象となった6年生(調査時は5年生)は、3年次は野菜の地産地消、4年次は大豆研究、5年次は日本食を主テーマに取り組んだ。同小は主に地域の食を取り上げ、地域の人とかかわりながら、最終的には地域貢献に繋がる活動を展開している。

 もう一つの特長は、言語活動を子どもに委ねていることである。学習規律や学習技能に関するガイドブック(低学年用と中高学年用)が、生活科や総合だけでなく、教科学習や道徳、学級会等において現在でも活用されている。グループ活動で司会が話し合いを繋ぐ。例えば、多くの意見を引き出すために

「ほかに意見はありませんか」「〇〇さんと同じ意見の人はいませんか」など、分かりにくい意見が出た時は「もう少し~についてくわしく話してください」「たとえば、どんなことがありますか」などの「技」を使う。

総合を通して各教科と実社会・実生活を結ぶ

 新市小では毎年新任が1~2名配置され、経験年数4年以内の教員が学級担任の半数を占めていた。生活科と総合を核とした授業改善の真っ只中にいた能島美希教諭(平成23~26年在籍、現福山市立今津小学校研究主任)は次のように述べている。

「総合の研究を始めてから、自己肯定感だけでなく、国語や算数などの学力調査結果も毎年右肩上がりに伸びている。総合を研究することで、学力がアップするのはなぜか。その要因の一つとして、『教科と教科とを結びつける横断的な学習の仕方が身につく』が挙げられる。総合では、『アンケート結果をまとめるために、算数で学んだ円グラフが使えそうだ』『国語で学習した新聞の書き方を使って、調べたことをまとめてみよう』など、児童が教科で学習したことを生かす活動が設定しやすい。このように、他教科での学びが生かせる、という経験を繰り返すことで、児童の中に、教科と教科とを結び付けて考えるという意識が自然と培われていく。実際に国語や算数の授業の中で、児童から『先生。これ、総合の○○で使えそう』という言葉が出てくることが多々あった。学習したことを生活の中で生かすことは、学習内容をより定着させるだけでなく、活用する力の育成にもつながる。また、総合の単元構成を考える中で、教師にも教科と教科を結び付けて考えようとする意識が身につく。教師の意識が変わることで、授業内容も他教科との関連を意識したものに変わる。授業内容が変われば、それを受ける児童の意識も変わる。総合を通して『すべての教科・すべての教育活動の中で、力を伸ばしていく』という考え方が、児童にも教師にも身につくことが、学力アップにつながる大きな一歩となる」

 教科学習をすぐに社会と繋げるのは難しい。社会との関係が強い総合と各教科等と関連づけていくことで、子どもにも教師にも学校での様々な学習と社会とのかかわりが見えてくる。

ありの目と鳥の目をもつ

 筆者は一貫して、社会貢献的な総合を推進してきた。小・中を問わず、いずれの学校も同様の効果が現れている。身近な地域の課題の多くは答えが一つに定まらない、解決したと思えば新たな課題が見出される。しかし、確実なことは、地域を深く知り、課題や問題を理解した上で愛し、少しでもよりよい社会にしたいという思いが育まれることである。また、課題解決の過程において実に多様な立場や世代の大人と関わることになる。そのことにより、人を介して社会を知ると共に、人との関わり方を学んでいく。審議のまとめにも述べられているように、「身近な地域を含めた社会とのつながりの中で学び、自らの人生や社会をよりよく変えていくことができるという実感を持つことは、困難を乗り越え、未来に向けて進む希望と力を与えることにつながる」が形となっていくのである。

 では、社会に開かれた教育課程の編成を実現していくために教師に必要なものはなにか。「ありの目」と「鳥の目」を持つことだと思う。まずは、身近な地域の「人・もの・こと」を知ることである。総合と生活科だけでなく各教科や道徳の授業に活用できる素材を見つけ出したい。例えば、年度始めの校区内のフィールド・ワークショップや地域素材に関するウェビングなどの研修を奨励している(3)。もう一つは、次代を見据えて子どもにどんな資質・能力を育めばよいのかを、改めて学校で明確化・共有化していくことである。特に、社会や大学等を目前に控えている高等学校こそ、狭義の学力観で教育課程編成を考えるのでなく、卒業後にどのような未来や世界が開けているのか、俯瞰的かつ先見的にものごとを捉え、そこではどのような資質・能力が求められるのか、具体化・共有化を図り、その実現のためのカリキュラム・マネジメントを推進していきたい。

 

[参考文献]

(1) 村川雅弘・野口徹・久野弘幸ほか「総合的な学習で育まれる学力とカリキュラム Ⅰ(小学校編)」『せいかつか&そうごう』(日本生活科・総合的学習教育学会編)第22号、pp.12-22、2015年

(2) 広島県福山市立新市小学校「『新市スタディー&マナー』で教職員一丸の学力づくり」村川雅弘ほか編著『「カリマネ」で学校はここまで変わる!』ぎょうせい、2013年

(3) 村川雅弘著『ワークショップ型教員研修 はじめの一歩』教育開発研究所、2016年

 

甲南女子大学教授
村川雅弘
Profile
むらかわ・まさひろ 鳴門教育大学大学院教授を経て、2017年4月より甲南女子大学教授。中央教育審議会中学校部会及び生活総合部会委員。著書は、『「カリマネ」で学校はここまで変わる!』(ぎょうせい)、『ワークショップ型教員研修 はじめの一歩』(教育開発研究所)など。

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