資質・能力の育成と総合的な学習の時間の見直し 田村 学(文部科学省初等中等教育局視学官)

トピック教育課題

2019.05.21

新教育課程ライブラリ Vol.7 2016年

育成すべき資質・能力と教育課程の工夫

 論点整理において示された育成すべき資質・能力の三つの柱は、「18歳の段階で身に付けておくべき力は何か」という観点や、「義務教育を終える段階で身に付けておくべき力は何か」という観点を共有しながら、各学校段階の各教科等において、系統的に示されなければならないこととされている。それは、以下の三つの柱である。

  • (1)個別の知識や技能(何を知っているか、何ができるか)
  • (2)思考力・判断力・表現力等(知っていること・できることをどう使うか)
  • (3)学びに向かう力、人間性等(どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか)

 

 これまで総合的な学習の時間においては、各学校において育成すべき資質や能力及び態度として、「学習方法に関すること」「自分自身に関すること」「他者や社会とのかかわりに関すること」の三つの視点が例示されていた。この視点は、全国の実践事例を整理する中で見出されてきたものであるとともに、OECDが示した主要能力(キー・コンピテンシー)にも符合しているものである。また、各学校においては、三つの視点を参考にして育成すべき資質や能力及び態度を明らかにし、その育成に向けて取り組んできた。

 論点整理に示された育成すべき資質・能力の三つの柱に沿って総合的な学習の時間において育成する資質・能力を検討するに当たっては、前回改訂で示した三つの視点との関係を整理することが必要になる。

 また、三つの柱はバランスよく育成していくことが期待されており、各教科等の文脈の中で身に付けていく力と、教科横断的に身に付けていく力を相互に関連付けながら育成していく必要がある。そのための教育課程の構造上の工夫の一つが、教科横断的で探究的な学びを行う総合的な学習の時間であると考えることができる。

総合的な学習の時間で育成すべき資質・能力

(1)個別の知識や技能(何を知っているか、何ができるか)

 課題の解決に向けて行われる横断的・総合的な学習や探究的な学習においては、それぞれの課題についての事実的知識や技能が獲得される。この事実的な知識については、各学校が設定する内容や一人ひとりの探究する課題に応じて異なることが考えられ、どのような学習活動を行い、どのような学習課題を設定し、どのような学習対象と関わり、どのような学習事項を学ぶかということと大いに関係する。このため、現行の学習指導要領においては、習得すべき知識や技能については示していない。

 一方、事実的知識は探究のプロセスが繰り返され、連続していく中で、何度も活用され発揮されていくことで、構造化され、体系化された概念的な知識へと高まっていく。この概念的知識については、例えば「様々な要素がつながり循環している」「互いに関わりながらよさを生かしている」などが考えられる。探究のプロセスにより、どのような概念的な知識が獲得されるのかということについては、何を学習課題として設定するか等により異なるため、個別具体的に学習指導要領上で設定することは難しいと考えられるが、各学校が目標や内容を設定するに当たっては、どのような概念的な知識が形成されるか、どのように概念的な知識を明示していくかなどについても、今後検討していくことが考えられる。

(2)思考力・判断力・表現力等(知っていること・できることをどう使うか)

 課題の解決に向けて行われる横断的・総合的な学習や探究的な学習においては、「①課題の設定」→「②情報の収集」→「③整理・分析」→「④まとめ・表現」の探究のプロセスが繰り返され、連続する。このプロセスでは、実社会や実生活の課題の解決に向けて、それぞれのプロセスに関わる資質・能力を育成することが求められる。

 この資質・能力については、これまでは各学校で設定する資質や能力及び態度の視点として「学習方法に関すること」と示していたことに対応している。なお、それぞれのプロセスで育成される資質・能力については、「①課題の設定」については複雑さや精緻さ、「②情報の収集」については妥当性や多様性、「③整理・分析」については多面性や信頼性、「④まとめ・表現」については論理性や深さなどの方向性で質を高めることができるよう、学校種や学年段階に応じた設定をしていくことなども考えられる。

(3)学びに向かう力、人間性等(どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか)

 資質・能力の三つの柱に示す総合的な学習の時間で育成すべき「学びに向かう力・人間性」は、三つの視点の中でも「自分自身に関すること」「他者や社会とのかかわりに関すること」と対応している。「自分自身に関すること」としては、主体性や自己理解、内面化して自信をつかむことなどの心情や態度が、「他者や社会とのかかわりに関すること」としては、協同性、他者理解、社会参画・社会貢献などの心情や態度が考えられる。それぞれを確かに育成していくためにも、それぞれの質的高まりを意識した学校種や学年段階に応じた設定などが考えられる。

資質・能力を育成する学習過程と見方・考え方

 総合的な学習の時間では、「①課題の設定」→「②情報の収集」→「③整理・分析」→「④まとめ・表現」の探究のプロセスを通して、資質・能力を育成していく。この学習過程は、物事の本質を探って見極めようとする一連の知的営みと考えることができる。

 探究のプロセスにおけるそれぞれの学習場面では次のような学習活動が行われることが期待されている。「①課題の設定」場面では、体験活動などを通して、課題を設定し課題意識を持つことを大切にする。「②情報の収集」場面では、課題意識や設定した課題を基に、観察、実験、見学、調査、探索、追体験などを行い必要な情報を収集する。「③整理・分析」場面では、比較したり、分類したり、関連付けたりして、収集した情報を整理したり分析したりする。「④まとめ・表現」場面では、自分の考えとしてまとめたり、他者に伝えたりして表現していく。

 こうした探究の過程において、各教科等の見方・考え方を総合的に活用し、広範かつ複雑な事象を多様な角度から俯瞰して捉え、実社会や実生活の複雑な文脈の中で物事を考えたり、自分自身の在り方生き方と関連付けて内省的に考えたりすることが行われることが重要である。総合的な学習の時間において、各教科等の特質に応じて育まれた見方・考え方を総合的に活用して探究的な学習を行うことにより、各教科等の見方・考え方と総合的な学習の時間固有の見方・考え方が相互に関連し合いながら確かなものになっていく。それは、例えば以下のようなイメージである。

 「①課題の設定」は、問題状況の中から課題を発見し設定し、解決の方法や手順を考え、見通しを持って計画を立てることである。実社会や実生活との関わりから見出される課題の多くは、答えが多様で正解の定まらない問いといった性質のものである。また、事象から課題を発見する際には、例えば、科学技術と環境に関わる事象について課題を設定する際、技術の特性に着目してその役割を捉えるという見方を用いることもできるし、現代社会を捉える概念的枠組みに着目して課題を見出すという見方を用いることもでき、そのいずれかが正しい見方であるということはない。物事を多角的に俯瞰して捉える中で、各教科等の見方・考え方を総合的に活用することになるのであろう。

 また、「②情報の収集」は、効果的な手段を選択し、情報を収集することである。情報活用能力を学校教育全体の中で育んでいくという方向が示されているように、各教科等で育まれた情報活用能力を総合的に活用することが求められてくる。

 「③整理・分析」では、問題状況における事実や関係を把握し理解したり、多様な情報の中にある特徴を見付けたり、課題解決を目指して事象を比較し関連付けたりして考えることを行う。ここでは、各教科等で育まれた見方・考え方が総合的に活用され、例えば、比較、分類、関連付けといった思考の枠組みが教科横断的に汎用的に活用できるものとして探究のプロセスの中で磨かれていくことが期待される。

 「④まとめ・表現」は、相手や目的、意図に応じてわかりやすくまとめ、表現したり、学習の仕方や進め方を振り返り、学習や生活に活かそうとしたりすることである。身に付けた知識や技能等を活用したり視野が広がったことを実感してさらなる学習への意欲を高めたり、学んだことを自己の現在や将来と結び付けて、自分の成長を自覚したり自己の在り方や生き方を考えることといった総合的な学習の時間の特徴が顕著に表れる場面でもある。

 こうした一連の探究のプロセスの中で、各教科等で育成された見方・考え方を総合的に活用することで、各教科等で育成された資質・能力は、各教科等の文脈を離れ、実社会・実生活の中で生きて働くものとなっていく。子供はこうした学習を経験することを通して、探究的な学びの意義やよさを理解することができるのではないだろうか。

総合的な学習の時間とカリキュラム・マネジメント

 カリキュラムをデザインする際、総合的な学習の時間は教育目標と直接的につながるという点において、極めて大きな役割を担うことになる。各学校で育成すべき資質・能力を明らかにし、総合的な学習の時間を中心に教育課程を編成していくことが、これからの重要なポイントの一つともなろう。

 ここまで「生活・総合的な学習の時間ワーキンググループ議論のまとめ(たたき台・イメージ)」(6月17日、中教審生活・総合WG)を基に、学習指導要領改訂の方向性を示してきた。こうした方向性を踏まえるとともに、一人ひとりの子供に探究的な学びが確かに実現できるよう、さらなる検討を進めていくことになるであろう。

 

文部科学省初等中等教育局視学官
田村 学
Profile
たむら・まなぶ 1962年新潟県生まれ。新潟大学卒業。上越市立大手町小学校、上越教育大学附属小学校で生活科・総合的な学習の時間を実践、カリキュラム研究に取り組む。2005年4月より、生活科・総合的な学習の時間担当の教科調査官。2015年より、現職。日本生活科・総合的学習教育学会常任理事。主な著書『総合の新しい授業アイディア』(ぎょうせい)、『思考ツールの授業』(小学館)、『授業を磨く』(東洋館出版)など。

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