移行措置期における学校づくりの条件 天笠 茂(千葉大学特任教授)

トピック教育課題

2019.05.22

『新教育課程ライブラリⅡ』Vol.9 2017年

「学びの地図」の共通理解

 移行措置期に向けて、まずは総則を全教職員の間で理解し共有することが大切だと思います。

 今回の学習指導要領は、内容中心の改訂というよりは、資質・能力の育成を目指した学び方そのものの改訂となっていることは多くの学校現場で理解されていると思います。であるからこそ、今回の改訂についての理念や具体的方向性をしっかりと理解することが大切になってくるわけです。

 カリキュラム・マネジメントや社会に開かれた教育課程など、従来は管理職や教務主任が主に執り行ってきたと思われるものも、今回の改訂では全教職員がチームを組んで進めていくことを求めています。

 そのためには、各学校においては、これらを組織的に行っていくための条件整備をはかっていく必要があります。例えば、教職員をどのように配置してカリキュラム・マネジメントに取り組んでいくか、社会に開かれた教育課程の編成や実施について、学校教育目標との関連も含め、学校全体、学年、学級でどのように取り組んでいくか、あるいは、「主体的・対話的で深い学び」を実現するために、自校の授業の在り方や学習過程などについてどのように共通認識をもちそれぞれに進めていけばよいか、などといったことの検討が必要でしょう。

 こうした新学習指導要領が求める学校づくり・授業づくりを、総則は「学びの地図」として示しているのです。

 その意味でも、全教職員による総則の理解とそれに基づいた取組みの具体化が、移行措置期には求められているといえます。

総則のチェックリスト化

 では、総則を理解した上で、それを移行措置期にどのように具体的な取組みとしていったらよいでしょうか。 

 その一案として、総則の見出しなどの項目を抜き出し、リスト化することを勧めたいと思います。

 総則には、各学校種における役割、知・徳・体に関しての教育のあり方、資質・能力の明確化やカリキュラム・マネジメントのあり方、教育課程の編成・実施・評価、特別支援教育や道徳教育など個別具体な教育課題などが整理されています。これらは、新学習指導要領を実施するためのポイントとなるものです。

 もちろん、学習指導要領が改訂されたからといって、これまでの取組みを捨てて新しいことを一から始めることが求められているわけではありません。

 総則とこれまでの自校の取組みを引き比べて、どこをどのように修正していくか、どの部分を新たに取り組んでいくべきかということを検討するために、総則の項目をリスト化し、それをもとに、新学習指導要領の理念や方向性に即して具体的な実践課題を整理していくことが有効ではないかと思います。

 また、完全実施を見据えて、取り組んでいくべきことを段階的に整理していくということも有効です。主体的・対話的で深い学び、カリキュラム・マネジメント、社会に開かれた教育課程はもとより、道徳教育、外国語教育、プログラミング教育など、様々な新たな実践課題について、どの時点までにどのように取り組んでいくかということを、ロードマップとして整理していくことも有効でしょう。

 移行措置期の学校づくり・授業づくりについては、このような、課題の整理と先を見据えた計画的なビジョンが求められているといえます。

新指導要領を実現する人材の育成

 移行期において、もう一つ押さえておくべきことは、教育課程編成にしても、カリキュラム・マネジメントにしても、それを実践していく人材の育成が必要ということです。校内の特定の人材ということではなく、教職員全体のレベルアップが求められているのです。急増する若手の育成、学校の取組み全体を俯瞰して動けるミドルリーダーの育成、学校運営だけでなく授業を理解し指導できる管理職の力量が求められます。こうしたことを校内の研修等にも位置付け、教職員全体の力量向上をはかっていく取組みが移行措置期には求められているのです。

 

 

千葉大学特任教授
天笠 茂
Profile
あまがさ・しげる 昭和25年東京都生まれ。川崎市立子母口小学校教諭、筑波大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。昭和57年千葉大学講師となり、平成9年より同大教授、平成28年度より同大特任教授。学校経営学、教育経営学、カリキュラム・マネジメント専攻。中央教育審議会初等中等教育分科会委員など文科省の各種委員等を務める。単著『学校経営の戦略と手法』『カリキュラムを基盤とする学校経営』をはじめ編著書多数。

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特集:移行措置期の学校づくりを考える

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