資質・能力ベースの学校文化づくり 寺崎千秋(一財教育調査研究所研究部長)

トピック教育課題

2019.05.22

『新教育課程ライブラリⅡ』Vol.6 2017年

学校文化がはぐくむ子供たち

 学校は教育基本法や学校教育法が示す教育の目的や目標が子供一人一人に具現するよう学習指導要領等に基づき教育課程を編成・実施するとともに、教師等の人、施設・設備等のもの、教育予算などの金、情報、時間等の教育環境を整え、家庭・地域とともに教育を進める。これらの総体が子供たちを育み子供たちに影響を与える。学校文化はこうした教育の営みから育ってくる子供たちの姿であり、育てようとする大人たちの姿として表出する。また、それらがつくり出す教育環境でもある。

 子供の明るく活気のある姿が溢れる学校、落ちついて淑やかな感じを醸し出す学校、学んだ成果が学校内に溢れている学校がある。一方で、騒がしく落ち着きのない学校、子供たちに笑顔や挨拶がなく活気のない学校、校内が殺風景で冷たさを感じる学校もある。笑顔で明るくテキパキと躍動的な先生等、一致協力して組織的に機動する先生等、子供の話が弾み真剣さが伝わってくる職員室、等々がある。一方で、挨拶もなく冷たい感じのする先生方、笑顔がなく風通しの悪い雰囲気の職員室、子供や保護者の問題ばかりを話題にする職員室などいろいろである。保護者・地域の人々では、学校に関心が高くいつも協力的で強力な支援をしてくれる、何かあれば直ぐに学校に苦情を持ち込み非協力的、学校に全く関心を示さない人々が多数いる、これまた様々である。こうした学校文化の中で子供たちは育っている。どのような教育課程で、どのような教育活動を通してそうした姿が生じるのか。学校文化と教育課程は一体なのである。だとすれば、よりよい学校文化を築き育むこと、すなわちよりよい教育課程を編成し、よりよく実施することは、すべてが子供たちのためであり、学校、特に管理職の重要な職務と言えよう。

今、求められている資質・能力の育成

 これからの学校は、どのような子供をどのように育てることを求められているか。制度的にはほぼ10年に一度、中央教育審議会が未来に向けて教育に求められているものや教育の在り方を審議し答申を出す。答申をもとに教育課程の基準である学習指導要領等が改訂される。今回もこれらを受けて、未来の社会の創り手となり、未来に生きる力を育む教育を推進する新たな学校づくりが始まった。子供たちにどのような力を育むのか。平成28年12月21日、中央教育審議会は育成を目指す資質・能力として次の三つの柱を示した。

  • ・ 「何を理解しているか、何ができるか(生きて働く「知識・技能」の習得)」
  • ・ 「理解していること・できることをどう使うか(未知の状況にも対応できる「思考力・判断力・表現力等」の育成)」
  • ・ 「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか(学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力・人間性等」の涵養)」

 答申を受けて平成29年3月31日に告示された新しい学習指導要領では、創意工夫を生かした特色ある教育活動を展開する中で、子供に生きる力を育むことを目指し、次の事項を偏りなく実現することを求めている。

  • ・ 知識及び技能が習得されるようにすること。
  • ・ 思考力、判断力、表現力等を育成すること。
  • ・ 学びに向かう力、人間性等を涵養すること。法規文として簡潔に示されているが、その趣旨は前述の答申が示すところであり、これをしっかりと捉えて各教科等の目標や内容等を把握することが必要である。

 求められている資質・能力の育成はこれだけではない。新学習指導要領の総則では、この他に「教科等横断的な視点に立った資質・能力」として以下の2点を示している。

  • ・ 児童(生徒)の発達の段階を考慮し、言語能力、情報活用能力(情報モラルを含む)、問題発見・解決能力等の学習の基盤となる資質・能力。
  • ・ 豊かな人生の実現や災害等を乗り越えて次代の社会を形成することに向けた現代的な諸課題に対応して求められる資質・能力。

 さらに、新学習指導要領から新たに示された「前文」において、「児童(生徒)が学ぶことの意義を実感できる環境を整え、一人一人の資質・能力を伸ばせるようしていく」ことを求めている。教育基本法が目的とする「人格の完成を目指し」を受けたものである。

 総則では、「第4児童(生徒)の発達の支援」を位置づけ、これまで以上に一人一人の教育への視点を重視していると受け止められる。

 各学校は、育成を目指す資質・能力の三つの柱を核として学校教育全体、各教科等における指導を通してどのような資質・能力をどのように育んでいくかを学校教育目標に位置づけ、教育課程において明確にすることが求められている。

学校教育目標と学校文化の見直し

 新学習指導要領の総則では教育課程の編成に際し、「学校教育全体や各教科等における指導を通して育成を目指す資質・能力を踏まえつつ、各学校の教育目標を明確にする」ことを求めている。すなわち、学校の教育目標が育成を目指す資質・能力を踏まえているかということであり、この視点で自校の教育目標を見直すことが必要である。かつて、教育目標はお題目であり、掲示してあるものにとどまり、教育課程と乖離していると言われた。今、どうであろうか。学校の教育目標を具現する教育課程が編成され実施されてきたであろうか。学校評価・教育課程評価を通してこの点を省察し、答申や新学習指導要領が求める資質・能力育成の視点から学校の教育目標を見直すことが必要であろう。

 学校教育目標は、どんな児童・生徒を育てるかを明示し、教育課程はそれを具現するものである。さらに言えば、どんな学校を創るのかの目標を示すものであり、それは学校の教育文化、学校文化の創造の目標でもある。

 教育目標を見直すということは、これまでの教育目標を継続するのか、改善するのか、まったく新しくするのかなどを検討し、次期教育課程の原点を定めるということである。同時に、その教育目標具現のための学校文化を見直し創造するということでもある。

 これまでに、学校が重点にしてきた教育目標、その具現のための教育課程の重点、学習指導や生徒指導の重点、実現のための教育環境の整備、保護者や地域の人々との協力・連携などの推進により、子供たちはどのように育っているのか、すなわち、学校文化からどのような影響を受けているのかを見直すことから始まる。特にこれらの総体としての特色ある学校づくりの中核となる教育活動は子供たちに大きな影響を与える。学校によって、地域の歴史、伝統や文化を取り入れ生かした教育活動、社会の課題であるESDに取り組む教育活動、今日的な教育の課題である道徳教育や情報教育などに取り組む教育活動等々、多種・多彩な特色ある学校づくりを進めてきた。これらが、真に教育目標の具現に機能しているかを改めて問いなおし学校文化を見直すことが必要である。

 教育目標や学校文化の見直しに際しては、教員等のみで行うのではなく、保護者や地域の人々とともに検討すること、子供たちの考えや意見も聴取することなど、学校・家庭・地域が協働して進めることが「社会に開かれた教育課程」の視点からも重要である。

教育課程編成と学校文化づくり

 新学習指導要領に基づく新教育課程の全面実施は平成32年度(中学校は33年度)であり平成29年度は移行期間の1年目として、新学習指導要領の趣旨の理解とともに、全面実施に向けた新教育課程編成のスケジュール(工程表)を作成し教育課程改訂の見通しを立てるときである。その出発点が前述した学校の教育目標や学校文化の見直しである。

 具体的にどのように進めるか。すでに現行教育課程に関する評価は学校評価の一連として積み重ねがあり、そのよさや課題は明らかになっている。それとともに教育課程の実施等が生み出す学校文化についても同様である。これらを踏まえて、新学習指導要領を学習し、その趣旨や内容等を把握する。

 特に、今回の改訂では、教育課程の理念を「社会に開かれた教育課程」とし、「資質・能力の育成」を重視して、総則以下、各教科等においても「資質・能力の三つの柱」に対応して目標や内容を整理している。さらには、資質・能力を確実に育成するために「主体的・対話的で深い学びを実現する授業改善」を重視するとともに、それを確実に行うための「カリキュラム・マネジメント」の充実を求めている。こうした視点にこれまでどのように取り組んできたかを基に、継続し発展させること、新たに取り入れることなどや止めることなどを明らかにすることにより、今後の新しい自校の教育課程の在り方、学校文化づくりの方向が見えてくることであろう。

教育課程の編成・実施に向けた今後の取組み

 資質・能力の三つの柱の育成に向けた「主体的・対話的で深い学び」が実現する教育課程はどのようなものか、今後、研究・研修していくことが必要である。これまでのカリキュラム・マネジメントの経験や、今後出される様々な資料等を合わせて移行期間に取り組んでいくことが必要である。工程表を作成し見通しをもって取り組むようにしたい。

 「アクティブ・ラーニング」が言われたときに多く語られたことが「これまでもやってきた」ということである。その通りで、現行の学習指導要領においても、「言語活動の重視」「基礎的・基本的な知識・技能の活用」「体験的な学習や基礎的・基本的な知識・技能を活用する問題解決的な学習」「学習の見通しと振り返り」「探究的な学習」「協同的な学習」を重視しており、これらはアクティブ・ラーニングの要素である。課題は十分にできていなかったということであり、各教育調査の結果からも明らかになっている。子供が受け身ではなく主体となって学び、自らの学びの成果を自覚し、さらに学びを深めようとすること、教えから学びへの転換を図るということである。そうした子供たちの姿、それを実現できる教師の指導の姿はまさに学校文化となって表出することが期待され、実践的な研修を通して力量を高めるしかない。その視点が「主体的・対話的で深い学び」である。

 一人一人の子供に資質・能力の三つの柱等の力を身につけさせる「社会に開かれた教育課程」を編成し、主体的・対話的で深い学びの実現を目指す授業改善、教育の質を高めるカリキュラム・マネジメントの充実は、家庭・地域とともに一体となって取り組むことが求められている。したがって、これらを家庭や地域に繰り返し説明し、協力・協働を得るように努め、そうした学校文化を共に創っていく取組みを大切にする。

 平成29年度はスタートの年であり、教育目標の見直しに始まり、移行期間の計画を立て新教育課程編成の準備をするときである。新たな学校づくりに向けビジョンを示し、方針を確立して、意図的、計画的、組織的、継続的に着々と進められるようリーダーシップを発揮することが管理職の責務であり、全教職員のプロとしての職務である。

 

一般財団法人教育調査研究所研究部長
寺崎千秋
Profile
てらさき・ちあき 一般財団法人教育調査研究所研究部長。東京都公立小学校教員。東京都教育委員会指導主事、同主任指導主事。都立教育研究所教科研究部長。練馬区立開進第三小学校長、同光和小学校長。全国連合小学校長会会長。全国生活科・総合的な学習教育研究協議会会長。生活科・総合的な学習教育学会常任理事。中央教育審議会臨時委員。文部科学省政策評価有識者会議委員。東京学芸大学教職大学院特任教授。著書『新教育課程完全実施の授業力更新』他、多数。

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