我が校の教育課程をどう描くか 全面実施に向けたカリキュラムづくり 寺崎千秋(一財教育調査研究所研究部長)
トピック教育課題
2019.06.03
目次
年間の工程表の作成と確実な推進
小学校は新学習指導要領に基づく教育課程の全面実施まであと1年。準備は着々と進行しているだろうか。外国語科・外国語活動の導入やプログラミング教育は新たな課題ではあるもののこれらは教育課程の一部にすぎない。肝心の教育課程全体の編成を疎かにしていないだろうか。移行期間はあと1年。新教育課程の全体や構造に目を向けて教育課程を編成し指導計画の作成を確実に進めていくことができているだろうか。
あらためて教育課程の意義や基本を確認しておこう。総則の解説書では教育課程の意義を「学校教育の目的や目標を達成するために、教育の内容を児童の心身の発達に応じ、授業時数との関連において総合的に組織した各学校の教育計画である」としている。学校の教育計画であるから一部ではなく全体や構造を意識して編成する必要がある。教育課程編成の基本的な要素として「学校の教育目標の設定、指導内容の組織および授業時数の配当」を示している。これらの基本を踏まえるようにする。
学校の教育目標の設定については、すでに平成29年度にこれまでの教育目標を見直し、今後10年間の教育目標の設定を実施したことであろう。平成30年度から道徳、総合的な学習の時間、特別活動は全面実施になっており、これらの教育はすでに見直し設定した学校教育目標の実現に向けて行うことが本来である。未だ学校の教育目標を見直し設定していない学校は早急に行う必要がある。一方、学校の教育目標の見直し設定とともに、これからの学校をどんな学校にするのかについて、学校づくりのビジョンと方針が示されていることであろう。これらの実現に向けて教育課程は編成され実施されていく。これは校長のリーダーシップの発揮どころである。
指導内容の組織および授業時数の配当に関しては、学習指導要領の各教科等の目標や内容の分析・検討から、学校の教育目標との関連で重点を置く目標や内容を決定し、教科等横断的な教育課程の編成を視点にして、それらに相応しい授業時数を配当することになる。
いよいよ、あと1年。教育課程をいつ、だれが、どのように編成していくかが見えるように工程表を示す。編成作業の組織・役割分担、作業日程などを示す。これらを職員室に掲示し、工程表に従って着々と作業を進めていくことである。特に次年度は、新教科書が今年の秋口までに採択される。これを主たる教材とする年間指導計画・単元等の指導計画の作成も必要である。指導計画の作成はゼロ発進ではなく、教育委員会等が示す諸資料等や教科書会社が参考に提供する指導計画例などを活用して、自校の子供のための具体的で特色ある指導計画を作成する。
資質・能力の三つの柱の明示
新教育課程編成の目的は「生きる力」を育成するために重視する資質・能力の三つの柱の育成にある。すなわち、「基礎的・基本的な知識・技能の習得」、「思考力、判断力、表現力等の育成」、「学びに向かう力、人間性等の涵養」の三つの柱である。各教科等の目標や内容はこれらの三つの柱で構成されている。その内容を確認して教育課程や指導計画に適切に位置付けているだろうか。
これからの教育は、先行き不透明な時代にあって、自ら課題を発見し問題解決し未来を創り出していく人間を育成する教育が求められている。その視点が資質・能力の三つの柱である。その位置付けは、まず、教育課程編成の出発点である学校の教育目標の設定にある。教育課程は学校の教育目標を具現するために編成・実施する。自校の教育目標は新学習指導要領が目指す資質・能力の三つの柱を踏まえた目標にすることである。
次いで、教育課程は三つの柱を踏まえた自校の教育目標を実現するように編成する。知識・技能だけではなく、思考力、判断力、表現力等の能力の育成や学びに向かう力、人間性等の涵養の位置付けを明確にすることである。
さらに、各学校の教育目標は子供や学校、地域の特性や実態に基づくものであり、各学校の特色や個性を表すものとなっている。したがって、それを実現する教育課程も特色あるものとなっているかということをあらためて確認する。
学習の基盤となる資質・能力育成の位置付け
未来を切り拓く子供たちに必要な資質・能力として、日々の学習や生涯にわたって学びの基盤となる資質・能力の育成が重視され、教科等横断的な視点で育むことが求められている。学習の基盤となる資質・能力として、言語能力、情報活用能力、問題発見・解決能力等が重視されている。これらを適切に教育課程や指導計画に位置付けているだろうか。
各教科等の学習の基盤となる言語能力は、これまでの学習指導要領においても重視されてきた。今回の改訂で、創造的・論理的思考の側面、感性・情緒の側面、他者とのコミュニケーションの側面から国語科の目標や内容が改善されている。言語能力を支える語彙の段階的な獲得も含め、発達の段階に応じた言語能力の育成が図られるよう、国語科を要としつつ教育課程全体を見渡して組織的・計画的な取組が行われるように位置付ける。外国語科および外国語活動では国語科と共通する指導内容や指導方法を効果的に連携させ、言語としての共通性や固有の特徴への気付きを促し、相乗効果の中で言語能力が効果的に育成されるよう位置付けるようにする。
情報活用能力は、世の中の様々な事象を情報とその結び付きとして捉え、情報および情報技術を適切かつ効果的に活用して、問題を発見・解決したり自分の考えを形成したりしていくために必要な資質・能力として重視されている。今回の改訂では、資質・能力の三つの柱にそって情報活用能力が整理されており、各教科等との関わりも明確にされている。日常的に情報技術を活用できる環境を整備し、各教科等の特質に応じて情報技術を適切に活用した学習活動の充実を図るように位置付けるようにする。
問題発見・解決能力には、各教科等において教科の特質に応じた問題解決的な学習を充実することで育成される。特に、問題解決の過程を振り返り、次の問題発見・解決につなげていく過程を重視する。総合的な学習の時間や特別活動において、各教科等で身に付けた知識・技能、思考力・判断力・表現力等を総合的に活用できるように位置付けるようにする。
学習の基盤となる資質・能力は全教育活動に関連するものである。これらを育成するため、子供の発達段階を考慮しながら各教科等の特質や役割を明確にし、教科等横断的な視点から育んでいくよう教育課程や指導計画に位置付けるようにする。また、以下に示す授業改善の三つの視点とも関連させて学習の基盤となる資質・能力の意義とその取組の場面等を教育課程や指導計画に位置付けるようにする。
現代的な諸課題に対応して求められる資質・能力育成の位置付け
豊かな人生の実現や災害等を乗り越えて次代の社会を形成することに向けた現代的な諸課題に対応して求められる資質・能力を、子供の発達段階を考慮し、各教科等の役割を明確にしながら、教科等横断的な視点から育むように教育課程を編成し指導計画を作成しているだろうか。
現代的な諸課題には、「健康・安全・食に関する力」「主権者として求められる力」「新たな価値を生み出す豊かな創造性」「グローバル化の中で多様性を尊重するととともに、現在まで受け継がれてきた我が国固有の領土や歴史について理解し、伝統や文化を尊重しつつ、多様な他者と協働しながら目標に向かって挑戦する力」「地域や社会における産業の役割を理解し地域創生等に生かす力」「自然環境や資源の有限性等の中で持続可能な社会をつくる力」「豊かなスポーツライフを実現する力」等々の育成などが考えられている。いずれも未来に生きる子供たちに必要な力である。教育課程編成等に際しては、これらに関して地域の実態や特色などを考慮しながら、学校の教育目標との関連、家庭・地域との連携や協働などに配慮して学校の重点を定め、特色ある教育活動を創意工夫していくことができるよう教育課程や指導計画に位置付けるようにする。
カリキュラム・マネジメントの充実
カリキュラム・マネジメントに関しては、学校教育に係わる様々な取組を、教育課程を中心に据えながら組織的かつ計画的に実施し教育活動の質の向上につなげていくことができているだろうか。カリキュラム・マネジメントはこれまでは管理職の責務であるように捉えられていたが、全ての教職員の責務として捉え、充実を図っているだろうか。
カリキュラム・マネジメントは三つの側面を通して、教育課程に基づき意図的、計画的、組織的、継続的、発展的に学校の教育活動の質の向上を図っていくようにしたい。意図的とは、各教育活動の目的・目標を明確にし共通理解すること。計画的とは、短期・中期・長期相互の関連を図りながら見通しをもった教育活動を進めること。組織的とは、教育活動は各個が別々に行う個業ではなく、組織としての役割分担を明確にし協働して教育活動を推進すること。継続的とは教育課程等に基づいて教育活動をつなげて効果を上げること。発展的とは、単に繰り返すのでなく、質の向上を目指すことである。これらを意識しながら次の三つの側面から教育課程を捉え編成していくことが基本である。
第一の側面は、教育の目的や目標の実現に必要な教育の内容等を教科等横断的な視点で組み立てていくこと。教科等ごとの縦割り型の編成に止まらず、他教科等との関連や他教科等での学習成果の活用などを踏まえてより教育効果が上がるように編成することである。これまでも、道徳、総合的な学習の時間、特別活動などでは全体計画を作成し、各教科等の関連を明確にし、学校の教育活動全体を通して目標に迫るようにしてきた。これをさらに広げ、各教科等間で目標や内容の関連を検討し、関連を図った計画を作成し合科的・関連的な指導が行えるよう教育課程や指導計画に位置付けるようにする。
第二の側面は、教育課程の実施状況を評価してその改善を図ること、学校が形成的・総括的に行っている学校評価・教育課程評価の結果を教育課程や指導計画の改善に生かすことである。そのためには、家庭・地域も含めて全者で協議して打ち出した教育課程や指導計画の改善策を立てたところで止まらずに次年度の教育課程や指導計画を書き換えて改善したものにするという、PDCAのマネジメントサイクルを確立することである。サイクルを確立させ教育の質の向上につなげることを求めたい。
第三の側面は、教育課程の実施に必要な人的または物的な体制を確保するとともにその改善を図っていくことである。地域等の諸教育資源の扱いを教育内容と関連付けて教育課程に位置付けること、活動にばかり目が向くことなく、何のためにという教育資源の価値を見失わず教育内容と関連付けて位置付けることである。これまでも地域の人材マップや人材バンク等を効果的に活用してきた。これらが活動ありきで止まらずに確実に教育効果を上げるよう体制を整え、その改善を図っていくようにする。
主体的・対話的で深い学びを実現する指導計画の作成
移行措置1年目の平成30年度、各学校は資質・能力の三つの柱の育成に向けた授業改善に校内研究・研修等を通じて取り組んできた。1年を振り返って、その成果や課題を具体的に明らかにし、その視点や内容、具体策や手立てを新年度の教育課程および指導計画に位置付けているだろうか。これなくして学びの質の向上を期待することはできない。
主体的な学び、対話的な学び、深い学びといった授業改善の各視点から具体的な改善がどのように図られたか、新年度にどのように改善するか、その視点や要点、指導上の留意点を指導計画に位置付けるようにする。特に、単元や題材などの内容や時間のまとまり、学習過程においてこれらの学びの機会を適切に位置付けることが必要である。
また、基礎的・基本的な知識・技能の習得の場面、課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力を活用する場面、新たな課題を見いだし探究する場面などを指導計画に適切に具体的に位置付けることが必要である。
さらに、主体的・対話的で深い学びを実現するためには、資質・能力を身に付けさせようとするだけでなく、一人一人の児童が身に付けている力、一人一人の個性や特色などを発揮できるようにし、自己実現できるよう配慮して指導計画を作成することも大切にしたい。
新学習指導要領に基づく教育課程の全面実施は、編成する教育課程、作成する指導計画に基づき、主体的・対話的で深い学びを実現する実践、カリキュラム・マネジメントの充実があって実のあるものとなる。この1年、学校・地域挙げて取り組んでいくときである。
一般財団法人教育調査研究所研究部長
寺崎千秋
Profile
てらさき・ちあき 一般財団法人教育調査研究所研究部長。東京都公立小学校教員。東京都教育委員会指導主事、同主任指導主事。都立教育研究所教科研究部長。練馬区立開進第三小学校長、同光和小学校長。全国連合小学校長会会長。全国生活科・総合的な学習教育研究協議会会長。生活科・総合的な学習教育学会常任理事。中央教育審議会臨時委員。文部科学省政策評価有識者会議委員。東京学芸大学教職大学院特任教授。著書『新教育課程完全実施の授業力更新』他、多数。