カリキュラムマネジメントのポイントと組織体制  田村知子(岐阜大学大学院准教授)

トピック教育課題

2019.05.21

新教育課程ライブラリ Vol.5 2016年

システム思考に基づくカリキュラムマネジメント

 カリキュラムマネジメントは、実践であるが、その前に「考え方」でもある。方法の背景には理念や理論がある。その理念や理論を踏まえず、方法や実践事例にのみ注目すると、異なる条件下では、実践化が不可能なように思えてしまう。形骸化も懸念される。考え方を十分理解していれば、状況に合わせて方法を適用あるいは創出することが可能となる。

 カリキュラムマネジメントの主要な考え方のひとつは、システム思考である。カリキュラムマネジメント論の土台となった教育課程経営論を提唱した高野桂一は、教育課程経営の科学化を志向し、その一環として「システム的に思考すること」を提案し、教育課程経営を「トータル・システムとしての学校経営」の「サブ・システム」と位置づけた(高野1989)(1)。カリキュラムマネジメント論への転換を提起した中留武昭は、学校を「環境に対してダイナミックに対応して、ある一定の成果を生み出すためにインプット条件を教育的に変容させるべくオープンシステム」ととらえた(中留1991)(2)

 システムとは「何かを達成するように一貫性を持って組織されている、相互につながっている一連の構成要素(メドウズ2015、原書2008)」である(3)。この定義に明らかなように、システムとは「目的」と「要素」と「要素間のつながり」から成り立つ。これら3要素はすべて重要でシステムに欠かせないのだが、相対的には、目的>つながり>要素の順に重要である。例えば、教員は学校というシステムの主要な要素であり、メンバーの入れ替わりや人数の増減は、システム全体に少なからず影響を与える。しかし、つながりの在り方が変更されたら信じられないほど劇的にシステムが変容する。例えば、教員・生徒の間の「教授・学習」関係が逆になったらどうなるだろうか。また、目的が変われば、全く異なるシステムになる。たとえば、学校の目的が物品の生産になったらどうだろうか?

図 カリキュラムマネジメント・モデル図

 は、国内外の先行研究の理論的検討と量的・質的な実証研究を経て筆者が構築した、カリキュラムマネジメントのシステムを図的に表現したモデル図である。モデル図は、現実世界を抽象化した模型である。現実には、ただ一つとして同じ学校は存在せず、個別の条件を備え、様々な要因が複雑に絡み合い、1回限りの事象が絶え間なく起こっている。しかし、その主要な要素と関係性のパターンを、簡素に図式化することにより、共通の分析枠組みを提供し、各学校の共通点や個別性を見出しやすくなる。図には、「ア.教育目標の具現化」「イ.カリキュラムのPDCA」「ウ.組織構造」「エ.学校文化」「オ.リーダー」の要素を包含した学校内のシステムが、学校外の「カ.家庭・地域社会等」「キ.教育課程行政」の要素との相互関係にあるオープンシステムとして描かれている。

カリキュラムマネジメントの対象

 目的はシステムを決定する。では、カリキュラムマネジメントの目的は何か。それは、児童・生徒の教育的成長である。この目的に資するように、全ての要素と要素間のつながりをデザインしマネジメントしていくことが、最適なカリキュラムマネジメントである。このことを前提として、カリキュラムマネジメントの対象を4つに分けて提示する。

(1)目標をマネジメントする

 子どもに育成すべき資質・能力から、具体的で達成可能な「ア.教育目標」を設定する。教育目標は、システムの目的と密接に連関しているので決定的に重要である。目標は、折をみて見直し続け、関係者間で共有化する(図中ア)。

(2)カリキュラムマネジメントする

 単位時間や単元、年間のカリキュラム、各レベルにおいてねらいを定め、目標と手だてを明確にし、効果的な授業を展開し、モニタリングし、振り返り、次の授業・単元や次年度のカリキュラムをさらによいものにする。つまり、PDCAサイクルを回す(図中アとの関連において、イを行う)。これは、すべての授業者に必要なマネジメントである。

(3)カリキュラムマネジメントする

 年間指導計画のようなカリキュラム関連文書は、マネジメントのためのツールになりうる。個別の実践や、教員一人ひとりの頭の中にある構想や経験を組織的に共有するためにも、カリキュラム文書に書き込み、「見える化」する。目標や内容の関連性・系統性、手立てなどを「見える化」し、それを共有化・継承する場や機会をつくる。教務主任や研究主任といったカリキュラム・リーダーには特に必要な視点である(図中イとウとの関連)。

(4)カリキュラムのためにマネジメントする

 授業者は、自らの実践のための条件整備を意識的に行う必要がある。しかし、カリキュラム開発の組織体制整備、研究時間の捻出や組織的な学習機会の提供、地域の人・もの・ことの活用、設備・備品などの条件整備、学校全体で前向きにカリキュラム開発に取り組む雰囲気づくりなどには、管理職だからこそできることが多く、特に管理職が意を用いたいマネジメント対象である(図中イとウ・エ・カ・キの関連)。

新教育課程を見据えたカリキュラムマネジメントのポイントと組織体制

 新教育課程に向けた中央教育審議会の議論は、教育課程部会における、育成すべき資質・能力(図中ア)、教育課程の構造や学習方法、評価等(図中イ)の議論に留まらない。平成27年12月21日の3つの中教審答申は、各々、新教育課程の実現に資するべく連動している。

  • ① 『これからの学校教育を担う教員の資質能力の向上について』(図中ウ、オ、カ、キ)
  • ② 『チームとしての学校の在り方と今後の改善方策について』(図中ウ、エ、オ)
  • ③ 『新しい時代の教育や地方創生の実現に向けた学校と地域の連携・協働の在り方と今後の推進方策について』(図中オ、カ、キ)

 

 これらは直接的には図中のウ・エ・カ・キという経営面の要素の変革を期すものだが、答申を読めば明確なように、すべてが子どもに必要な資質・能力を育成すること(図中ア)とそのためのカリキュラムや学習指導(図中イ)に連動して議論されている。即ち、今次の中教審の議論は、カリキュラムマネジメントのシステム全体の再設計とも解釈される。

 したがって、新教育課程に向けたカリキュラムマネジメントのポイントの第1は、育成すべき資質・能力について、その背景や理由を含めて、十分な理解を促し、目標を再定義することである。目標こそが、促進すべき学習や授業実践、カリキュラム構成の指針となる。知識・技能の習得が主要な目標であった時代は、教科書が強力なマネジメント・ツールとなりえた。しかし、知識や技能の活用や、社会・世界との関わり方や生き方を考えることまでを主要な教育目標として掲げた場合、知識を活用する学習や、実際に社会と関わる体験的な学習などが必須となる。このような学習の実現のためには、教科書だけでは不十分である(例えば、教科書の単元末に設けられた活用のための学習を取り扱わない教員は意外と多い)。個々の教員が、必要性を感じ、主体的かつ継続的に授業とカリキュラムを変えていくためには、育成すべき資質・能力を理解し、十分に納得する必要がある。そのためには、子どもや地域の実態把握、学力調査のデータ分析、カリキュラム評価、教育目標の見直し、ビジョンの作成などにおいて、ワークショップ型校内研修などの方法を取り入れ、計画段階や評価段階への参画の機会をつくるとよいだろう。教職員に対して、授業や学級に留まらず、カリキュラムや学校を創る主体者性(オーナーシップ)を促進したい。その際、「チーム学校」の理念を踏まえ、養護教諭や栄養教諭、事務職員、その他の専門スタッフといったメンバー(ときには学校外の関係者を含む)と共に考えることを意識したい。

 第2のポイントは、「論点整理」が強調した「これからの時代に求められる資質・能力を育むためには、各教科等の学習とともに、教科横断的な視点で学習を成り立たせていく」という課題への対応である。カリキュラムマネジメント論においては中留が早くから教育内容・方法の連関性とその実現のための組織内外の協働性を基軸とした主張をしてきた(4)。教育内容・方法を教科横断的に連関させることには、次のような効果が期待できる。

  • 授業者が、連関性を意識することにより、各教科等の単元や単位時間について一層明確に意義付けし、限られた時間の中での実践の効果を高める。
  • 学習内容、教材、学習方法、体験活動などを、複数の教科・領域で繰り返し活用したり関連づけたりすることにより、児童生徒の学びを深める。知の活用可能性(特定教科の知識が他の教科や生活でも使えるということ)を児童生徒に実感させる。
  • ひとつの体験や学習内容を複数教科等に活用することにより、新たな体験や教材の追加や特設授業を抑制し、カリキュラムのスリム化につなげる。
  • 教員に、カリキュラム全体で子どもを育てる意識を促し、先の見通しをもった実践へつなげる。

 

 ここでは、総合的な学習の時間が鍵となる。総合的な学習の時間の単元計画を囲んで、教科組織、学年組織、職種、学校を越えたコミュニケーションの機会を創ることである。

 第3のポイントは個人の「観」や学校文化の変革である。既述のとおり、教育目標、学習指導、カリキュラム、学校の組織構造、地域社会との関わり、これらの内実や関係性に変更が加えられようとしている。これらの実現のためには、成員の「観」の転換が求められる。長年定着した「観」を変えることは容易ではないが、チャレンジする必要がある。読書や講演を聴くことも必要だろう。しかし、目で見て自分でやってみないとなかなか先に進めないこともある。先進校の実践の参観の機会をつくる、リーダーたちがまずチャレンジして見本を見せる、児童生徒の姿の変容を見せる、同僚を励まし一緒に考えながら取り組んでいく、といったことが効果的だろう。管理職には、教員や児童生徒に対して、チャレンジを奨励し、個人の失敗を責めない雰囲気づくりが求められる。

[注]

(1) 高野桂一編著『教育課程経営の理論と実際—新教育課程基準をふまえて』教育開発研究所、1989年

(2) 中留武昭著『スクールリーダーのための学校改善ストラテジー—新教育課程経営に向けての発想の転換』東洋館出版社、1991年、pp.54-64

(3) ドネラ・ H・メドウズ著(枝廣淳子他訳)『世界はシステムで動く』英治出版、2015年(原書2008は、メドウズの没後に出版された)

(4) 例えば、中留武昭編著『総合的な学習の時間—カリキュラムマネジメントの創造』日本教育綜合研究所、2001年

 

岐阜大学大学院准教授
田村知子
Profile
たむら・ともこ 岐阜大学大学院准教授。九州大学大学院人間環境学府博士課程単位取得退学。博士(教育学)。中村学園大学准教授等を経て現職。専門はカリキュラムマネジメント、教員研修、学校経営。日本カリキュラム学会(理事)、日本教育経営学会、日本教育工学会などに所属。中央教育審議会専門委員、全国的な学力調査に関する専門家会議委員、教育研究開発企画評価会議協力者などを歴任。著書に『カリキュラムマネジメント−学力向上へのアクションプラン』(日本標準)、編著に『実践・カリキュラムマネジメント』(ぎょうせい)など。

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