学校と地域の新たな関係をめぐる管理職の役割 佐藤晴雄(日本大学文理学部教育学科教授)
トピック教育課題
2019.05.21
学校と地域の新たな関係
先頃公表された3つの答申は、いずれも学校と地域との連携について改善策を取り上げている。まず、答申「チームとしての学校」は、学校が家庭や地域と連携・協働することによって、学校や教員が教育活動に重点を置いて取り組むことができるようにすることが重要だとし、校内に地域連携を担当する地域連携担当教職員を法的に位置づけるよう求めた。
次に、答申「教員の資質能力の向上」は、「チーム学校」の考えの下で、多様な人材と効果的な連携を図って組織的・協働的に諸課題の解決に取り組む力を「これからの時代の教員に求められる資質能力」の一つに位置づけた。
そして、答申「地域創生」は、学校と地域が協働して共に子どもを育て、地域を創るという発想に基づき、両者の関係を「支援」から「連携・協働」へ
と発展させるために、地域学校協働本部(学校支援地域本部の発展形)を設置することを提言し、また、コミュニティ・スクール導入の努力義務化を求めたところである。
それぞれの答申で示された学校と地域の連携の在り方は目新しいわけではないが、具体策に注目すれば、学校運営に保護者・地域の意向を反映させるためにコミュニティ・スクールを導入し、併せて学校支援地域本部のコーディネート機能をより強化した地域学校協働本部(仮称)の設置によって幅広く地域人材の活用を図り、そのための校内担当者として地域連携担当教職員を明確に位置づけようとする点は、特色ある提言だと言ってよい。
オープンシステムとしての学校経営
以上の答申が求める学校の在り方を筆者なりに解釈すれば、図1の「オープンシステム」の学校として示される。伝統的な学校は、学校に在籍する児童生徒に対して学校に勤務する教職員が学校にある施設設備を用いて教育活動を展開する「クローズドシステムによる学校」だとすれば、これからの学校は、人的資源・情報資源・物的資源を地域からも取り込みながら教育活動を進めるとともに、その成果を地域や社会教育の場にもアウトプットしていくという意味で「オープンシステム」として運営されていくことになろう。
そのうち地域の情報資源である保護者・地域の意向を反映させるために学校運営協議会(コミュニティ・スクール)を導入し、人的資源や物的資源を活用するための仕組みとして地域学校協働本部を置き、教育成果を地域にも還元することによって地域を創ることにつながっていく。その場合、地域の諸資源を見いだし、活用し、また教育成果を地域に生かすことを地域連携担当教職員が担うことになる。
そうした学校経営システム転換の背景には、教育課題の多様化と深刻化があり、また地域活性化の必要性などが指摘できる。要は、これからの学校経営は校内で完結される営為ではなく、地域等との有機的な関係づくりを前提として展開されることが求められているだろう。管理職としては、そうした学校経営の在り方をイメージすることが大切である。
オープンシステムの学校における教育課程
オープンシステムの学校における教育課程の在り方としては、地域資源優先型の編成という発想も重要になる。つまり、管理職や教職員が必要だと捉える観点だけでなく、地域の資源の特質を生かすような特色ある教育課程を編成するのである。たとえば、授業にとってある特定の技能を持つ人材が必要だから発掘するという発想だけでなく、地域に特定技能を持つ人材がいるから、この人をどう活用するかという発想に立つことである。
また、地域人材を活用する場合には、付加価値に注目することも必要である。「授業に必要だから」という考えにとらわれず、教師だけでも授業は可能だから「必要でない」場合でも、地域人材を依頼するという発想も大切にしたい。ある小学校では「必要でなくても」高齢者のボランティアに授業補助を依頼している。児童は彼らボランティアから個々に助言を得るに止まらず、自分の祖父より年上の高齢者と交流することになり、さらに高齢者ボランティアは孫世代より小さい児童から元気をもらっているというのである。そうした高齢者と児童の交流こそが付加価値なのである。必要性という発想だけではそうした付加価値は得られない。
以上のような発想は学校だけでなく、地域の様々な住民や関係者との協議を通じて生まれやすい。
そこで、オープンシステムの学校づくりのための有力な仕組みである学校運営協議会を置くコミュニティ・スクールについて取り上げていくことにしよう。
コミュニティ・スクールと教育課程
筆者らが実施・分析したコミュニティ・スクールに関する全国調査(注)によれば、コミュニティ・スクールの学校運営協議会で教育課程関連の意見申出が校長や教育委員会に対して「あった」割合は、図2に示したようになる。まず、「地域の人材活用」は小学校77.5%・中学校72.7%となり、その意見が「あった」場合の実現率(「活用されるようになった」=図中の横点線)は小学校95.5%・中学校93.1%である。地域連携の仕組みである学校運営協議会では地域人材に関する意見申し出が7割以上でなされ、その実現率も高い。
次に、「教育課程の改善」に関しては、意見が「あった」は小学校27.0%・中学校24.5%で、実現率(「改善された」)はそれぞれ90.9%・90.4%である。教育課程に関する意見申し出は少ないが、これは教育の専門的な事項として捉えられているからであろう。しかし、その実現率は約9割と高いことから、その意見の多くは実現可能で適切なものだったと思われる。
「新たな教育活動」については、意見が「あった」は小学校51.7%・中学校49.7%とほぼ半数の学校で見られ、実現率(「新たな教育活動の時間が生まれた」)はそれぞれ85.0%・81.8%と比較的高い。学校内で計画された活動に加えて、学校運営協議会の協議によって生まれた教育活動は小中学校で共に8割を超えて実現されていることは、その活動の教育的意義が認められたからであろう。
そして、「学習指導」全般に関しては、意見が「あった」は小学校58.5%・中学校60.2%と半数を上回り、実現率(「学習指導の創意工夫が図られた」)はそれぞれ93.2%・89.3%と共に高い。ちなみに、図中に記してないが、「生徒指導」については小中共に意見が7割近くで、実現率が9割超となり、学習指導よりも意見申出率が高い数値を示した。どちらかと言えば、「生徒指導」の方が地域にとって身近な課題だと捉えられているからだと考えられる。
以上のように、地域人材活用や教育課程・学習指導など専門的な事項に関しても、外部(地域など)の情報や意見・意向を取り入れ、それが実現されていることが現実に見られるのである。このような観点から、最後に管理職の役割について述べておくことにしよう。
地域連携に果たす管理職の役割
地域連携を踏まえた教育課程の編成に関して管理職に期待される役割として、ここでは以下の視点からの見直しを提言しておこう。
(1)何をただすか
従来の地域連携や教育課程の問題点を洗い出して時代に合わない部分を更新したり、また修正すべき点を是正したりする視点である。さほど効果がなかった取組みを廃止することもただす視点になる。学力の不振が見いだされたら、ボランティアによるプリント丸付けをとり入れた授業を展開するなどの場合である。
(2)何を埋めるか
本校の児童生徒や教職員に不足している要素を見いだして補填したり、時代的ニーズに照らして新たに導入すべき部分を補ったりする視点である。たとえば、児童生徒に体験活動が不足していれば、そうした活動の充実を図り、また理科指導の得意な教員が不足していれば地域からその専門性を有する人材を探して外部人材として活用することが該当する。
(3)何を創るか
前述した地域資源を優先させた教育活動やコミュニティ・スクールのデータ中の「新たな教育活動」はまさに「創る」活動にほかならない。いわば開発的な取組みの発想である。新たな地域連携からは新しい実践が創られる可能性が高くなるであろう。
以上の3つは必ずしも独立した視点でなく、相互に関連している。つまり、「ただす」ために「埋め」、「埋める」ために結果として新たな活動を「創る」という具合になる。たとえば、学力不振をただそうという視点から、ボランティアによって指導補助を埋めてもらい、結果としてボランティアを取り入れた朝学習などの新たな授業が創られていくのである。
管理職としては、地域との新たな関係づくりを踏まえて、これら3つの視点から教育課程の編成に取り組むことが新たな地域連携の課題になるであろう。
[注]
研究代表:佐藤晴雄『平成27年度文部科学省委託調査研究「総合マネジメント力強化に向けたコミュニティ・スクールの在り方に関する調査研究報告書」(受託:日本大学文理学部)のデータより。コミュニティ・スクール1555校の回答。実施:平成27年6月。
日本大学教授
佐藤晴雄
Profile
さとう・はるお 日本大学文理学部教育学科教授。東京都大田区教育委員会、帝京大学助教授などを経て2006年から現職。中央教育審議会専門委員(初等中等教育分科会)、文部科学省コミュニティ・スクール企画委員などを歴任。博士(人間科学)大阪大学。日本教育経営学会理事、日本学習社会学会副会長など。主な著書に、『学校を変える地域が変わる』『学校支援ボランティア』(教育出版)、『コミュニティ・スクールの研究』(風間書房)、『教育のリスクマネジメント』(時事通信社)、『新・教育法規解体新書』(東洋館出版社)ほか多数。