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「社会に開かれた教育課程」の開発とカリキュラム・マネジメント 吉冨芳正(明星大学教育学部教授 )

NEWトピック教育課題

2019.05.21

新教育課程ライブラリ Vol.4 2016年

「社会に開かれた教育課程」の考え方

 中央教育審議会(1)では、学習指導要領の改訂に向け、「社会に開かれた教育課程」を実現するという理念が提言されている。「社会に開かれた教育課程」とは、教育課程を通じて、子どもたちが社会や世界とつながり、よりよい社会と幸福な人生を自ら創り出していける力を積極的に育もうとする考え方である。単に社会のことを教えようというものではない。教育の目的として人格の完成などを基軸に据えながら、次の時代に社会を担い、その中で生きる子どもたちに必要とされる資質・能力を確かに育成しようとするものである。

 こうした理念が提言されるのは、教育課程を通じて、社会の変化の中で学校教育が果たすべき役割を問い直す必要があるからである。今日、社会の様々な領域で激しい変化が急速に進み、私たちの生活に大きな影響を及ぼしている。それらは、豊かさや便利さをもたらしている面もあるが、一方で、私たちは、あらかじめ用意された正解のない、複雑で困難な問題に直面し、対応に苦慮している。受身での対応にとどまっていては、こうした問題を解決することは難しい。このため、次代を担う子どもたちが人間や社会の望ましい在り方を主体的、創造的に描き出し、それを実現できる力を育むことを目指そうとしている。

 中央教育審議会では、「社会に開かれた教育課程」の重要性を次のように指摘している。

  • ① 社会や世界の状況を幅広く視野に入れ、よりよい学校教育を通じてよりよい社会を創るという目標を持ち、教育課程を介してその目標を社会と共有していくこと。
  • ② これからの社会を創り出していく子供たちが、社会や世界に向き合い関わり合い、自らの人生を切り拓いていくために求められる資質・能力とは何かを、教育課程において明確化し育んでいくこと。
  • ③ 教育課程の実施に当たって、地域の人的・物的資源を活用したり、放課後や土曜日等を活用した社会教育との連携を図ったりし、学校教育を学校内に閉じずに、その目指すところを社会と共有・連携しながら実現させること。

「社会に開かれた教育課程」の三つの次元と各学校での開発的取組み

 「社会に開かれた教育課程」の実現は、国際教育到達度評価学会(IEA)による国際数学・理科教育調査のための概念的モデル(2)を参考にすると、次の三つの次元で考える必要がある。第一に、「意図したカリキュラム」の次元で、学習指導要領において「社会に開かれた教育課程」の理念に立つ教育課程編成の方針や配慮事項、各教科等の目標や内容などについての基準が構造的、体系的に示されることである。教育委員会が定める基準もこの次元に含まれる。第二に、「実施したカリキュラム」の次元で、各学校において教師が基準などを解釈して、教育課程の編成や指導計画の作成を行い、学習指導を効果的に展開することである。ここには経営的側面も含まれる。第三に、「達成したカリキュラム」の次元で、学校教育の成果として、子どもたちがよりよい社会と幸福な人生を自ら創り出していける力を実際に獲得することである。「意図したカリキュラム」や「実施したカリキュラム」の次元を着実に整えることにより、「達成したカリキュラム」の次元での実現が可能になる。

 このように考えると、「意図したカリキュラム」と「達成したカリキュラム」を結ぶ位置にある「実施したカリキュラム」の次元の重要性は明らかである。カリキュラムについては、目標、内容、教材、教授・学習活動、評価までを含んだ広い概念であって、学校教育における子どもたちの経験の総体であるとするとらえ方がある。この考え方に立てば、子どもたちが資質・能力を獲得し高めていくことができるよう、各学校においてカリキュラムを開発、実施、評価、改善していくことが求められる。こうした「学校に基礎を置くカリキュラム開発」(school-basedcurriculum development)の考え方(3)を生かして、各学校が「社会に開かれた教育課程」の実現に開発的に取り組む必要がある。

 本稿では、学校教育法施行規則第55条に基づき学習指導要領等によらずに行う「研究開発」と区別するため、「開発的」という用語を用いる。「開発的」とは、大綱化・弾力化が図られている学習指導要領の趣旨を生かし、各学校において、子どもたち、学校、地域等の実態に即して最も適切な教育課程の編成・実施の在り方を生み出すよう、教師が創意工夫を発揮して継続的、発展的に追究することをいう(4)

 

[注]

(1) 本稿中、「中央教育審議会」としたものは、教育課程企画特別部会『論点整理』(平成27年8月26日)を出典としている。

(2) 国立教育研究所『国立教育研究所紀要第126集、小・中学生の算数・数学、理科の成績?第3回国際数学・理科教育調査国内中間報告書?』(東洋館出版社、1996年、8-10頁)

(3) 文部省『カリキュラム開発の課題(カリキュラム開発に関する国際セミナー報告書)』(大蔵省印刷局、昭和50年)を参照。

(4) 例えば、総合的な学習の時間の創設や、小学校を中心に多くの教科の目標や内容が複数学年まとめて示されているといった大綱化・弾力化によって、かつては「研究開発学校」でしかできなかったような取組みが、一般の学校でもかなりの程度できるようになっている。

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