新教育課程に向けた管理職のリーダーシップ 天笠 茂(千葉大学特任教授)

トピック教育課題

2019.05.21

新教育課程に向けた管理職のリーダーシップ
教育資源・教育内容の構造化と共有化に向けて

新教育課程ライブラリ Vol.4 2016年

 資質・能力の育成、カリキュラム・マネジメント、「チーム学校」──。学習指導要領改訂を前に、新たな学校経営課題が注目されてきている。様々な課題に関して管理職の役割がクローズアップされる中、新教育課程に向けて取り組むべきことは何か、学校の組織化に向けてどのような方策を講じるべきか、千葉大学教授・天笠茂氏に聞いた。

わが校の方向性を見出す

 平成28年度は、次を見据えて何をどう備えるかが校長としての課題の年となるでしょう。学習指導要領改訂については、平成28年度末までには中央教育審議会から答申が出され、その後間を置くことなく、告示が出される見込みです。そして、平成29年度からは周知、移行措置期間に入り、平成32年度から順次本格実施となるスケジュールが示されていますが、これらを見据えて年間指導計画などの見直しを図ることとなります。いわゆるアクティブ・ラーニングやカリキュラム・マネジメントなど、今からでも取り組める課題もあり、学校の教育活動の何を見直し、どこを修正していくかといったことを検討するために、「論点整理」(中央教育審議会教育課程企画特別部会、平成27年8月26日)を丁寧に読み解いたり、各種審議の検討過程で出されてくる情報などを収集・整理したりすることも必要でしょう。

 さらに、「論点整理」では、その冒頭に、「2030年の社会と子供たちの未来」を掲げ、「社会に開かれた教育課程」の開発や、「知識基盤社会」に対応した資質・能力の育成を各教科にまで広げて育成することの必要性も述べられています。こうした長いスパンを見据えた教育課題に対し、学校教育としてどのように取り組んでいくかについて、検討し吟味していくことが求められると思います。つまり、10年から15年といった未来を見据えた視野や、学校内外を見据えた空間的な視野をもって、学校教育を改善・充実していくことが求められていると言えます。その意味で、今後の学校教育のあり方を含めたわが校の方向性を見出していくのが、リーダーの役割と言えるでしょう。

学校の諸目標の構造化

 まずは、育成すべき資質・能力についてのとらえが第一歩だと思います。

 「論点整理」では、育成すべき資質・能力の三つの柱として、「何を知っているか、何ができるか(個別の知識・技能)」「知っていること・できることをどう使うか(思考力・判断力・表現力等)」「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか(学びに向かう力、人間性等)」が示されています。これらは学習指導と直結する内容であるだけに、学校として十分に研究しておく必要があります。

 さらに、これらは学校の様々な場面を踏まえて構造的にとらえていく必要があると思います。

 例えば、学校には学校教育目標、学年目標、学級目標、単元目標、本時の目標などをはじめ、実に多くの目標が掲げられています。ある意味で、学校は目標だらけと言えます。また、それらの中には訓示的であったり、理念的だったりするものも見受けられます。さらには、教科目標は教科内で、学年目標は学年内でといったように、目標が個別に散りばめられ取り扱われていることも多いと思います。学校教育目標と本年度の重点目標の関連性が薄かったり、意識化されていないケースもあります。これら多くの目標を資質・能力の育成という観点からすり合わせていく必要があるでしょう。つまり、様々なレベルの目標が関連付けられ、構造化されることが必要です。学校教育目標と日々の教育活動がつながり、どういう脈絡で関わり合っているのかを構造化し共有することが問われているのです。

 各教師においても、自分のやっていることが、学校の教育活動全体のどこと関わり、目標と紐づいているかといった自身の教育活動の位置づけを意識し、どのように自身の活動を組み立てていくのかについて考えたり、行動したりすることが大事です。それがカリキュラム・マネジメントの基本的発想なのです。カリキュラム・マネジメントが管理職だけのものではなく教職員全体で取り組むべきことと言われているのはその意味からなのです。

様々な実践の関連性を見据えた組織化

「チーム学校」の取組みについては、その具体的実施の前に、その条件整備を考えていくことが必要だと思います。

 まずは、組織づくりについての基本的な方向性を見定めていくことであり、カリキュラム・マネジメントの発想で取り組んでいくことが求められるでしょう。

 学校の経営資源と教育内容をつなぎあわせることがカリキュラム・マネジメントと言えます。そこで、学校の教育目標や学校経営目標などと照らし合わせ、それらに関する「ひと・もの・こと」などの経営資源を目的に沿って配分したり重点化したりしながら授業や学校を改善していかなければなりません。その際に、単に、適材を置くという発想だけでなく、それぞれのスタッフの取組みがどのように関連し、目標に向かった取組みとして位置づいているかといった、組織の構造化がここでも求められると思います。

 校長は、分掌をあてがえば後はその人任せということでなく、それぞれのスタッフが有機的に動けているかを見定め、必要なアドバイスを行ったり、修正したりということが必要になってくるのではないでしょうか。

 いずれにしても、組織として動くからには、目標の共有化やそれぞれの取組みを自覚的に関連づけながら動いていく環境をつくっていかなければいけないことは言うまでもありません。

カリキュラム・マネジャーとしてのリーダーシップ

 これからの校内研修については、育成すべき資質・能力の検討や指導方法の研究なども進められていくと思いますが、カリキュラム・マネジメントを視点とした授業研究も考えられていいでしょう。目標の構造化ということを言いましたが、それが共有され実践されるためには、カリキュラム・マネジメントを校内研修に取り入れることも有効だと思います。そうした研修を通して、一人ひとりの教師のものの見方や着眼点、交わされるやりとりの内容が、相互の関連性や自分たちの活動の位置づけが確認されるようなものになることが望ましいと思います。そのときに、教師の発言や実践を意味づけ、方向性を指し示していくことが校長には求められます。

 そのためには、校長はわが校のカリキュラムを掌握する必要があります。これまでは、地域担当は教頭、カリキュラムは教務主任、そして校長は危機管理といった役どころの学校が多かったとは思います。しかし、そうした分担は分担として、カリキュラムのリーダーシップをとっていくことがこれからの校長には求められるでしょう。つまり、カリキュラム・マネジャーとしての校長の役割が問われるということであり、カリキュラムを基盤とした学校経営が求められるということです。校内研修においての役割も、全教職員によるカリキュラム・マネジメントが図られるようなリーダーシップをとっていくことになると思います。

「社会に開かれた教育課程」の基盤づくり

「社会に開かれた教育課程」を考えたときに、当然、地域との連携は視野に入ってきます。学校と地域との連携は、古くて新しいテーマでもあり、不易の学校経営課題とも言えます。しかしながら、これまでは、わが校の実践に必要な人材を活用して教育

活動を展開するというケースも多かったと思います。学校の都合に合わせて地域に協力を求めるといったことです。しかし、「論点整理」でも「社会に開かれた教育課程」のポイントの一つとして「社会や世界の状況を幅広く視野に入れ、よりよい学校教育を通じてよりよい社会を創るという目標を持ち、教育課程を介してその目標を社会と共有していくこと」と述べられ、また、社会からも地域貢献できる学校が求められてきました。そうすると、今後は、地域と同じ立場に立ち、地域と目標を共有化するプロセスを創りだすリーダーが求められるでしょう。そうした環境や場をつくれるかどうかがリーダーの手腕として問われることになると思います。つまり、地域と学校がWin&Win の関係の中で、共有された目標を達成していくということが大事になっていくでしょう。その志向性をもてるかが、これからのリーダーシップとして必要になってくると思います。

哲学をもった学校経営を

 学習指導要領の改訂を例えると、バスの乗り換えに似ているかもしれません。それまで乗っていたバス(学習指導要領)から、新たに来たバスに乗り換えるということです。例えば、前回の学習指導要領から現行に移るときには、それまでの総合的な学習重視から教科への注目が高まってきました。自ら課題を見付け自ら解決していくという学習活動とそれを端的に実践できる総合的な学習の時間が注目された平成10年版学習指導要領から、知識基盤社会に対応した力を育成するために、教科横断型の思考力・判断力・表現力を求め、言語活動の重視が唱えられたのが現行の学習指導要領です。「生きる力」は変わらないといっても、その内実が変わり、言語活動を重視したバスへと乗り換えたわけです。

 では、次の改訂では、また違ったバスに乗って進んでいくのか。そこには、学校としての思慮が求められると思います。例えば、言語活動の旗を降ろして新たな学習方法などに乗り換えていくのかというと、決してそうではないと思われます。「論点整理」にも、言語活動の成果は上がっているが、必ずしも十分でない教科等もあり、引き続き充実を図る必要があるということが数か所にわたって出てきます。つまり、言語活動については、私たちの乗ったバスはまだ目的地に到達していませんし、引き続きその旗を持って新しいバスに乗り込む見識が求められるわけです。このように、今回の改訂に関しては、単に内容や方法が与えられるものではなく、学校現場の識見が問われるものととらえるべきです。

 そこで、次期学習指導要領に臨むために、校長には哲学をもってほしいと思います。校長としての教育観、育てたい子ども像、地域・社会を含めた広い視野に立った識見に基づく自らの哲学をもって学校経営にあたってほしいと思うのです。学習指導要領改訂の時期というのは、その学校の10年の基盤をつくる時期であり、その学校の基本的な方向性を形づくる時期であるとも言えます。ポジティブに、自身の哲学をもって改訂への準備を進めていってほしいと考えています。

(構成/編集部 萩原和夫)

 

千葉大学特任教授
天笠 茂
Profile
あまがさ・しげる 昭和25年東京都生まれ。川崎市立子母口小学校教諭、筑波大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。昭和57年千葉大学講師となり、平成9年より同大教授、平成28年度より同大特任教授。学校経営学、教育経営学、カリキュラム・マネジメント専攻。中央教育審議会初等中等教育分科会委員など文科省の各種委員等を務める。単著『学校経営の戦略と手法』『カリキュラムを基盤とする学校経営』をはじめ編著書多数。

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特集:新教育課程を生かす管理職のリーダーシップ  ─次世代に求められる資質・能力の育成に向けて

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