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「社会に開かれた教育課程」の意義と条件 吉冨芳正(明星大学教育学部教授)

NEWトピック教育課題

2019.05.21

新教育課程ライブラリ Vol.11 2016年

 平成28年8月26日、中央教育審議会教育課程部会から「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ」が示され、間もなく、答申を経て学習指導要領等が改訂される。「審議のまとめ」では、「よりよい学校教育を通じてよりよい社会を創る」という目標を学校と社会が共有し、連携・協働しながら、新しい時代に求められる資質・能力を子供たちに育む「社会に開かれた教育課程」の実現を目指し、「何ができるようになるか」「何を学ぶか」「どのように学ぶか」までを見据えて学習指導要領等を改善することとされている。

 本稿では、「社会に開かれた教育課程」について、提言の背景や重要性、「審議のまとめ」の特徴を解説し、実現の前提となる条件を考察する。

「社会に開かれた教育課程」の意義

(1)「社会に開かれた教育課程」提言の背景

 教育基本法や学校教育法等に定める教育の目的や目標の実現を目指して学校教育を進める上で、社会の変化を見通し、学校の教育活動全体の基軸となる教育課程の在り方を改善していくことが重要である。教育課程の基準である学習指導要領等については、平成元年の改訂以降、社会の変化への対応が大きなテーマとなってきた。平成20・21年の改訂でも知識基盤社会の到来などの社会の変化がその背景として強調された。

 今日、「審議のまとめ」でも例示されているグローバル化の進展や人工知能(AI)の急速な進化など、社会の様々な領域で激しい変化が加速度的に進んでおり、将来を予測することは難しくなっている。子供たちを含め私たちは変化する社会の中に生きており、社会の変化は、私たちに大きな影響を及ぼしている。私たちは、これまでになかった豊かさや便利さなどを享受する一方で、多くの困難な問題に直面している。例えば、少子・高齢化、貧富の差の拡大、環境の変動、資源やエネルギーと持続可能な発展、対立や紛争といった問題は、私たちの生活や生き方に影響を及ぼし、人類の未来にも関わっている。

 こうした問題は、受身や場当たり的な対応では解決が難しい。大人が、そして次代を担う子供たちが、人間の尊さや命のかけがえのなさ、他者への共感や思いやり、幸福を分かち合う態度などを大切にしながら柔軟な発想や豊かな感性をもってよりよい社会や世界の創造に積極的に取り組む必要がある。子供たちの教育をあずかる学校教育も、変化する社会の中に存在することを強く意識し、教育課程を中心に据えて果たすべき役割を明確にする必要がある。

 こうした背景の下、「審議のまとめ」では、次期学習指導要領等の実施期間も考慮して2030年頃以降の社会の在り方を見据え、学校が社会や世界との接点を広げ多様なつながりを重視し体系的な教育課程を編成・実施する中で、子供たちが主体的に学び、新しい時代を創造し豊かに生きていくために必要な資質・能力を育むことができるよう、「社会に開かれた教育課程」の理念が提唱されている。

(2)「社会に開かれた教育課程」の重要性

「社会に開かれた教育課程」とは、学校の教育課程を通じて、子供たちが社会や世界とつながり、よりよい社会と幸福な人生を自ら創り出していける力を積極的に育もうとする考え方である。教育の目的として人格の完成などを基軸に据え、次代を担う子供たちが人間や社会の望ましい在り方を主体的、創造的に描き出し、それを実現できる資質・能力を育むことを目指そうとしている。

「審議のまとめ」では、「社会に開かれた教育課程」のポイントを次のように指摘している。

  • ① 社会や世界の状況を幅広く視野に入れ、よりよい学校教育を通じてよりよい社会を創るという目標を持ち、教育課程を介してその目標を社会と共有していくこと。
  • ② これからの社会を創り出していく子供たちが、社会や世界に向き合い関わり合い、自らの人生を切り拓いていくために求められる資質・能力とは何かを、教育課程において明確化し育んでいくこと。
  • ③ 教育課程の実施に当たって、地域の人的・物的資源を活用したり、放課後や土曜日等を活用した社会教育との連携を図ったりし、学校教育を学校内に閉じずに、その目指すところを社会と共有・連携しながら実現させること。

 次期学習指導要領等では、「社会に開かれた教育課程」の理念を実現するため、子供たちが「何ができるようになるか」「何を学ぶか」「どのように学ぶか(主体的・対話的で深い学び)」までを一体的に見据えて改善を図ることとされている。そして、学習指導要領等が、「学校教育を通じて子供たちが身に付けるべき資質・能力や学ぶべき内容などの全体像を分かりやすく見渡せる『学びの地図』としての役割」を果たせるようにすることが意図されている。

「社会に開かれた教育課程」は、社会に支えられて成立する。このため、目指すところを保護者や地域をはじめ社会で広く共有することが必要である。よりよい学校教育を通じて子供たちを育てよりよい社会を創るという動きは、現実社会の問題の解決に責任のある私たち大人に希望と勇気をもたらし、よりよい社会の在り方を考え行動する上での一つの核となる。

(3)「審議のまとめ」の特徴

 「審議のまとめ」には、「社会に開かれた教育課程」の理念やその実現の道筋がていねいに示されている。全体の分量をみると、平成20年の答申はA4判で約150頁であるのに対し、「審議のまとめ」は約380頁であり、補足資料も豊富に添付されている。

 さらに、「審議のまとめ」では提言全体が構造的に示されている。「第1部 学習指導要領等改訂の基本的な方向性」と「第2部 各学校段階、各教科等における改訂の具体的な方向性」とが強い一貫性、体系性をもって示されている。

 第1部では、「学びの地図」としての学習指導要領等の枠組みの改善と「社会に開かれた教育課程」の理念、「カリキュラム・マネジメント」の重要性や

「主体的・対話的で深い学び」の実現(「アクティブ・ラーニング」の視点)について述べた上で、「何ができるようになるかー育成を目指す資質・能力?」「何を学ぶか?教科等を学ぶ意義と、教科等間・学校段階間のつながりを踏まえた教育課程の編成?」「どのように学ぶか?各教科等の指導計画の作成と実施、学習・指導の改善・充実?」「子供一人一人の発達をどのように支援するか?子供の発達を踏まえた指導?」「何が身に付いたか?学習評価の充実?」「実施するために何が必要か?学習指導要領等の理念を実現するために必要な方策?」について一体的に示されている。

 これらを踏まえ、第2部では、各学校段階と各教科等の改訂の方向性が詳しく示されている。例えば、高等学校については、社会との関わりを強く意識して教科・科目構成の見直しが提言されている。各教科等については、目標を目指す資質・能力の三つの柱に沿って整理するとともに、物事をとらえる視点や考え方を「見方・考え方」として示し、資質・能力を育成する学びの過程や内容の改善の方向性、学習・指導の改善充実や教育環境の充実の配慮事項などが一貫して示されている。

「社会に開かれた教育課程」の条件

(1)教育課程を社会に開く主体である学校の教職員が意識を開く

「社会に開かれた教育課程」というとき、教育課程を「開く」のは、教育課程を編成する主体である、各学校である。このため、「社会や世界の状況を幅広く視野に入れ、よりよい学校教育を通じてよりよい社会を創るという目標を持ち、教育課程を介してその目標を社会と共有していく」(「審議のまとめ」)上で、まず教職員の意識の在り方が重要である。

 各学校では、校長が責任者となって全教職員が協力して教育課程の編成を行う。したがって、校長と教職員が「社会や世界の状況を幅広く視野に入れ、よりよい学校教育を通じて社会を創る」ことについて考えていくことが大切である。子供たちに、社会とのつながりを意識し、現実社会の問題に向き合い、自分の問題として解決に向けて考え取り組むことを求めるのであれば、まず教職員がそのような意識に立つことが必要であろう。教職員がこうした意識を共有して教育課程を編成・実施しその様子を社会に発信することが、目指す教育の理念を社会と共有することにつながる。

 そのため、各学校では、「審議のまとめ」や今後の答申、次期学習指導要領等をもとに、「社会に開かれた教育課程」の編成・実施に向けて研修・研究を進めるようにしたい。「審議のまとめ」はかなり分量があるが、教育課程の編成・実施に当たっては提言の原典に当たることが不可欠である。特に、教育課程編成の責任者である校長をはじめ副校長や教頭、カリキュラム・マネジメントの中核的担い手である主幹教諭や教務主任、研究主任には全体に目を通してほしい。そして、全教職員で学校として追究すべきポイントについて議論を進めることが大切である。

 さらに、「審議のまとめ」等をもとにした議論が、学校にとどまらず、関係者の間で広く行われることも期待したい。様々な場や機会に関係者が議論を行うことが、理念の深化や具体化の工夫につながる。

(2)学校の教育目標を明確化し教育課程を構造的、体系的に編成する

 各学校で教育課程を編成するに当たっては、教育課程の基本的な要素である、①学校の教育目標の設定、②指導内容の組織、③授業時数の配当についてそれぞれの意義を踏まえてよく検討されなければならない。特に、学校の教育目標の設定において、育成を目指す資質・能力を明確に示すことが重要である。学校の教育目標は、一貫した経営活動や教育活動の基本となる。カリキュラム・マネジメントも、学校の教育目標を実現するために行うものである。

 「審議のまとめ」では、「社会に開かれた教育課程」のポイントとして、「これからの社会を創り出していく子供たちが、社会や世界に向き合い関わり合い、自らの人生を切り拓いていくために求められる資質・能力とは何かを、教育課程において明確化し育んでいくこと」が指摘されている。学校の教育目標の設定に当たり、教える側の視点だけではなく、子供の視点に立って「何ができるようになるのか」を明らかにする必要がある。

 その際、いわゆる「学校の教育目標」だけではなく、「具体的目標」や「到達目標」「学校像」「児童生徒像」「授業像」「経営方針」や「経営の重点」といった名称で示されるものや、その他多種多様な計画に示される目標をも視野に置き、全体を見通して育成を目指す資質・能力を適切に位置付けることが重要である。法令や学習指導要領等に掲げられる普遍的・共通的な目標などを手がかりにして、子供、学校、地域の実態等を踏まえ、全体的・一般的なものから個別的・具体的なものへと、構造的、体系的に整理する必要がある。育成を目指す資質・能力が教育課程と各学年・各教科等で筋道立てて示されることで、子供たちへの指導もまた一貫性や関連性をもって展開され、子供たちが学び全体を通じて資質・能力を確かに身に付けることにつながる。

(3)子供の学びを中心に諸要素を「つなげる」カリキュラム・マネジメントを進める

 各学校において教育目標を実現するためには、計画・実施・評価・改善の過程を循環させ、学校内外の資源を最大限に活用しながら教育活動等の質を高めていくことが不可欠である。こうしたカリキュラム・マネジメントについて、「審議のまとめ」では次の三つの側面が示されており、いずれも「社会に開かれた教育課程」を実現する上で重要である。

  • ① 各教科等の教育内容を相互の関係で捉え、学校教育目標を踏まえた教科等横断的な視点で、その目標の達成に必要な教育の内容を組織的に配列していくこと。
  • ② 教育内容の質の向上に向けて、子供たちの姿や地域の現状等に関する調査や各種データ等に基づき、教育課程を編成し、実施し、評価して改善を図る一連のPDCAサイクルを確立すること。
  • ③ 教育内容と、教育活動に必要な人的・物的資源等を、地域等の外部の資源も含めて活用しながら効果的に組み合わせること。

 カリキュラム・マネジメントは、学校の経営活動と教育活動のあらゆる要素を対象とする。それらをばらばらに扱うことにとどまらず、学校の教育目標の実現に向け、子供の学びを中心に据え、諸要素を関連付けて考えることが重要である。例えば、「周りに流されないで自分の頭で考え行動できる人間を育てる」といった、学校として貫きたい方針や重点を明確にしたら、それを軸にして様々な要素を「つなげる」ように考えていきたい。

  • ○ 子供の学びに着目して各教科等内又は教科等間で複数の活動をつなげる
  • ○ 子供の学校での学びと学校外での経験や実社会、世界の動き等とをつなげる
  • ○ 就学前の経験と学校教育、学年間、学校段階間、学校教育と卒業後の人生をつなげる

 カリキュラム・マネジメントは、学校における日常的な教育活動等と研究・研修とを、テーマを明確にするなどして「つなげる」ことで充実が図られ、学校の教育目標をよりよく実現することになる。

 

明星大学教授
吉冨芳正
Profile
よしとみ・よしまさ 明星大学教育学部教授。教育課程論、教育課程行政、カリキュラム・マネジメント。文部科学省学校教育官、千葉県富里市教育長、国立教育政策研究所総括研究官を経て現職。学習指導要領改訂や学校週5日制導入に携わる。「育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会」委員。 著書に『新教科誕生の軌跡?生活科の形成過程に関する研究』(共著)、『現代中等教育課程入門』(編著)、『カリキュラムマネジメント・ハンドブック』(共編著)。

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