学校教育目標と校長のリーダーシップ  天笠 茂(千葉大学特任教授)

学校マネジメント

2019.05.21

学校教育・実践ライブラリ Vol.1 2019年

高邁な教育理念を掲げておくだけでよいか

 活きた目標に 学校教育目標を子供たちにもわかりやすく、親しみのもてる表現にする。この点に工夫をこらした学校教育目標に出合うことも少なくない。と同時に、 文言は親しみやすいものに置き換えたにしても、教育のめざす本質や普遍的な教育理念を盛り込み掲げることについて、その姿勢は堅持され、不動のものとして位置付けられているのが学校教育目標である。

 もっとも、大切なもの、重要なものとしてあるものの、教職員それぞれに日常的に意識されることがあまりない学校も珍しくない。ただし、ぞんざいに扱うことは憚られる。いささか曖昧な存在となっているのが学校教育目標の今の姿である。改めて、学校教育目標について見直しをはかり、役割や機能を明確にすることが学校経営をめぐる課題ということになる。

 もとより、「学校評価ガイドライン」をもとにした学校評価の実施、目標申告制を柱とする教員評価の導入などにともない、学校教育目標への注視や活用が強調されるなど、取り巻く環境も変化しつつある。学校評価は学校教育目標をもとに、その達成度を組織的に評価する営みである。また、目標管理型の教職員評価については、教職員それぞれによる目標設定にあたり学校教育目標が拠り所とされることが少なくない。

 このような動きに加え、このたびの学習指導要領 改訂の方向性を示した中央教育審議会「幼稚園、小 学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指 導要領等の改善及び必要な方策等について」(答申)2016(平成28)年12月21日)は、学校教育目標に 対する“不断の見直し”を提言した。

 学習指導要領が社会の変化などに応じて改訂を重ねていることをふまえて、学校教育目標もまた見直しが求められるという趣旨である。教育課程の改善が学習指導要領改訂とともになされるのであるから、その達成をめざすとされる学校教育目標も見直しをはかるべきと、次のように述べている。

 「学習指導要領等が、教育の根幹と時代の変化という『不易と流行』を踏まえて改善が図られるように、学校教育目標等についても、同様の視点から、学校や地域が作り上げてきた文化を受け継ぎつつ、子供たちや地域の変化を受け止めた不断の見直しや具体化が求められる」 しかし、移行期間を見る限り学校の動きは鈍く、現状の転換をはかるところには至っていない。その意味で、高く掲げるにとどまる学校教育目標を、教職員はもとより、子供たち、さらには、保護者や地域の人々にとっても、“活きた目標”として身近な存在とすることが学校経営上の課題ということになる。改めて、日々の教育活動にとって、また、それぞれにとって、学校教育目標を身近な存在にしていくために、どのように見直しをはかっていくかが問われている。

学校教育目標を見直す

 そこで、学校教育目標をどのように見直すか。その視点を以下に3点あげておきたい。

 第1に、育成をめざす資質・能力の三つの柱との整合をはかることである。このたびの学習指導要領改訂において、「育成を目指す資質・能力」について、(1)知識及び技能の習得、(2)思考力、判断力、表現力等の育成、(3)学びに向かう力、人間性等の涵養、の三つの柱に整理し、偏りなく育成をめざすとした。これまでの知・徳・体によって構成されてきた学校教育目標に対して、提起された育成をめざす資質・能力の三つの柱との整合をどのようにはかっていくか。学校教育目標の今日的な見直しのポイントがこの点にあることをまずは確認しておきたい。

 なお、学習指導要領改訂の基本的な方向を示した「答申」は、そのなかで2030年及びその先の社会を生き抜く人間の姿を、以下のように描いている。

  • 社会的・職業的に自立した人間として、我が国や郷土が育んできた伝統や文化に立脚した広い視野を持ち、理想を実現しようとする高い志や意欲を持って、主体的に学びに向かい、必要な情報を判断し、自ら知識を深めて個性や能力を伸ばし、人生を拓いていくことができること。
  • 対話や議論を通じて、自分の考えを根拠とともに伝えるとともに、他者の考えを理解し、自分の考えを広げ深めたり、集団としての考えを発展させたり、他者への思いやりを持って多様な人々と協働したりしていくことができること。
  • 変化の激しい社会の中でも、感性を豊かに働かせながら、よりよい人生や社会の在り方を考え、試行錯誤しながら問題を発見・解決し、新たな価値を創造していくとともに、新たな問題の発見・解決につなげていくことができること。

 これら将来に向けての人々の在り方をふまえつつ、わが校の学校教育目標について見直しを探る取組を期待したい。

 第2に、校訓と学校教育目標と総合的な学習の時間の目標について相互の関係を明確にするとともに、互いに補う関係をつくることである。

 まずは、校訓と学校教育目標の関係について。校訓は、人間形成にあたってとりわけ大切にした教育理念や教えを成文化し、学校生活の指針としたものである。しかも、たびたび変えるということはなく、長期間にわたって維持されることが少なくない。 この校訓をもっている学校においては、校訓と学校教育目標それぞれに役割をもたせて一体的に機能させていくことが考えられる。例えば、「不易」の部分を校訓に、そして、「流行」の部分を学校教育目標に託し、相互補完的に機能させていくということである。

 文部科学省において設けられた校訓等を活かした学校づくり推進会議は、校訓を「学校で、教育上の理念・目標を成文化したもの」ととらえて、全国の小中高等学校から校訓を集めて「校訓を活かした学校づくりの在り方について(報告書)」(2009(平成21)年8月)にまとめた。そのなかには、「学校教育目標と校訓との関係性を明確にし、体系的に目標を整理することで、学校教育活動の核として、校訓を『教育目標の後ろ盾』としている場合もあり、学校づくりの在り方として、一つの重要な方向性を示すものと期待される」との一節も記されている。

 いずれにしても、学校教育目標が多分に校訓化している現状をふまえるならば、それを校訓として位置付けることを検討してみてはどうか。その上で、本年度の取組の是非をとらえる指標としての機能をもたせる観点から、重点目標群を整序して新たな学校教育目標として立てるのも一つの考え方である。

 一方、学校教育目標と総合的な学習の時間の目標との関係を明確にすることである。総合的な学習の時間については、このたびの学習指導要領改訂において、その目標が、学校教育目標と直接的につながるという他教科等にはない独自な位置と特色を有することになった。

 「小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 総則編」には、総合的な学習の時間の目標と学校教育目標との関係について、次のようにある。

 「第5章総合的な学習の時間第2の1に基づき各学校が定めることとされている総合的な学習の時間の目標については、上記により定められる学校の教育目標との関連を図り、児童や学校、地域の実態に応じてふさわしい探究課題を設定することができるという総合的な学習の時間の特質が、各学校の教育目標の実現に生かされるようにしていくことが重要である」

 この点をふまえ、例えば、学校教育目標には書き込まれていない育てたい資質・能力について、総合的な学習の時間に目標に記すことによって補うことが、あるいは、学校教育目標と総合的な学習の時間の目標との接近によって、理念的で抽象度が高いとされてきた学校教育目標を、総合的な学習の時間の目標によってより具体的に表現するといったことが考えられる。

 いずれにしても、学校教育目標を補うのが総合的な学習の時間の目標であり、この両者をもってわが校の学校教育目標とすることも、一つの考え方である。

 第3に、評価を可能とすることである。「小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 総則編」は、教育目標を設定する際の視点として次のように示している。

(1)法律及び学習指導要領に定められた目的や目標を前提とするものであること。
(2)教育委員会の規則、方針等に従っていること。
(3)学校として育成を目指す資質・能力が明確であること。
(4)学校や地域の実態等に即したものであること。
(5)教育的価値が高く、継続的な実践が可能なものであること。
(6)評価が可能な具体性を有すること。

 学校教育目標の見直しをはかるにあたって、これらの視点とそれぞれ照らし合わせてみることが大切である。このうち、(1)(2)については、すでに読み込み済みということも十分に考えられることから、(3)から(6)について、それぞれ事項との関連において、わが校の学校教育目標の在り方を探る作業が求められるところである。とりわけ、(6)をもとに、具体性をもたせる観点から学校教育目標を見つめ直すことが問われている。

 「答申」は、カリキュラム・マネジメントに触れ、その過程が学校評価の取組と重なることを次のように述べている。

 「学校評価において目指すべき目標を、子供たちにどのような資質・能力を育みたいかを踏まえて設定し、教育課程を通じてその実現を図っていくとすれば、学校評価の営みは『カリキュラム・マネジメント』そのものであると見ることもできる」

 しかし、実際のところ、カリキュラム・マネジメントはカリキュラム・マネジメントとして、学校評価は学校評価として、それぞれ二元的に扱われる現状にある。

 これを「答申」が述べるように一元的な扱いとして整序を図っていくには、学校教育目標が鍵を握ることになる。カリキュラム・マネジメントにとっても、学校評価にとっても、その核となるのが学校教育目標である。その意味で、学校教育目標を軸にマネジメントを進めることが、学校評価とカリキュラム・マネジメントとを結びつけることなる。

 そのために、学校教育目標を評価可能としておくことが、より重要になってくる。まさに、評価が可能な具体性を有する観点から、学校教育目標の在り方を問い直すことが、学校評価とカリキュラム・マネジメントの整序をはかる引き金になることを確認していきたい。

校長にとっての学校教育目標

 さて、わが校の学校教育目標をどのように扱っていくのか。維持していくのか見直しに着手するか。現実の問題として、学校教育目標の改廃は校長の手に委ねられているといっても過言でない。いかなる判断を下すか。改めて、校長の経営姿勢が問われるところである。

 校長の日々は組織の掌握にあり、その積み重ねにある。学校の現状をどのように認識し、いかなる手を打つか。日々生起する出来事は個別具体的であり、これら対応にあたって、個別と全体との往復が求められ、全体的な状況の把握のもとでの個別の案件の処理が問われることになる。そのようなマネジメントを進めていくにあたって、学校教育目標は一つの指標となり欠かすことのできない拠り所となっているはずである。

 校長のリーダーシップ発揮の基盤となるものは、制度や法律であったり、教育者としての権威であったり、あるいは、自身の人柄であったりと様々な要件をあげることができる。そのなかにあって、学校教育目標もまた学校経営実践を支える基盤となるものである。まさに、学校教育目標にリーダーシップ発揮の基盤を置くマネジメントのスタイルが問われることになる。

 その意味で、校長にとって、学校教育目標を見直すということは、自らのリーダーシップ発揮の立脚点を見つめ直し、その基盤を確かなものにするための取組ということになる。

 これらの点をふまえ、まずは、わが校の学校教育目標の履歴を教職員とともに知る取組が求められるところである。今ある学校教育目標は、いつ設定されたのか。どのような理由で現在のものになったのか。その経過と事情を知ることによって、現在設定されている目標についての理解を深め、見直しの是非を判断する。

 わが校がどのような歩みをたどって現在があるかについて、学校教育目標の変遷を通して知る。わが校の学校教育目標を問い直す取組の第一歩として、その道を拓くリーダーシップの発揮を校長に期待したい。

千葉大学特任教授
天笠 茂
Profile
あまがさ・しげる 昭和25年東京都生まれ。川崎市立子母口小学校教諭、筑波大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。昭和57年千葉大学講師となり、平成9年より同大教授、平成28年度より同大特任教授。学校経営学、教育経営学、カリキュラム・マネジメント専攻。中央教育審議会初等中等教育分科会委員など文科省の各種委員等を務める。単著『学校経営の戦略と手法』『カリキュラムを基盤とする学校経営』をはじめ編著書多数。

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