「社会に開かれた教育課程」の開発とカリキュラム・マネジメント 吉冨芳正(明星大学教育学部教授 )

トピック教育課題

2019.05.21

「社会に開かれた教育課程」を実現する開発的取組みのポイント

 各学校において「社会に開かれた教育課程」を実現するためには、教師が教育課程についての理解を深めつつ、次の要素を押さえて自校の教育課程の構造化、体系化を図ることが鍵となる。

(1)教育目標の設定

 学校の教育活動は、目標の実現を目指して展開される。教育課程についてどのような編成の原理や手続きをとろうとも、教育活動を通して目指したいものについて基本的な考え方を明確にすることは不可欠である。

 中央教育審議会では、「社会に開かれた教育課程」において育成すべき資質・能力について、学習する子どもの視点に立ち、①「何を知っているか、何ができるか(個別の知識・技能)」、②「知っていること・できることをどう使うか(思考力・判断力・表現力等)」、③「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか(学びに向かう力、人間性等)」の三つの柱に沿って整理を進めることとされている。各学校では、これらを手がかりにして、自校の実態等を踏まえ、育成を目指す資質・能力を明確に描くことが必要である。

 学校には、「学校の教育目標」をはじめ、「校訓」「学校像」「子ども像」「学年目標」「学級目標」、指導計画における目標など、様々なかたちで目指すべきものが存在する。それらがばらばらでは、効果的な教育活動は成立しない。全体的・一般的な目標とその実現のための個別的・具体的な目標の関係、各教科等や各学年が担う役割とそれら相互の関係などを構造化、体系化することが必要である。

(2)内容の組織

 目標を実現するためには、教育の内容を適切に組織することが必要である。学校教育で扱うべき内容は学習指導要領に示されているが、学習指導要領は各学校が編成する教育課程の基準であって、学校の教育課程そのものではない。各学校として内容を扱う方針を決定し、内容を選択し配列するという手続きを踏む必要がある。その際、内容の組織を視覚的に俯瞰できるよう工夫して、計画全体を全教師が共有し、授業実践と往還させながら内容の体系性や相互の関係などを常に検討し改善につなげるようにすることが大切である。

「社会に開かれた教育課程」における内容の組織では、指導事項を並べることにとどまらず、子どもたちの学習過程に踏み込んで計画することが重要である。中央教育審議会では、子どもたちの学びに着目し、〈①習得・活用・探究という学習プロセスの中で、問題発見・解決を念頭に置いた深い学びの過程〉、〈②他者との協働や外界との相互作用を通じて、自らの考えを広げ深める、対話的な学びの過程〉、〈③子供たちが見通しを持って粘り強く取り組み、自らの学習活動を振り返って次につなげる、主体的な学びの過程〉を実現する視点から学び全体を改善することの必要性が提言されている。併せて、課題の発見・解決に向けた主体的・協働的な学び(いわゆるアクティブ・ラーニング)の重要性が指摘されている。内容の組織に当たっては、指導方法も視野に置きつつ、子どもたちが社会や世界などとつながって質の高い経験を重ねていけるように学習過程をデザインする必要がある。

(3)授業時数の配当

 授業時数の配当は、目標の設定や内容の組織とともに教育課程編成の重要な要素である。学校教育の時間に関する要素としては、授業時数のほか、学期、休業日、授業日数、授業週数、授業の1単位時間、週時程、帯時間や休憩時間を含めた日課などがある。時間も有限な資源であり、それぞれの要素の意味を考えて計画や運用の工夫に努める必要がある。

 時間を適切に区分したり配当したりすることによって、①教育活動の計画や管理に役立てたり、②教育活動の重点を明確にしたり、③子どもたちの学習や生活のリズムをつくったりすることができる。例えば、②の視点から考えると、教育課程や指導計画において授業時数を配当するという作業は、目標の実現に向けて各内容への重点の置き方を考え、それを明示的に計画に表していくことになる。子どもたちの側から考えれば、学習の過程や方法を考慮し、それぞれの学習が成立し質の高い経験ができる時間を保障することである。

 これらについて熟慮した計画があることによって、それに照らして授業の進み具合や子どもたちの学習の状況を確かめ、より効果を高めるよう教育活動を修正することができる。

「社会に開かれた教育課程」を実現するカリキュラム・マネジメントのポイント

 各学校において「社会に開かれた教育課程」を実現し、社会の変化に伴って生じる複雑で困難な問題に主体的、創造的に取り組み解決していく資質・能力を育成するためには、学校の教育活動と経営活動を関連付けながら改善に取り組むカリキュラム・マネジメントを確立することが必要である(5)

 中央教育審議会では、次の三つの側面からカリキュラム・マネジメントをとらえることが提言されている。各学校においてカリキュラム・マネジメントを進めるに当たっては、これらの側面に十分配慮することが大切である。

  • ① 各教科等の教育内容を相互の関係で捉え、学校の教育目標を踏まえた教科横断的な視点で、その目標の達成に必要な教育の内容を組織的に配列していくこと。
  • ② 教育内容の質の向上に向けて、子供たちの姿や地域の現状等に関する調査や各種データ等に基づき、教育課程を編成し、実施し、評価して改善を図る一連のPDCAサイクルを確立すること。
  • ③ 教育内容と、教育活動に必要な人的・物的資源等を、地域等の外部の資源も含めて活用しながら効果的に組み合わせること。各学校で「社会に開かれた教育課程」の実現に開発的に取り組むに際し、先進事例を踏まえると、カリキュラム・マネジメントについて次のポイントが重要である。

(1)PDCAサイクルの確立

 教育課程全体はもとより、各学年、各教科等、各単元など様々な次元でPDCAサイクルを通すことによって、教育活動の質の向上を図ることが必要である。その際、学校の自己評価や学力等に関する諸調査なども活用していくことが大切である。

(2)教師の学校経営への参画と学級経営の充実

 教師が教育課程編成を含めた学校経営に参画するとともに、学級経営の充実を図ることが必要である。教師一人ひとりが学校経営の方向を把握することによって適切な教育活動の計画や展開につながるとともに、学級経営の充実が授業の充実につながる。

(3)教育と研究の一体的展開

 教育課程の実施、特に授業実践と研究を一体的に展開することが必要である。子どもたちの学習過程が充実するよう、日々の授業から課題を抽出し、焦点を明確にして授業や教材の研究に取り組み、各教師の創意工夫を共有して授業の改善に生かすことが大切である。

(4)研修の充実

 自主的な研修を含め、様々な研修の場や機会の充実を通して、実践的指導力の向上を図るとともに、教師自身が人間や社会などについて知識を広げたり洞察を深めたりすることが求められる。

 

[注]

(5) カリキュラム・マネジメントについては、田村知子、村川雅弘、吉冨芳正、西岡加名恵『カリキュラムマネジメント・ハンドブック』(ぎょうせい、2016年5月刊行予定)を参照されたい。

 

明星大学教授
吉冨芳正
Profile
よしとみ・よしまさ 明星大学教育学部教授。専門は教育課程論、教育課程行政。文部科学省で学習指導要領の改訂、学校週5日制の導入などに携わる。千葉県富里市教育委員会教育長、国立教育政策研究所総括研究官を経て現職。「育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会」委員。

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