玉置崇の教育放談 [第3回] 多くのエピソードが話題にのぼる職員室こそ本物

授業づくりと評価

2022.12.26

玉置崇の教育放談
[第3回] 多くのエピソードが話題にのぼる職員室こそ本物

岐阜聖徳学園大学教授 
玉置 崇

『教育実践ライブラリ』Vol.3 2022年9

事業成果は数字では示せない

 教育委員会指導主事を務めていたときに、議員からの指示を拒否したために、強い指導を受けたことがあります。それは「きめ細かい教育推進事業」の担当者であったときです。

 この事業を進めるにあたって、教員数を増やすことが議会で決定されました。特に強く働きかけをしてくださった議員にお礼に伺った時のことです。その議員が私に、「どれほどきめ細かい教育が進んだのか、1年後に数字で報告してください」と言われたのです。

 このようなことを言われると思ってもいませんでしたので、動揺して、相手が議員であることも十分に考えず、「事業成果を数字で報告するのは無理です」と言ってしまいました。

 議員は、私が「はい、わかりました」と返答すると思っておられたのでしょう。ところが「無理です」と発したために、激しい口調で次のように叱られました。

 「あなたは教育行政をまったくわかっていない。どのような事業でも、その成果は数字で表すものだ。人が増えたことできめ細かい教育が○%進みましたと報告することは当然のことだ。もっと勉強したまえ!」

 頭を下げるしかないと思い、「申し訳ありませんでした」と謝りましたが、実は無理だという考えを変えたわけではありませんでした。

学校現場はエピソードで語るべき

 私は、大方の教育の成果は数字(エビデンス)で表すことは難しいことだと思っています。しかし、成果はエピソードであれば示すことはできると思うのです。むしろ、具体的なエピソードで教育の成果を示すことこそ重要だと考えています。

 「Aさんは、振り返りの中で、今度は同じ作者の違う本を読んでみたいと書きました」とか「Bさんは、自ら、計算の正答目標を決めて、毎日挑戦するようになりました」などといったエピソードを聞けば、子どもが主体的になってきていると信じることができます。「CさんとDさんは、二人で相談する中で、それぞれの考えの足りないところを指摘し合っていました」とか「EさんとFさんは、何度も対話を繰り返して、実験の結果を二人とも納得できる表現にしました」などと報告を受ければ、真の対話ができる子どもたちが育ってきたなと確信することができます。

 こうした具体的事実こそ、学校現場は重要視すべきです。

育てたい子ども像を具体的な姿で語ることができること

 そこで、この機会に目指す子ども像を明確にしているか振り返ってみましょう。

 例えば、教育目標の一つを「深く考え進んで学ぶ子ども」としていたとしましょう。深く考える子どもの具体的な姿を各教員がイメージしていなければ、目標は単なるお題目に過ぎず、具現化することはできません。

 「一つの考えで満足することなく、他の考えはないだろうかと多角的に考えようとする姿」「このことはこの場面だけではなく、他の場面でも言えることなのだろうかなど、多面的にとらえようとしている姿」などと、明確にイメージしていることが大切です。授業の中で、そのような子どもがいたときに、「このように考えたことはとても素晴らしいことです」と価値付けができます。

 授業を見て助言する立場からすると、あの子どものあの発言は、まさに授業の目標に達している証なのに、なぜ教師は大いに賞賛しないのだろうかと残念に思うことがあります。授業後、その教師にこのことを伝えると、教師自身が授業の目標が達成できたときの子ども像を具体的に持っていないことが多々あります。

 こうした経験から、指導案を見せてもらったときには、「この授業が大成功したら、子どもはどのようなことを発言したり、書いたりするのですか?」と問うことにしています。

エピソードが行き交う職員室にしよう

 GIGAスクール構想が始まって2年が過ぎようとしています。職員室では、端末を使ったことで現れた子どもの変化が語られているでしょうか。「社会の授業で、端末を使ってこのようなことまで調べて発表した子どもがいました」「端末に入力した学級全員の考えを見ながら、指示をしなくても分類したり、まとめたりする子どもが出てきました」「端末を使って、アンケートを作って調査して、学級の課題を示してくれた子どもがいます」など、様々なエピソードが行き交う職員室となっているでしょうか。

 GIGAスクール構想が具現化している学校は、このようなエピソードが日常的に行き交い、教師同士が良い意味で刺激し合い、学び合っています。端末の週における稼働率調査をして、その数値の変化を捉えることも確かに大切ですが、その数値だけでは、GIGAスクール構想が真に具現化しているとは言えません。教育の成果は子どもの姿に現れます。そうした子どもの姿を職員室で気軽に伝え合い、共に喜び合える職員室でありたいと思います。

 

 

Profile
玉置 崇 たまおき・たかし
 1956年生まれ。愛知県公立小中学校教諭、愛知教育大学附属名古屋中学校教官、教頭、校長、愛知県教育委員会主査、教育事務所長などを経験。文部科学省「統合型校務支援システム導入実証研究事業委員長」「新時代の学びにおける先端技術導入実証事業委員」など歴任。「学校経営」「ミドルリーダー」「授業づくり」などの講演多数。著書に『働き方改革時代の校長・副校長のためのスクールマネジメントブック』(明治図書)、『先生と先生を目指す人の最強バイブルまるごと教師論』(EDUCOM)、『先生のための話し方の技術』(明治図書)、『落語流 教えない授業のつくりかた』(誠文堂新光社)など多数。

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