Leader’s Opinion~令和時代の経営課題~

坂元裕人

Leader’s Opinion ~令和時代の経営課題~ [今回のテーマ]GIGA端末持ち帰りの効果と条件整備 坂元裕人

トピック教育課題

2022.02.28

Leader’s Opinion ~令和時代の経営課題~
[今回のテーマ] GIGA端末持ち帰りの効果と条件整備
坂元裕人+片山敏郎

鹿児島県垂水市教育委員会教育長 
坂元裕人

『新教育ライブラリ Premier II』Vol.4 2021年11月

「持ち帰り前提」と「コンテンツ重視」の1人1台端末環境整備が「学びの姿」を変える

まだまだ少ない平常時の端末持ち帰り

 令和3年8月30日、文部科学省は、GIGAスクール構想に関する各種調査の結果を公表した。その中の「端末利活用等の実態調査(7月末時点)」によると、平常時に端末の持ち帰り学習を実施している学校の割合は25.3%である。また、「自治体におけるGIGAスクール構想に関連する課題アンケート概要(5月現在)」によれば、トップ3に「持ち帰り関連」が入り、さらに持ち帰りに関連する「家庭の通信環境」や「端末管理・運用」等も上位を占めるなど、端末持ち帰りの難しさが垣間見える。

 さて、本市では、今年4月からの本格稼働後、早い学校では、5月には端末持ち帰りをスタートした。今では、市内全ての学校で端末稼働率はほぼ100%を実現し、さらに、長期休業時も含め平常時の端末持ち帰りも全ての学校で実施されている。

学校での活用だけではもったいない 〜「持ち帰り前提」での端末環境整備〜

 GIGAスクール構想により、これからのSociety5.0時代を生き抜く子供たちに必要な力を付けさせるため、本市では、最高の教育環境を整えることを目指し整備を進めてきた。そこで、私が強くこだわったのが、コロナ禍のオンライン学習や平常時の家庭学習等でも活用できる「持ち帰り前提」の端末環境整備と、授業や家庭学習での活用を視野に入れた「コンテンツ重視」のクラウドサービスの導入である。

 まず、ネットワーク整備では、学校から直接インターネットに接続し、一斉に1人1台端末からクラウドサービスを活用してもスムーズに接続できるような高速・大容量ネットワークの整備を徹底した。

 また、端末整備においては、何も入っていない端末を整備しても活用が進むとは考えにくく、予算を増額し、授業や家庭学習等で活用できるような「コンテンツ重視」のクラウドサービスを複数導入した。

 さらに、ネット環境のない家庭への対応として、1学年分ではあるが、必要な家庭数のモバイルWi-Fiルータ(通信料は市が負担)を各学校に配備し、ローテーションで貸し出せるような環境も整えることができた。

実際に端末持ち帰りを実現するために

 端末の持ち帰りを行うために、市教委では5月初めに端末やモバイルWi-Fiルータの貸し出し手続きを定めた要綱と端末持ち帰りのルールを策定し、さらに各学校で自校化の上で児童生徒に指導し、持ち帰りを開始した。ただ、学校も保護者も、端末の持ち帰りに様々な不安があることは予想されたため、事前に条件整備を進めた上での実施とした。

 まず、端末破損等の不安に対し、修繕費を予算化し、故意や重過失でない限り、基本的に市で対応することとし、同意書にもそのことを明記した。

 次に、有害サイトへのアクセスの心配に対しては、学校でも家庭でもフィルタリングが可能となるクラウドサービス「Cisco Umbrella」を導入し、設定・運用していることを周知した。

 さらに、生活リズムが乱れることなどの対応としては、学校での指導とともに、家庭での見守りもお願いする必要がある。そこで、市P連の協力を得て、「家庭で守ろう7つのルール」を昨年度末に制定し、スマホ・タブレット等の活用のルールやマナーを含めた「家庭のルールづくり」の啓発活動も行った。

平常時の持ち帰りがもたらしたもの

 まず、アダプティブ・ラーニング対応のAIドリル「navima」による家庭学習の充実である。AIドリルはゲーム的な要素もあり楽しく取り組むことができる上、躓いたところでは動画解説もあり、自分のペースで学習できる。その学習状況を教師側もモニタリングでき、全体と個に応じた指導を行うことで、学力向上の一助となるものと期待している。

 次に、「スクールライフノート」による生徒指導の充実である。これは児童生徒が朝夕1日2回、「晴れ・曇り・雨・雷」の4択で「心の天気」を入力するもので、導入当初から小学校低学年でも活用でき、さらに児童生徒の悩みや不安等の組織での早期発見・早期対応につながるものとして期待し導入した。「心の天気」を長期休業中も入力させた学校では、子供の心の変化に気付くことができ、保護者と協力して素早い対応ができたとの報告もあった。

 さらに、平常時から端末持ち帰りを実施してきたことで、本市では、2学期当初の新型コロナウイルス関係でやむを得ず登校できない子供たちへの対応でも、慌てることなく「オンライン授業」を実施し、登校している子供たちと一緒に家庭にいながら学習を進めるハイブリッドな対応を行うことができた。このように、これからの「学びの姿」を変えていく大きな効果が期待できる。

今後の展望

 今後、端末の持ち帰りのニーズはますます高まるであろう。その検討や整備を進める中では、先行して実施しているところのノウハウを生かしつつも、「目的」と「手段」を取り違えずに整備を進めたい。ただ、モバイルWi-Fiルータを整備し、ルール等を策定して持ち帰らせればよいというものではなく、どのように活用するか、活用場面等も考慮しながら、フィルタリングや活用できるコンテンツまで考慮した整備を行い、子供たちの「学びの保障」が実現できるような整備を進めることが大切である。

 さらに、今後大切にすべきは、「情報モラル教育」「情報セキュリティ教育」の充実であろう。今後、家庭に持ち帰るようになれば、様々なトラブルの発生も予想される。その未然防止や早期発見、早期対応につながる指導や研修は不可欠であり、今後、本市でも更に力を入れたいことの一つである。

 今後も、将来を担う子供たちに必要な資質・能力を身に付けさせるため、諸課題にも柔軟に対応し、ソフト面やハード面の環境を整備しながら、いつでも、どこでも、子供たちがより主体的に学べる教育を前に進めて行きたい。

 

 

Profile
坂元裕人 さかもと・ひろと
 1958年生まれ。鹿児島県出身。鹿児島大学教育学部卒業。兵庫教育大学大学院修士課程修了。鹿児島県公立小学校教諭、小学校教頭、川辺町教育委員会指導主事、県教育庁総務課主査、県総合教育センター教科教育研修課義務教育研修係長、薩摩川内市立水引小学校長、県総合教育センター教職研修課長、鹿児島市立玉江小学校長を経て、2017年4月から現職。現在、2期目。

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