授業力を鍛える新十二条
授業力を鍛える新十二条[第5回]「見方・考え方」の成長を可視化で支える
トピック教育課題
2019.10.15
授業力を鍛える新十二条
[第5回]「見方・考え方」の成長を可視化で支える
第五条:〈授業コントロールの技〉―「明示的指導 可視化」
高知県教育委員会事務局学力向上総括専門官 齊藤一弥
子どもが、自ら学んだ知恵を自覚化しそれを積極的に活用するためには、その可視化が有効である。教科の「見方・考え方」を働かせて学び進む際にも、子どもがその価値を実感し、それを働かせて学べるように「見方・考え方」を板書等に可視化させて明示的指導を充実させることが大切である。
「見方・考え方」の捉えと指導の難しさ
前号において、「見方・考え方」とは教科ならではの対象への関わり方、アプローチの仕方であることから、指導する側の教師は「見方・考え方」を意識することで指導を一貫させることになり、授業を受ける側の子どもは学び進む方向をはっきりとつかむことになることを確認した。また、子どもが「見方・考え方」を働かせて学ぶことによって、授業で扱われる知識や技能もばらばらのものではなく、関連したもの、統合されたものとして認識され、それらに系統性や関連性が見えて大切な概念、観点が理解できるようになるとともに、汎用性のある思考方法、表現方法を活用できるようになるなど、「見方・考え方」を軸に据えた授業づくりの重要性も指摘してきた。
しかし、その一方で、「見方・考え方」を学習指導の中で成長させていくことは決して簡単なことではない。「見方・考え方」は、指導計画の中に意図的かつ計画的に位置付けられ、それを継続的かつ段階的に日々の実践において明示的に指導することによってその成長が支えられていくからである。これまでの内容ベイスの指導計画の学習展開では「見方・考え方」が意識されることは少なく、授業実践においても教師がそれを強く意識して明示的に指導することへの関心も弱かったことから考えると、その成長を支える指導への転換は容易ではない。子どもが「見方・考え方」を働かせて学ぶために、いかにそれ自体を繰り返して明示的に経験させ、子どもが自覚的にそれを活用していくように授業を仕組んでいけばよいのか、これからの授業づくりのあり方が問われている。
「見方・考え方」の可視化でその成長を支える
高知県室戸市立室戸小学校の取組
高知県室戸市立室戸小学校は、算数科を通して新学習指導要領の主旨を反映させた授業づくりに取り組んでいる。特に、能力ベイスの授業への転換を図るために、「数学的な見方・考え方を働かせた数学的活動」を充実させるための指導の工夫を研究の軸に据えて、これまでの授業の型からの脱却を目指し、単元計画の見直しをも視野に入れながら実践研究を進めている。
(1)単元で身に付ける力と「見方・考え方」の関係の明確化
昨年度、2年生の学級担任であった森寛暁教諭も、子ども自身が「数学的な見方・考え方」へ関心をもち、それが成長していく過程で子どもが身に付けていく資質・能力の明確化とその育成への単元全体の再構成の研究に取り組んできた。単元のゴールイメージを明らかにするとともにそれを実現するために必要な「見方・考え方」を意識した単元開発が必要であると考えた。
実践研究では、初めにかけ算の学習で身に付けたい力(図1)を整理し、これらの獲得へ向けた単元のイメージ(図2)を明確にした。これまでの指導計画では内容ベイスのゴールが示されるだけで、「見方・考え方」の成長過程が見えにくかった。そこで能力ベイスのゴールを位置付けることで、それに向けて単元を通してどのように「見方・考え方」に関わりながら実践していくのかを明確にした。これによって単元を通して「見方・考え方」の指導を一貫性および連続性のあるものにするとともに、単位時間における明示的指導を確かに行うことができるようにした。
(2)単位時間における「見方・考え方」の可視化
授業において、子どもが「見方・考え方」を働かせて学び、その成長を実感的につかんでいくためには、その「働き」、「必要性」そして「よさ」などを板書等に可視化させて明示的に指導することが欠かせない。
下図(図3)は、5の段、2の段を学習した後に、4の段の答えを調べていく授業の最終板書である。課題には「4のだんは、5のだん、2のだんと同じようにかけられる数ずつこたえはふえていくのかな?」(下線筆者)とある。既習事項と関連させることで、かけられる(4)と4の段の積との関係に着目して(見方)、課題解決に取り組むようにしている。また、二量の関係については、アレー図(おはじきの図)、言葉の式そして式を組み合わせるなど根拠を明確にしながらこれまでの段と同様であることを説明(考え方)していることがわかる。子どもの「数だけちがうだけでこたえはいっしょ」という気付きを板書に取り上げることで、4の段の積の作り方を、これまでの段のそれと統合して確認している。
また、図4は、九九の範囲を超えた場合(5×18)の答えを求める授業の最終板書である。課題の「ぜんぶでいくつかな?」に続き、「前と同じかな? ちがうのかな?」と既習との関わり方について検討する様子が示されている。アレー図を使ってかけられる数(5)とかける数(18)の関係に着目して、既習内容をそのまま使うのでは解決できない場面でも、活用可能な場面に置き換える(「半分に分けるとできる。九九が使える」)ことで求答可能になることを説明している。九九を超える範囲の問題でも、これまでに経験した計算のきまりを活用すること(5×9+5×9、5×6+5×6+5×6)で解決ができることのよさを板書全体で表現している。
「見方・考え方」とは、教科等の特質に応じてどのような視点で物事を捉え、どのような考え方で思考していくのかという物事を捉える視点や考え方のことである。これらの板書が示すように、授業においては常に何に着目して学習対象と関わればよいのか、また学習対象とどのように関わっていけばよいのかを可視化して子どもに伝えていくことが重要になる。
(3)単元を通した「見方・考え方」の継続指導と成長の可視化
「見方・考え方」は、単元を通して成長していくものであり、教師はそれを絶えず鍛えるための支援を続けていく必要がある。しかし、その一方で学ぶ側の子どもにとってみると、実態の伴わない能力の成長を実感することは難しい。ましてや子どもができるようになったことを実感し、それを自覚的に日々の学習に生かしていくには高いハードルがあり、それを越えるためには学習環境への支援等が欠かせない。
図5で示したものは、かけ算の単元の学習の中に見られた数学的な見方・考え方に関係する言葉の掲示である。授業での教師の発問や問いかけや子どもの疑問や気付きから、繰り返して使われた言葉、いい問いづくりや解決につながった言葉をピックアップし、それを可視化することで学習の中で積極的に活用できるようにしようとしたものである。子どもが無自覚的に使っている言葉を、授業で子どもと教師とで価値付けをして、それを子どもが意識的に使っていくことをねらっている。「見方・考え方」の育成は、表面上異なった対象への関わり方、アプローチの仕方、そしてそれらを支えるアイディアの裏側に共通するものの存在に気付くようにすることとである。「すばらしい算数言葉」を可視化することで教科の本質に子どもが迫っていくことが可能になる。可視化された知恵が、子どもの思考ツール、表現ツールとして活躍できるように指導の工夫が教師に期待されているわけである。
教科の本質を確実に学ぶために「見方・考え方」は不可欠であり、教科指導の土台を支えているものであることから、今後は、「見方・考え方」との関わりを整理したもの(図6)を指導計画や本時展開に位置付けて明示的指導に生かしていくことも必要になってくる。
[引用文献]
・文部科学省「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)(中教審第197号)」2016年
・齊藤一弥「『見方・考え方』の理解とこれからの教科等の学びの在り方」『新教育課程ライブラリⅡ』(Vol.9)ぎょうせい、2017年
・齊藤一弥「『見方・考え方』で深い学びをデザインする」『リーダーズ・ライブラリ』(Vol.4)ぎょうせい、2018年
Profile
高知県教育委員会事務局学力向上総括専門官
齊藤一弥
さいとう・かずや 東京都出身。横浜国立大学大学院教育学研究科修了。横浜市教育委員会授業改善支援課首席指導主事、指導部指導主事室長として「横浜版学習指導要領」策定、横浜型小中一貫教育の企画・推進などに取り組む。平成24年度より横浜市立小学校長を経て平成29年度より現職。文部科学省中央教育審議会教育課程部会算数・数学ワーキンググループ委員、小学校におけるカリキュラム・マネジメントの在り方に関する検討会議協力者。主な編・著書に『「数学的に考える力」を育てる授業づくり』(東洋館出版社)、『算数 言語活動 実践アイディア集』(小学館)、『シリーズ学びの潮流4 しっかり教える授業・本気で任せる授業』(ぎょうせい)、『平成29年改訂 小学校教育課程実践講座 算数』(ぎょうせい)などがある。