Q&A どうなる! どうする? GIGAスクール[最終回] 持ち帰り活用が新しい学びを創造する

トピック教育課題

2022.05.20

Q&A どうなる! どうする? GIGAスクール[最終回]
持ち帰り活用が新しい学びを創造する

[回答者]関西大学初等部教諭 石井芳生

『新教育ライブラリ Premier II』Vol.6 2022年3月

 

Q

タブレット端末を持ち帰るようになってから、学習以外のことにも使い、学習に集中できていないようだと保護者から不安の声があがっています。持ち帰り活用がうまくいくコツを教えてください。

 

A

①持ち帰り「はじめの第一歩」その前に

 まず、持ち帰りユーザーになる前に、親子説明会を開催します(オンライン可)。その場で、「大人もスマホがない生活は不便ですよね。タブレット端末が悪ではありません」と切り出します。とはいえ、使い方次第では負の要素も少なくないので、システム的に制御できるのなら、使用可能時間帯の制限やアプリのインストール不可など、最初は強めの設定をしておくとよいでしょう。ただ、縛りが強すぎると、学習させられる道具になるので、見極めは慎重に行いたいところです。

 家庭での使い方のルールを定めることは必要ですが、学校が一方的に押し付けるのではなく、子どもたちの声に耳を傾け、ルールの按配については都度改善していくことが大事です。子どもたちの実態いかんで、ルールが厳格化されることもあるでしょう。ただし、ルールを破れば没収などの制裁措置は、根本的な解決にはなりません。家庭にある他の端末を使えば、学習以外のことはいくらでもできるわけですから、自らを律する心を育てていくことが究極の目標です。好ましくない使い方が発覚した場合は、指導好機ととらえ、どんどん有効活用を奨める構えが大事です。

 持ち帰り活用が始まると、学校での活用ポリシーや作法の徹底がいかに大切であるかが浮き彫りになります。学校では、何のために使うのか、いつ、どのような場面で、どのように使うのかを確認しながら使い始めますよね。自動車教習に例えると、練習して仮免許を取得してから、公道を走る段階に進む感覚です。横に教官がいなくても、交通ルールを守り、マナーよく運転できる力をつけることです。とはいえ、様々なことができるタブレット端末は子どもたちにとって魅力的なアイテムです。子どもたちの興味・関心をうまく学習に活かすことにこそ腐心したいです。

②家庭でも学びのツールにする仕組みと仕掛け

 多くの学校が協働ツールを使っていると思います。インターネットを介して、学校や家庭からいつでも課題を提出し、添削や評価される活用は、学び方の可能性を大きく広げました。タブレット端末は即時性が高いので、学習意欲の維持・向上にも貢献します。また、子どもたちは家庭に持ち帰ってからも継続して学べたり、友達と交流したりできます。教師も職場で宿題チェックに追われることがなくなり、ゆとりをもって子どもと接する時間を得ることができます。これぞ学びの質を落とさない真の働き方改革であるし、子どもたちの学び方革命です。

 国語の宿題で「4つの時事記事から1つを読んで140字程度で感想を書く」という取組を毎週1回実施しています。提出された感想は全員が閲覧できる状態にし、「追加調べをし、自分の体験談が書かれているのがいいね」などとコメントを入れて個を称揚します。S評価児童にはデジタルメダルを贈るなどの工夫も加えられます。

 その他、クラス全員で共同アルバム機能を活用しています。画像や動画がいつでも投稿できて、それに対して「いいね」やコメントが投稿できるシステムです。学校で「今夜は中秋の名月だから楽しみだね」と前振りをしておくと、その夜、「デジタルお月見会」が始まりました。月を撮影して投稿するだけなのですが、事象を共有するSNS感覚が芽生えます。休日や長期休暇もクラスの繫がりを求めてたくさんの子が集います。「今から10円玉をピカピカにしてみます」「アプリでお絵描きしてみます」「スクラッチで作ってみました」などの動画や作品が投稿されるようになりました。YouTuber気分です。「面白いね。お母さんの顔も写っているけど大丈夫?」など、時には教師自身が○人目のクラスメイトを演じながらタブレット端末とのつき合い方を会得させることが大切です。安全な場所で、友達の作品や見聞がシェアされることは非常に価値が高いです。このような営みを経て、肖像権や著作権、出典や言葉遣いなどに思慮するようになっていきます。もちろん、そこに至るまでには学校と家庭を往還させる日々のリテラシー鍛錬が必要です。

③保護者の賛同を得る

 持ち帰り活用がうまくいくための最大のキーポイントは、保護者の参画と賛同を得ることです。例えば、保護者用アカウントを用意することで、我が子の活動や教師の評価がリアルタイムで閲覧できることはメリットでしかありません。図画工作、書道、新聞などの作品は、他の子のものも見られるようにできます。コロナ禍で開催した「デジタル文化作品展」は大好評でした。また、ダンスや英会話動画は、「クラスや学年の中の我が子の姿が見られてオンライン授業参観のようで家族で楽しめました」と反響が大きかったです。このようなコメントは学級・学年ブログのコメント欄から届きます。つまり、日々の活動のダイジェスト写真をブログで発信しているのです。学級通信を発行している先生もいます。「タブレット端末があるおかげで意欲的に学び、こんな良い表情を見ることができました。これは何をしているところかというと……」と背景に豊かな学びがあったことをハイブリッドで伝えるのです。

 持ち帰り活用開始期は、タブレット端末の使用が引き起こす様々な「害」を心配する保護者の心配の声があがりますが、このような取組を歩んできた現在は皆無です。

 

 

Profile
関西大学初等部教諭 
石井 芳生 いしい・よしき
 教育学修士。徳島県公立小学校で20年間の勤務を経て2011年より現職。公立時代はインターネットを介して国内外の学校と学校間交流学習を展開。交流校と共にお米を育てたことをwebにまとめた作品がマイタウンマップ・コンクールにて文部科学大臣奨励賞受賞。現在、NHK for School「知っトク地図帳」「未来広告ジャパン!」「ツクランカー」などの番組協力委員を務める。現任校はタブレット端末の持ち帰り活用(BYOD)7年目。一人二台の遠隔授業や協働学習、国際理解学習、自分の考えを構築する授業設計について研究中。

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