Leader’s Opinion 〜令和時代の経営課題〜 今回のテーマ 少人数学級 理想の人数は 次代を担う子供たちの可能性を引き出すために 

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2021.06.06

Leader’s Opinion 〜令和時代の経営課題〜
今回のテーマ 少人数学級 理想の人数は
小池隆一+本田由紀

次代を担う子供たちの可能性を引き出すために

東京都中野区立令和小学校長
小池隆一

新教育ライブラリPremierVol.6』 2021年5月

 立春の日、ある一般紙には、「小学教員試験倍率2.7倍」という見出しの記事と「公立小35人学級法案を閣議決定」という見出しの記事が、同じ面に掲載されていた。記事のスペースは、目分量で、約9:1。この分量比に、教員の質の向上への関心の高さを感じた。大学等での教員養成、教委の人材確保を受けて、学校は教員の育成に努めなければならない。35人学級推進の上で最大の課題は、教員の確保と質の向上である。この課題を大前提とした上で、どのような視点が必要になるであろうか。

 

視点1 学校の多様性と包摂性

 

 中央教育審議会答申では、日本型学校教育の成果に、「児童生徒の状況を総合的に把握して教師が指導を行うことで、子供たちの知・徳・体を一体で育む」ことを挙げている。35人学級実現の中で、このことが意味することを重視する必要がある。

 先行研究の知見では「少人数化が学力向上につながるエビデンスはない」と言われている。確かに、極めて高い力量を有している教員であれば、40人学級でも30人学級でも、教科指導で同じ程度の学力テスト結果を出すことが可能のように感じる。一方、児童数が多ければ一人一人に目を向ける時間が当然に少なくなる。児童個々の生活面を丁寧に見て、児童の状況を総合的に判断するには、児童数が少ない方がいいのは自明である。

 「学校の見えない同調圧力」という言葉が言われ始めている。35人学級の中で同調圧力が作用し、学校不適応を増やすことは避けねばならない。多様化する子供たちに対応し、子供の状況を総合的に把握し、学校・学級の包摂性を高めなければならない。子供たちを見取るためには、35人ではまだ多く、30人が望ましいと感じている。

 

視点2 教員相互の協働的な取組

 

 学年の児童数が36人の場合、1学級18人の2学級となる。一つの学級集団の人数として少ないのではないかという危惧が指摘されている。これには、学習活動に応じて指導体制を工夫し、柔軟なグループ編成等で指導の充実を図ることで対応する。

 私自身、前任校で、第1学年1組18名、2組18名を経験した。教室内をゆったりと使い、自席で個人の考えをまとめた後に教室後方のスペースへ移動して互いの考えを交流していた授業風景が目に浮かぶ。この学年は、日常の学習で学年合同の場を積極的に設定した。6人1グループの活動を行う場合、学級では3つの課題のグループしか作ることができない。学年へ拡大することで、6グループが可能になる。児童が主体的に選択できる学習課題が倍に増える。かつ、グループ編成の選択肢が増え、他者との学び合いの機会も増える。

 1学級の児童数が少ない場合、児童に多様な学習の場を設定するためには学級担任同士が協働することが不可欠である。このことを可能にする学校風土・学校組織としなければならない。

 30人学級となった場合、児童数のミニマムは16人と15人になる。多様な学習の場の工夫によって、1学級の人数の少なさを補えると考える。

 

視点3 教室環境の整備

 定数改正によって学級数が増加し、それに伴って普通教室数も増える。令和7年度を目途に、各自治体は施設整備を進めていく。学校では、教室内の最適な環境をどう創るか、そもそも自校の普通教室の数は足りるのか等々、中期ビジョンが求められる。

 一昨年度の第6学年は、37名の1学級編制であった。教室のほとんどを児童机が占めているというイメージだった。授業観察の際に、児童のノートを見るために机間に入るのをつい遠慮してしまうこともあった。教室の広さは旧態依然でありながら、数十年前に比べて児童の体格は向上し、音楽や図工での持ち物が多彩になり、電子黒板等かつて想定していなかった物が教室内に増えた。これからの1人1台端末の時代へ向けて、65cm×45cmが主流の机のサイズが多様化されていくことも想像に難くない。かつ、ソーシャルディスタンスが継続されるのであれば、机と机の間隔も確保することになる。

 各自治体は、普通教室増のために計画的に整備を進める。これに並行して、各学校は学習環境の整備に努めることが必要である。

 教室の面積は有限であり、工夫には限界がある。であるならば、35人よりも30人の方がスペースに余裕が生じる。そして、このことは、中学校においてより切実であると感じる。

 

視点4 児童数に基づく算出と柔軟な制度の適用

 標準法が学級数に応じて基礎定数を算出する以上、学級数の見極めによって教員人事が大きく左右される。学校全体の組織力向上のためには、的確な異動人事管理が求められる。

 今年度再編新校としてスタートした現任校は、特別支援学級が設置されている。8人で1学級が編制され、第1から第6学年の児童20名・3学級・教員4人配置、という構成である。感覚的には20名という全児童数に対して教員4人のように感じる。

 少し長い例になる。「81名3学級の学年がある。秋の地教委とのヒアリングでは、次年度は2学級と想定する。学級減となり過員を生じさせないために、異動者をリストアップする。この異動候補者は、一定の在校年数を経た力量のある教員であるケースが多い。人事異動は学級減の想定で行われる。結果的に3月末に転出児童がなく81名のままであれば、3学級編制となり、新採もしくは期限付教員を迎える。力量のある教員を出して、初任者が配置される。複数学年がボーダーとなる年度も珍しくない」。学級数による定数算出ではなく、特別支援学級のように児童数に対する教員数であれば、と切に思う。

 標準法の基礎定数算出が学級数から児童数へ変わると、人事管理上大きなメリットが生じる。現行の標準法でも、都道府県は算定された教職員定数の中で弾力的な配置が可能とされている。かつての東京都の学級維持制度のように、柔軟な制度の設定を期待する。

 今回の40年振りの標準法改正へ向けて、関係の方々のここまでのご労苦やご尽力がどれだけ大きかったことか。

 OECDの調査によると、1学級あたりの児童数は、比較可能な30か国の中で日本は2番目に多いという。今回の改正で、着実に少人数学級が推進する。このことに大いに感謝しつつも、私自身は更なる引き下げで30人を望んでいる。そして、前述したように、小学校だけでなく中学校でも早期の少人数学級実現が必要と感じている。

 単に学級の人数が少なくなったと喜ぶのではなく、次代を担う子供たちの可能性を引き出し、令和の日本型学校教育を構築するために、教員の育成に努め、35人学級を活用していかねばならない。


Profile
こいけ・りゅういち
東京都公立小学校教員を経て、現職は中野区立令和小学校長。現任校は、学校再編により令和2年4月に開校。

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