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【図書案内】施設・設備に関するトラブルの経過・対応を分析――『学校の危機管理ハンドブック』(「学校の危機管理」研究会/編集)

NEW学校マネジメント

2021.06.02

<style> ※画像と本文の内容は一切関係ございません。

 文部科学省は5月25日、宮城県の小学校で防球ネットの木製支柱が折れて小学6年生の児童が死亡した事故を受け、倒壊や落下の恐れがある学校設備を総点検するよう全国の教育委員会に通知しました(「学校環境における工作物及び機器等の安全点検について」3施施企第4号)。

 法令出版社(株)ぎょうせいでは、加除式図書学校の危機管理ハンドブック』(「学校の危機管理」研究会/編集)を刊行しています。本書は、どこの学校でも起こりうるトラブルをもとに、対応の視点を様々な角度から考察するものです。第2部「事例からみる学校の危機管理」の「施設・設備」では、「子どもが体育館倉庫に上ったところ屋根が崩れてけが」「子どもがプールで吸い込み口に足を取られて溺れた」「屋上の天窓から生徒が転落」「子どもがぶら下がったサッカーゴールが倒れて死亡した」などの事例解説のほか、フローチャートも参考になります。ここでは、特に「子どもが体育館倉庫に上ったところ屋根が崩れてけが」を抜粋し、ご紹介いたします。(編集部)

子どもが体育館倉庫に上ったところ屋根が崩れてけが。

(『学校の危機管理ハンドブック』1442-1445頁)

【トラブルのあらまし】

 6月のある日の午後,運動会の練習のため2年生全員が校庭に出て学年種目の練習を行っていた。練習の前半が終わり,15分間の休憩となり,学年の教師たちが校庭の一角に集まり後半の練習内容の検討をしている最中,A組の女子学級委員が,「先生大変です。屋根が崩れて……」とかけ寄ってきた。教師たちが急いで体育館倉庫にかけつけてみると,生徒たちが倉庫を取り囲むとともに,数名の生徒が屋根の上から「大丈夫か? しっかりしろよ!!」と声をかけていた。「あぶないぞ!! 君たちは降りなさい」と教師たちが声をかけ,屋根の上にいた生徒を降ろした後,屋根に上って,崩れ落ちたところをのぞき込んで見たところ,2名の男子生徒が落下し,膝をかかえこむような姿勢で倉庫内に横たわっていた。学年主任のB教諭が急いで,倉庫扉を開け,「サッサッと出て来い」「とんでもないことをして」と声を荒げ生徒に話しかけた。2名の生徒の顔色は蒼白で,汗をにじませて苦痛に耐えているようだったので,B教諭もあわててそばにいたC教諭に救急車の出動を依頼した。

 事故の翌朝,入院した2名の保護者が来校し,校長に怒りをぶちまけた。

【トラブルの経過・対応】

■保護者の怒り

 2人の保護者の怒りは,次のような点であった。

 ① 転落直後のB学年主任の言動について。普通ならば,「大丈夫か?」「すぐ処置してやるから安心し
   ろ」と言うのではないか。それを「サッサッと出て来い」と声を荒げるとは……。
 ② 救急車が到着するまでに随分と時間がかかったとか。また,その間,校庭の片隅に横にされたまま
   で,何の応急処置もなされていなかったということ。
 ③ 生徒たちの間では,体育館倉庫の屋根は腐食していて危険だ,と知れわたっていたみたいだが,学
   校側は状況を把握せず放置していたと聞いていること。
 ④ 先生たちは,息子たちが悪ふざけをして屋根の上に上がったように説明したが,他の生徒たちから
   聞くと様子が違うと思われること。

 校長は,事故があって生徒が入院したことについては,出張先への電話連絡で知っていたが,対応の様子や状況の詳細については十分知らなかった。2人の保護者は,「校長というのは学校の最高責任者であるはず。その校長が状況を十分把握していないというのはおかしいのでは……」と怒鳴り始めた。

 校長はすぐに教頭とB学年主任を呼び,保護者の怒りを伝えるとともに,事故状況についての確認を求めた。

■教頭やB学年主任からの説明

 学年主任からは,次のような説明がなされた。

 ① 転落生徒を発見したときの言葉については,保護者の言う通り配慮が足りなかった。怪我がひどい
   とは思わなかったので……。日頃の生徒との人間関係の中で温か味が欠けていたと反省しているこ
   と。
 ② 生徒の顔面が蒼白となっていたので,変に動かしてはいけないと思い,すぐそばで寝かせるように
   してしまった。また,当日,養護教諭が不在で保健室も閉鎖されていて十分な対応ができなかった
   こと。
 ③ 自分はすぐ救急車を,と連絡したが,連絡を受けた教員が,数箇所の病院に連絡をとってから消防
   署に連絡したことと,他でも事故があったとかで,最寄りの救急隊が出動していて,他地域からの
   救急隊であったこと。
 ④ 屋根に上がった事についても,我々教師側に先入観のようなものがあって,きっとふざけて上った
   んだろうと思っていた。今朝,女子テニス部員から,部活動で倉庫の屋根に打ち上げてしまったボ
   ールを取ってあげると言って上がっていったことを聞かされ,我々の不明を恥じていること。

 教頭からは,施設管理の問題について,

 ① 体育館倉庫の屋根の腐食がひどいので,教育委員会に連絡し,修理を依頼しているがまだなされて
   いないこと。
 ② 体育館倉庫が職員室等の棟から死角になっているため,生徒が屋根に上っているなどの行為につい
   て十分把握していなかったこと。

■学校としての謝罪と対応

 校長より2人の保護者に,改めて今回の学校側の対応の不備を謝罪した後,今後の対応について次のような説明がなされた。

 ① 今後,先入観や予断でもって生徒と接しない。生徒理解に基づく指導をするために具体的にどうす
   べきか早急に職員会議で論議をする。
 ② 緊急事故発生時の対応について,教職員間でもう一度,再確認すること。また,救急病院リストや
   保護者への緊急連絡方法等についても点検し,不十分な点は補うこと。
 ③ 保健室の機能が活かせるよう,養護教諭と相談し,迷惑をかけないよう努力すること。
 ④ 施設修理については,今回の件を教育委員会に報告し,早急に対処してもらうこと。
 ⑤ 生徒の安全にかかわることで,問題や危険が予想できたときは,全校集会や毎日の学級活動などで
   生徒にもきちんと伝え,安全指導を徹底すること。

■解決のきざし

 入院している生徒の様子を,校長をはじめとして,B学年主任ら学年所属教員が交代で見舞ったことや,級友たちが交代で欠席中の授業ノートをとり,それを届けたりしたこともあり,2人の保護者からも学校側の姿勢を見直す様子が見られるようになった。また,PTA会長が,2人の保護者に,学校側が校長を先頭に事故防止の対応について具体的に努力している様子を伝えたこともよい兆しにつながったといえる。

●危機管理の目● ピンチにあるのは誰か

①最高責任者としての校長の状況把握に問題が
 学校の最高責任者であるはずの校長が状況把握に十分でないと責められるのは,残念ながらよくあることだろう。報告・連絡・相談のいわゆる「ほうれんそう」の重要性は,事あるごとに言われるが,生産性原理から遠いところにあり,費用対効果的発想からも遠いところにある教育現場においては,十全を期することが難しい。しかし,保護者から預かっている子どもたちにけががあり,万が一にも学校の施設の不備に原因すると疑われる場合であれば,報告を受け次第,状況把握に努めるであろうし,入院した段階でも,保護者との間で何らかの接触が図られるであろうから,事故の翌日,保護者の来校によって緊急の対応を開始するなどということはあり得ない。

②子どもたち・保護者の信頼と学校の教育力
 思わぬ事故に遭遇した時,驚きとともに相手を責めてしまうこともよくあることだが,「今,一番ピンチにあるのは誰なのか!」と考えて対応することが肝要である。先ず,助けることである。

 また,教育の現場にあっては,教師集団の一挙手一投足が常に評価される結果になるのも避けがたい。まさにその時が勝負なのである。けがをした仲間がどのように扱われたか,それは,その学校の子どもたちにとって,決して他人事でない問題であるだろうことを忘れてはならない。子どもたちにとっても他の保護者たちにとっても,明日はわが身と思えることは想像に難くない。子どもの生命・身体・心を大切に思うことは,教育に関わる私達にとり決しておろそかにできないものではないだろうか。施設管理上の問題は何とも言い訳のしようもない。起こり得ることだけに万全の配慮をしたい。

 

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