トラブルの芽を摘む管理職の直覚
トラブルの芽を摘む管理職の直覚 [第9回] 「思わず手が出そうになった…」
学校マネジメント
2019.10.04
トラブルの芽を摘む管理職の直覚
[第9回] 「思わず手が出そうになった…」
大阪市立堀江小学校長
中山大嘉俊
「思わず手が出そうになった…」
「また、あの子たちが外へ出ました!」学年主任でもある担任からSOSの内線です。校庭へ出ると小1の子供が2人、泥で遊んでいます。「学級がうまく機能しない状況」(以後、学級崩壊)は90年代に問題化し、その後「小1プロブレム」を加えながら、現在に到るまでみられます。新任に限らず、ベテランが受け持つクラスでも学級崩壊は起こります。そうなる前に、兆候を見逃さずに早期対応を心掛けます。
担任でなくとも分かる「荒れ」の兆候
子供が廊下を走る、移動時に騒がしいなど、担任でなくとも分かる次のような状況があれば、その学級はもちろんのこと全校で取り組みます。
●「荒れ」の兆候と対応
•教室内に子供の持ち物やゴミ、廊下に雑巾が落ちている。
⇒「割れ窓理論」を意識して「気持ちがいい教室」にし“汚しにくい環境”を徹底する。
•落書き、落書きに悪口が加わる。物隠し、掲示物が破られる。
⇒“犯人”は見つからないことが多い。いじめの可能性や不満を溜めた子供がいる事実を受け止め、学級・全校指導の内容や教室移動時の施錠などの具体的な対応を決める。
•挨拶が返ってこない、チャイムが守られない。
⇒教職員が率先して範を示し、状況が改善・定着するまで指導を継続する。児童会も含め子供に考えさせ取り組ませる。
外からは分かりにくい授業中の様子
授業がなかなか始まらない、私語が多い、誰も挙手しないなど「荒れ」につながる次のような授業中の様子は、担任以外には分かりにくいものです。しかし、全校朝会で子供が並んでいる様子からでも推測できます。要は「見ようとしているか」です。
気になることがあれば、時間帯を変えた巡回、担任や学年の教員だけでなく、専科やインクルーシブ担当、保健室、そして、PTA等からも幅広く情報を集めます。
●授業中の危険信号
•指示を聞き流す。
•大きな声で叱っても効き目がない。
•注意してもニヤける。
•反抗する。
•私語でざわつく。
•トイレや保健室に行く子供が多い。等
厳しさと弱さ
学級崩壊は、色々な要因が絡み合って起きます。社会の変化といったマクロの要因はさておき、ミクロの要因として、低学年では、環境の変化への不適合や「かまって」という心理、高学年では、勉強へのストレスや大人の正論に対する反発が大きいといわれています。また、学年を問わず、障がいのある児童への理解不足から「あの子だけ特別扱い」などの不公平感が引き金になったケースが多いことや、悪いのは皆自分以外という「他罰(責)型」の児童の増加によるケースも看過できません。
しかし、いちばんの要因は教員です。学級崩壊の事例の7割は「教員に学級経営の柔軟性がない」という報告があります。担任に譲れない「何か」がある場合には、その一線を越えた子供に「厳しすぎる」言葉や態度で指導しがちです。叱る理由を子供に納得させる必要があるのですが、担任は「当然の指導」で「子供は分かっているはず」と頭ごなしになりやすいのが問題です。反抗的な態度につい手が出そうになり、廊下へ出て気分を鎮めたという教員もいます。体罰で学級崩壊は止められないだけでなく、築いた全てが灰燼に帰します。自己コントロールができたのは幸いでした。
一方で、子供がルールを破っても見逃す、その都度言うことが変わるなど、担任の指導が弱い場合は、個々の子供の身勝手な言動で統制がとれなくなります。教員の指導が強すぎる場合もその逆も、往々にして何かすればするほどストレスを生じ子供との関係がさらに悪化するという悪循環に陥ります。
回復の手立て
①まず聞く
…いちばんにすべきは、状況把握です。学級崩壊もいじめの構造と似て、コアには担任に不満をもつ子供、その周りには自ら手を下さないが時に火に油を注ぐ「観衆」、ただ見ている「傍観者」の子供がいます。コアにいる子供が、自分の言い分を「ちゃんと聞いてくれた」と感じるまで、耳を傾けることが基本です。
②子供観や指導観を転換する
…子供の実態に沿って、例えば、グループ学習を多くして子供同士の関わりを増やす、席の並び方を班や馬蹄形に変える、「よいとこ発表」をするなど、子供に見えるように授業や学級づくりに変化を加えます。なお、プリントなどの「作業」の比率を上げて無理なストレスが生じないようにするのも一方法です。
③急ぎ支援体制を整備する
…管理職が教職員間の情報共有を促進し、全員による立て直しをリードします。学年合同授業や教科等の交換授業、ティーム・ティーチングの拡大、「支援員」の活用や複数担任制の導入など、担任以外の人員が関わることで担任と子供だけで煮詰まっている状況を緩和します。
④保護者に知らせる
…関係の保護者だけでなく全保護者に知らせないままいると、噂が拡散する、特定の保護者との関係が悪化するといった可能性が大きくなっていきます。どの時点で全保護者に知らせるかは難しいですが、学級での子供の様子を積極的に知らせて協力を求める必要があります。
学級崩壊に特効薬はなく、労力は「荒れ」の予防に使う方が小さくてすみます。教員に心身のゆとりがないと「荒れ」につながるのでリフレッシュも大切です。また、子供の変化に対応するため、自身の子供観を変えないといけない時期にきているかもしれません。
Profile
大阪市立堀江小学校長
中山大嘉俊
なかやま・たかとし 大阪市立小学校に40年間勤務。教頭、総括指導主事等を経て校長に。首席指導主事を挟み現任校は3校目。幼稚園長兼務。大阪教育大学連合教職大学院修了。スクールリーダー研究会所属。