麹中流の授業改革と指導改善 工藤勇一(東京都千代田区立麹町中学校長)
トピック教育課題
2019.09.30
キー・コンピテンシーをベースに授業改革
中学校の学びは、可能な限り実社会と近いところで獲得していくべきものだと考えます。
その際に教師にとって重要となるのが、生徒自身がどのような能力を獲得したかを言語化し価値付けできることです。
そのために麹町中学校が拠り所としたのが、OECDが示したキー・コンピテンシーです。大きく①自立的に行動する能力、②異質な集団で交流する能力、③社会・文化的、技術的ツールを相互作用的に活用する能力の三つに分類されています。
ここではそのうちの一つ、③のコンピテンシーに注目してみましょう。
簡単に言えば、知識や技能を活用する能力のことを言っているのですが、特に「相互作用的に」という部分を価値付けられるかが重要です。実社会では、学んだ知識や技能を、人と人、人と社会の中で双方向に活用してこそ、初めて価値が生まれます。
例えば、古文が大好きでそれを学ぶことに熱中している生徒を仮に「古文オタク」と呼ぶことにして、「古文オタク」「歴史オタク」、「鉄道オタク」「ゲームオタク」「アニメオタク」といった生徒を思い浮かべてみましょう。
「古文オタク」や「歴史オタク」はもともと教科のカリキュラムの延長線上ですから、多少熱中し過ぎても、まず親に叱られることはないかもしれませんが、それ以外の例については、つい度が過ぎるとお目玉を食らうことになりそうです。
しかし、③のコンピテンシーに照らし合わせて考えれば、どの「オタク」も大した違いはないのではないでしょうか。自分の世界だけで学びを楽しんでいるのであれば、実社会の中では価値は生まれません。価値が生まれるのは、学んだものを自分以外の誰か、もしくは社会自体に発信する瞬間です。「ゲームオタク」君が自分の編み出したゲームの攻略法を誰かに発信した途端、学びは価値を生みます。そして、フィードバックをもらうことで学びは深まり、変化していきます。世界の様々な人とつながり、意見を交換させていく中で、その世界にイノベーションが起きることもあるでしょう。
もちろん、現在の学校教育は学習指導要領がベースですが、より大事なことは、このように実社会で使える学びのスタイルをどのように学校で実現していけるかだと感じています。
脳科学を活用して教育環境や指導方法を改善
脳科学、特に神経科学は近年、急激に進歩しています。人間の様々な営みが神経細胞レベルで解明されつつあります。例を挙げれば、人間のモチベーションを高めるためには、失敗しても大丈夫という安心安全な環境づくりが欠かせないことが判っています。
本年度、本校では脳科学者を招き、脳科学をエビデンスとした指導方法の研究にも取り組んでいます。現在、全教員でそれぞれの困り感のある事例を出し合い、そのときに行っている一般的な指導方法について、脳科学の理論を用いて吟味していることです。すでに発達にとって適切とは言えない指導方法が山ほどありそうなことが分かってきました。
さらに研究を進めることにより、教師の日常の生徒指導や学習指導の改善につなげていきたいと思っています。(談)
東京都千代田区立麹町中学校長
工藤勇一
Profile
くどう・ゆういち 新宿区教委教育指導課長を経て、2014年4月より現職。学校のソフト・ハード両面から「社会とシームレスな教育環境」の整備を目標に学校改革を進めている。