講座 単元を創る

齊藤一弥

講座 単元を創る[第3回]単元を創る出発点

授業づくりと評価

2019.09.30

講座 単元を創る
[第3回]単元を創る出発点

島根県立大学教授
高知県教育委員会事務局学力向上総括専門官
齊藤一弥

『学校教育・実践ライブラリ』Vol.3 2019年7月

■summary■
学習指導要領の読み込み、子供の見方・考え方の成長を基盤に据えて、何をどのように教えたらよいのかを明確にした上で、教科書という良質の参考書を有効に活かしながら、単元を描くことが教師にとって大切な仕事である。

単元は「ある」のか、「創る」のか

 かつて経験の浅い教師に「単元をどのように創っているのか」と問い掛けた際に、「教科書どおりです」と即答され、逆に「単元は創るものなのですか」と問い返されることが多々あった。教科書が示すように「単元はある」のが当たり前であって、教師が「単元を創る」といった発想はないというのだ。もちろん、教科書に示された単元の多くは、先輩教師たちが丁寧に実践された履歴としての結果であり、どの学級でも実践し易いように磨き上げられたものである。そこには学習指導要領と目の前の子供の育ちを踏まえた先達の知恵と工夫が詰まっているのだから、先のように躊躇せず答えるのはある意味当然なことであり、改めて教科書に示された単元の存在の大きさを確認することになる。

 しかし、本来単元とは、各学校の教育課程に基づき教師一人一人が学習指導要領に示された内容を適切に解釈し、その主旨の内容理解をした上で、目の前の子供の興味・関心等によって、最適な形で描かねばならない。教科書という良質の参考書を有効に活かしながら、単元を創ることは教師にとって大切な仕事なのである。

単元づくりのスタートライン 学習指導要領の読み方

 では、単元を創るためには、どのような手続きを踏まえていけばよいのだろうか。まずは、学習指導要領および解説書の解釈である。これによって教科等指導の基本を確認することから始めたい。

 例えば、中学校の理科に「身の回りの物質」の性質を探る学習がある。学習指導要領解説理科編の「身の回りの物質」を確認すると、指導内容として物質の性質を形式的に知識として習得するのではなく、身の回りの物質を性質や変化といった定性的な視点に着目しながら問題を見いだし、見通しをもって観察、実験などを行う技能を身に付けるとともに、その性質や状態変化を比較、関連付けながらその規則性を見いだして表現することなどが学習対象となることを読み取ることができる。そこから科学的探究の視点としての科学的な概念(見方)や科学的探究の方法(考え方)が明示されており、子供に教えるべき内容とそれをいかに学ばせるか、それによってどのような力を身に付けるのかを把握することができる。その確認を単元づくりの出発点とすることが大切である。

 また、酸性・アルカリ性の判別、加熱処理した際に摘出される物質の有無、金属などの物質を入れた際の水溶液の状態変化など、小学校での既習の、ものの溶け方の学習での経験や、概念の素地を支えている日常生活の経験などとの関連を意識した指導を心がけることも重要になる。

 このように指導内容の系統と鍛えるべき見方・考え方との関連を確認した上で、子供の学習の連続性を担保していく必要がある。そして、それらを受けて子供にとって価値ある学びを実現するための課題、教材・教具の選定などを既習との関連から検討していくことが大切になる。子供に何ができていて、これから何ができるようになっていくのかという視点から学習指導要領を丁寧に読み解くことが期待されているのである。

 単元づくりに大きく影響するのは教師の実践経験である。教科書の単元に基づく教材解釈と実践によって、教師は単元展開のイメージをより確かなものにしていくとともに、その単元は常に再生産される。教科書で用意された教材や課題場面を繰り返し実践していくうちに、それが単元づくりの土台となり、いつの間にか最適な単元というレッテルを教師自らが貼るようになる。その手続きでは望ましい単元を描くことはできないことは明らかである。目の前の子供に必要とされる学びを描くには、まずは学習指導要領に盛り込まれた教科指導の目的や価値を基盤に据えることが大切になる。

教科書単元との付き合い方

 このような論が展開されると、教科書の教材単元では子供の学びは保障されないのかという疑問が生まれる。教科書の教材単元は一般性が高く、その意味では優等生であって、決して子供にとって不適なものではないはずである。しかし、その一方で、目の前の子供の学習履歴や興味・関心などの全てにおいて一般性ある教材が対応できるかといえば、それは難しいこと、また、教科書教材を提示しても必ずしも学びが深まるとは言い切れないということは教師なら誰もが分かっている。

 「身の回りの物質」の授業場面である。授業者は単元の導入で、教科書に示された「どちらが希塩酸、水酸化ナトリウム水溶液であるかを追究の計画をもとに調べよう」という課題を取り上げた。この課題に対して生徒は手際よく計画どおりに実験・観察を進めて、その結果から物質の性質の判断を行い、全ての班が同様の結果を導き出し、課題に対する解を得たことで授業は終わった。確かに教科書に示された手続きどおりに授業は進められたが、これで学習指導要領に示された内容を実現できたと言えるのであろうか。この授業では、定性的な視点への着眼、結果の既習事項との比較・関連付けや新たな知見の認識といった学習の目的は果たせていないことがわかる。生徒自身が「何を知るため(内容ベイス)」の実験・観察に終わるのではなく、「何ができるようになるため(資質・能力ベイス)」に実験・観察を行うのかということを明確にすることが必要であり、それによって学習の基盤となる理科の見方を磨き、その考え方を鍛えることができるようになるわけである。資質・能力ベイスの単元づくりには、学びのゴールに整合するように科学的探究の視点を明確にした課題の提示及び問いの設定、また科学的探究を推し進めていく学びの文脈をいかに描くのかを明確にすることが大切なのである。

 学習指導要領の読み込み、子供の見方・考え方の成長を基盤に据えて、何をどのように教えたらよいのかを考えることで、洗練された教科書の教材単元のよさを活かしながら、資質・能力ベイスの単元を創る力が求められている。

[参考文献]
・齊藤一弥・高知県教育委員会編著『新教育課程を活かす能力ベイスの授業づくり』ぎょうせい、2019年

 

Profile
島根県立大学教授
高知県教育委員会事務局学力向上総括専門官
齊藤一弥
さいとう・かずや 横浜国立大学大学院修了。横浜市教育委員会首席指導主事、指導部指導主事室長、横浜市立小学校長を経て、29年度より高知県教育委員会事務局学力向上総括専門官、30年10月より現職。文部科学省中央教育審議会教育課程部会算数・数学ワーキンググループ委員。近著に『新教育課程を活かす能力ベイスの授業づくり』。

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島根県立大学人間文化学部教授

横浜国立大学大学院修了。横浜市教育委員会首席指導主事、指導部指導主事室長、横浜市立小学校長を経て、29年度より高知県教育委員会事務局学力向上総括専門官、30年10月より現職。文部科学省中央教育審議会教育課程部会算数・数学ワーキンググループ委員。近著に『新教育課程を活かす能力ベイスの授業づくり』。

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