講座 単元を創る

齊藤一弥

講座 単元を創る[第6回]教科目標を実現する単元

授業づくりと評価

2020.02.03

講座 単元を創る
[6]教科目標を実現する単元

島根県立大学教授
高知県教育委員会事務局学力向上総括専門官
齊藤一弥

『学校教育・実践ライブラリ』Vol.6 2019年10月

■summary■
資質・能力ベイスのこれからの教育課程には、教科目標の柱書に示された授業づくりに欠かせない「見方・考え方」「言語活動」「資質・能力」という3つの視点を、その関連を明確にしながら単元のまとまりに位置付けていくことが求められている。

新教育課程の単元のまとまりをいかにイメージするか

 教育課程の作成に当たっては、学校の創意工夫を生かしながら、全体として調和のとれた具体的な単元を作成することが大切である。特に、新しい教育課程においては、単元のまとまりを見通しながら、そのまとめ方やそれに盛り込む内容を見直すことで、主体的・対話的で深い学びの実現を目指すことが期待されている。つまり、授業改善を通して資質・能力を育む効果的な指導ができるような単元のまとまりを描くことが必要になる。

 これまでの内容ベイスの教育課程に位置付けられていた目標、指導内容、学習活動例といったものに加えて、教科目標の柱書に示された主旨を反映させるために、

○ 身に付けた知識及び技能を活用したり、思考力、判断力、表現力等や学びに向かう力、人間性等を発揮したりする子供の姿【身に付ける資質・能力】

○ 単元を通して教科等の特質に応じた見方・考え方が鍛えられていく過程【見方・考え方を働かせる子供の姿】

○ 子どもが見方・考え方を働かせながら、知識を相互に関連付けてより深く理解したり、情報を精査して考えを形成したり、問題を見いだし解決策を考えたり、思いや考えを基に創造したりするといった学習過程【教科の深い学びを実現する学習過程】

などを明示されることが期待されている。

新しい単元のまとまりとは 小学校国語科を通して考える

 小学校国語科の教科目標の柱書には、

①言葉による見方・考え方を働かせ、

②言語活動を通して、

③国語で正確に理解し適切に表現する資質・能力を育成する

と3つの視点から示されている。

 資質・能力の育成に向けて主体的・対話的で深い学びの実現を図ることが大切であり、それには子供が言葉による見方・考え方を働かせながら言語活動に関わることが不可欠なことがわかる。

 高知県高知市立潮江東小学校は、資質・能力の育成を図る言語活動の充実に向けた単元開発に取り組んでいる学校であり、子供が言葉による見方・考え方を働かせながら学びを充実させていく授業づくりの具体を研究している。

 図1は、新教育課程における言語活動「討論会をしよう【話すこと・聞くこと】」の単元づくりに対する考え方である。従来の単元では、まずは「話すこと」「聞くこと」の基礎・基本を確認してから、それを活用して自らの主張を明らかにした上で討論するといった展開であった、しかし、新しい単元においては、子供が討論の目的や必要性を自覚し、学習課題を明確にした上で、その解決に向けて見方・考え方を働かせ学びを深め、その結果として討論を充実させていく過程を大切にしている。これまでの単元づくりのスタンスを大きく転換していることがわかる。

 図2は、その単元デザインの具体である。これまでの研究実践を踏まえて、4つの視点から単元が描かれている。

 最上段が「身に付ける三つの柱の資質・能力」とその評価方法である。国語の指導事項として位置付けることによって本学習が目指すゴールが明確になる。

 二段目が「言語活動」である。指導事項をどのような活動によって獲得させていくかが検討される。この2つからは、「言語活動」というトラックが正しい目的地に向かって、「指導事項」という適切な荷物を積んで進んでいくという関係を確認することができる。

 三段目が単位時間等に行われる学習活動である。「言語活動」で示された学習ゴールに向けて、質の高い言語活動を支える日々の学習の具体が示されている。

 そして、四段目がそれぞれの学習活動における「言葉の見方・考え方を働かせる子供の姿」である。深い学びを自ら獲得していくために、子供はどのように見方・考え方を働かせているのかをイメージできるようにしている。

 教科目標の柱書に示された授業づくりに欠かせない「見方・考え方」「言語活動」「資質・能力」という3つの視点を、その関連を明確にしながら単元のまとまりに位置付けていくという試みである。目標を実践に繋げていくことは案外難しい。しかし、この壁を越えていくことが資質・能力ベイスの授業づくりには欠かせない。

単元レベルで授業研究を進める

 同校の授業研究では単元づくりそのものを分析対象としている。授業研究においては、

○ 現実の社会でも問題解決ができるような実践的な単元づくりになっていたか

○ 言語活動が見方・考え方を働かせながら学びを深めるだけの価値を有していたか

など、単元レベルで授業分析を行っている。内容ベイスの授業分析においては単位時間という「点」での分析で十分であったものが、能力ベイスになると単元のまとまりなど「線」や「面」での分析を必要としていることがわかる。このことからも単元から丁寧に創り描くことが授業づくりの基本になることが再確認できる。

 

Profile
島根県立大学教授
高知県教育委員会事務局学力向上総括専門官
齊藤一弥
さいとう・かずや

横浜国立大学大学院修了。横浜市教育委員会首席指導主事、指導部指導主事室長、横浜市立小学校長を経て、29年度より高知県教育委員会事務局学力向上総括専門官、30年10月より現職。文部科学省中央教育審議会教育課程部会算数・数学ワーキンググループ委員。近著に『新教育課程を活かす能力ベイスの授業づくり』。

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島根県立大学人間文化学部教授

横浜国立大学大学院修了。横浜市教育委員会首席指導主事、指導部指導主事室長、横浜市立小学校長を経て、29年度より高知県教育委員会事務局学力向上総括専門官、30年10月より現職。文部科学省中央教育審議会教育課程部会算数・数学ワーキンググループ委員。近著に『新教育課程を活かす能力ベイスの授業づくり』。

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