田村 学の新課程往来

田村学

田村 学の新課程往来[第7回]カリキュラムをデザインすること

授業づくりと評価

2020.02.03

田村 学の新課程往来
[7]カリキュラムをデザインすること

國學院大學教授
田村 学

『学校教育・実践ライブラリ』Vol.7 2019年11月

 新しく使用する教科書の採択が確定したころかと思います。学習指導要領が改訂され、文部科学省から各教科等の解説が示され、説明会やセミナーに参加していても、「なんとなくピンとこないなあ」と思っていた方もいるのではないかと思います。そんな方も、新しい教科書を目の前にし、「この教科書で授業をするのか」などと考え始めると、全面的に実施する学習指導要領が、かなり身に迫ったリアルなものとして感じられてくるのではないでしょうか。

 さらには、そうした教科書に応じた年間指導計画や単元計画の作成業務が始まると、その思いは、一層はっきりしてくるものと思います。今現在、各学校やそれぞれの地域では、新しい教科書に対応したカリキュラムをデザインする作業が始まろうとしているのではないかと思います。このカリキュラムをデザインすることこそが、今回改訂のキーワードであるカリキュラム・マネジメントの中核と考えるべきではないかと思っています。

カリキュラムのデザインから始めよう

 実際の社会で活用できる資質・能力を育成する「主体的・対話的で深い学び」を実現するには、単位時間がどのような単元に位置付いているかを抜きにして考えることは到底できません。また、その単元は、どのような年間の位置付けになっているかという年間指導計画を知らずして考えることも難しいはずです。さらには、そうした1時間の授業や単元構成、年間指導計画が、全ての教科等においてどのように配列され構成されているかを俯瞰することなく語ることもできないのではないでしょうか。もちろん、そうしたカリキュラムが、どのような教育目標を受けているかを考えることは当然であり、いかにカリキュラムをデザインしていくかが問われています。そして、そのことが「主体的・対話的で深い学び」を実現することに大きくつながるのです。

 その点から考えるならば、中央教育審議会が示した「カリキュラム・マネジメント」の三つの側面の中でも、以下の一番目のカリキュラムのデザインに注目することが大切になるのではないでしょうか。

① 各教科等の教育内容を相互の関係で捉え、学校教育目標を踏まえた教科等横断的な視点で、その目標の達成に必要な教育の内容を組織的に配列していくこと。

カリキュラムのデザインには三つの階層がある

 カリキュラムをデザインする際には、大きく三つの階層が考えられます。

(1)教育目標を踏まえつなぐグランド・デザイン(全体計画)

(2)全単元を俯瞰し関連付ける単元配列表

(3)学びの文脈を大切にした単元計画

この(1)〜(3)の先に具体的な授業のデザインがあるわけです。

(1)教育目標を踏まえつなぐグランド・デザイン

 まずは、学校の教育活動全体を視野に入れカリキュラムを描くことが必要になります。

 そこでは、子供の実態、学校や地域の特性、保護者や地域の願いなどを明らかにした上で、どのような子供の育成を目指すのかを明らかにし、教育目標を鮮明にする必要があります。多くの学校の教育目標は抽象的であったり、複合的であったりすることが多いです。そこで、各学校が定めている教育目標を具体的で分析的な育成を目指す資質・能力として描き直すことが大切になってきます。

 こうして明らかにした資質・能力の育成に向けて、どのような教育活動を、どのような教育資源を利活用しながら、どのように実施していくのか。そして、それをどのように評価・改善していくのかをグランド・デザイン(全体計画)として明らかにしたいものです。

(2)全単元を俯瞰し関連付ける単元配列

 次に、各教科等で行われる一つ一つの単元が、一年間でどのように実施されるのかを俯瞰する単元配列表を作成することが考えられます。

 一人の子供の学びは、個別の教科内で閉じるものではなく、それぞれの学びが相互に関連付き、つながりあっているはずです。子供は、国語も算数も、音楽も体育も、総合的な学習の時間も学んでいくのです。そうした一人の子供の中で、学んだことがどのように関連付いていくのかを意識する上でも、一年間の全ての単元を配列し、それを俯瞰する単元配列表の作成は極めて重要なカリキュラム・デザインの作業となります。

 例えば、理科の授業で算数の統計に関する学習が有効に働くことは多いのではないでしょうか。国語で学んだ話合いの方法を使って社会問題を議論することも考えられます。総合的な学習の時間には多様なテキスト情報から必要な情報を取り出すことも、様々な方法で情報収集することも、相手や目的に応じて表現することも頻繁に行われるはずです。そうした学びこそが、資質・能力の発揮・活用の場面であり、「深い学び」を実現することになると考えられます。こうした学習の場面では、学び手である子供の主体性も存分に発揮されるものと想像できます。なお、この単元配列表に関しては(株)文溪堂が簡単に作成できるサポート機能を提供してくれています。

(3)学びの文脈を大切にした単元計画

 「主体的・対話的で深い学び」を実現しようとすれば、単位時間の授業のみならず、単元がいかにつながりのある連続したプロセスとして具体化しているかが大切になります。それは、問題解決のプロセスであり、解釈し形成するプロセスであり、構想し創造するプロセスでもあります。子供の学びのプロセスを意識して構成された単元では、学び手の子供は主体的になり、そこでは他者との学び合いも生まれ、学びの連続によって「深い学び」も実現できるはずです。そのためにも、子供の興味・関心と教師の願いとを丁寧に擦り合わせ、そこに生まれる教材や学習対象、学習活動を用意することが欠かせません。

 資質・能力の育成に向けて、新しい教科書を参考にしながら、子供の学ぶ姿を思い浮かべ、カリキュラムをデザインしてみましょう。

 

Profile
國學院大學教授
田村 学
たむら・まなぶ 1962年新潟県生まれ。新潟大学卒業。上越市立大手町小学校、上越教育大学附属小学校で生活科・総合的な学習の時間を実践、カリキュラム研究に取り組む。2005年4月より文部科学省へ転じ生活科・総合的な学習の時間担当の教科調査官、15年より視学官、17年より現職。主著書に『思考ツールの授業』(小学館)、『授業を磨く』(東洋館)、『平成29年改訂小学校教育課程実践講座総合的な学習の時間』(ぎょうせい)など。

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國學院大學教授

1962年新潟県生まれ。新潟大学卒業。上越市立大手町小学校、上越教育大学附属小学校で生活科・総合的な学習の時間を実践、カリキュラム研究に取り組む。2005年4月より文部科学省へ転じ生活科・総合的な学習の時間担当の教科調査官、15年より視学官、17年より現職。主著書に『思考ツールの授業』(小学館)、『授業を磨く』(東洋館)、『平成29年改訂小学校教育課程実践講座総合的な学習の時間』(ぎょうせい)など。

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