絶対満足できる!新しい英語授業

菅正隆

新教育課程実践講座Ⅰ 絶対満足できる!新しい英語授業[第7回]混乱必至!? どう生み出す? 外国語活動・外国語の時間

トピック教育課題

2019.10.30

新教育課程実践講座Ⅰ
絶対満足できる!新しい英語授業

[第7回]混乱必至!?
どう生み出す? 外国語活動・外国語の時間

大阪樟蔭女子大学教授 菅 正隆

『リーダーズ・ライブラリ』Vol.7 2018年10月

1.「総合的な学習の時間」の外部委託と外国語活動・外国語

(1)ねらいは

 9月30日付の読売新聞及び10月1日付の日本経済新聞に掲載された記事に驚嘆された先生方も多いと思われる。

 その内容は、「総合的な学習の時間」の年間総授業時数70時間のうち4分の1程度(18時間程度)までを、校外のNPO団体や公共施設などに委託することができるというものである。しかも、これには教員が引率しなくてもよいという。つまり、丸投げしてもよいということである。これは、一般的には教員の長時間労働を軽減するためや児童生徒に豊かな学びを体験してもらうことをねらいとしているように美辞麗句が並ぶ。本当にそうであろうか。そこには、地域格差があり、全国津々浦々までNPO団体や施設などの質が担保できるのか、安全・安心が担保できるのかなど多くの課題が散見される。これらのことから、私は「総合的な学習の時間」の崩壊が見え始めたと考えている。これは、まさに小学校での学童保育に似ている。各地の小学校では、極力、学童保育とは関わりを持たないようにしている場合が多い。学校は学校、学童は学童との区別がはっきりしている。これと同じようになることは必至である。

(2)本来のねらいは

 しかし、実はこの外部委託の本当のねらいが透けて見えてくる。まず、なぜ18時間なのか。実は現在、新学習指導要領の移行期間中に「総合的な学習の時間」から15時間分を外国語活動・外国語に活用することができることになっており、多くの小学校ではこの時間を利用して外国語活動・外国語の授業を行っている。今後、「総合的な学習の時間」の70時間の4分の1程度である18時間を外国語活動・外国語に充てると考えると、今の15時間に匹敵する適当な割合となることが分かる。

 また、外部に委託する時期は夏休みや週末など、通常の授業日程には含まなくてもよいとされており、この委託を全て授業日以外に設定すると、最大18時間は授業が空き、この時間を外国語活動及び外国語で運用することができる。一見ウルトラCにも見えなくもないが、これが学校現場の混乱にさらに拍車をかけることになる。

 繰り返すが、「総合的な学習の時間」から年間15時間を外国語活動・外国語に使用できるのは2020年3月末までのことである。つまり、18時間がこれに次ぐ第二弾の苦肉の策、綱渡りなのである。

(3)混乱の再構築

この外部委託は、来春から可能となるかもしれないとのことである。移行期間の2年目に当たる来年度は、先の15時間にこの外部委託の18時間を加えると、中学年の外国語活動では合計33時間が運用可能で、ほぼ総時間数(35時間)に匹敵する。また、高学年の外国語でも、既にある35時間とこの33時間を加えると、同じように総時間数(70時間)がほぼ確保できる。つまり、来年度は苦労して学校独自で時間を生み出す必要はないのである。

 しかし、2020年3月末にはこの移行期間に与えられた15時間が消滅する。すると、またまた混乱が生じることは予想できる。いっそのこと、「総合的な学習の時間」の1時間を外国語活動・外国語の1時間にすれば楽なことである。

2.2020年度からの外国語活動・外国語の時間数確保

(1)外国語活動・外国語の時間数確保の苦悩

 ある市(以下A市とする)を訪問したときの話である。A市では、2020年度からの授業時間数について文部科学省がいつになっても方向性を示さないので、業を煮やして自分たちで方向性を示そうと考えた。今の文部科学省では、他教科の時間を外国語活動・外国語に変えることなどできるはずもなく、今後も「総合的な学習の時間」を上手く運用して、学校で生み出してほしいと言ってくるだろうと考えた。まさに、大当たりである。外部委託がそれである。そして、A市では独自のカリキュラムをつくりあげたのである。

(2)時間確保の実態

 A市では、まず中学年の外国語活動の時間数をつくりあげた。それは、中央教育審議会答申にある「中学年においては、年間35単位時間、週当たり1コマ相当の外国語活動を、短時間学習で実施することは困難であり、小学校の教育課程を見通して弾力的な時間割編成を行っていくことが必要である」との文言に懐疑的な意見から始まった。事実、全国指導主事連絡協議会でも、中学年における外国語活動では、短時間学習(モジュール)で実施することの困難さの具体例やデータを示すように文部科学省に要求したが、回答はなかった。しまいには、校長や教育委員会で適宜判断するようにと回答している。これにより、全国各地では、中学年でも短時間学習を取り入れているところが多々見受けられるようになった。A市でも同様である。導入期には、短時間でもよいので、英語に多くの回数触れることが有効であると判断している。短時間といえども、1週間に1回よりは3回触れた方が有効であることは、英語教育に造詣の深い方には当然なことであろう。

 A市での授業時間は、1週目は15分3回の授業を組み立て、基本的な表現や語彙に親しませる時間として、担任が電子黒板を活用したインプットの授業を行っている。2週目には、1コマ45分の授業を確保し、担任とALTとのティーム・ティーチングを基本として、1週目に慣れ親しんだ表現や語彙を使ったコミュニケーション活動・言語活動(アウトプット)を行っている。

3.短時間(15分)学習と45分学習との連携

 ここで、A市のように、1週目を短時間学習(15分×3回)に充て、2週目を45分としている例を、授業案を参考に見ていきたい。

 次図のは、短時間(15分)学習の1回目の指導案である。15分×3回の短時間学習(インプット部分、導入部分)を終えた後に、慣れ親しんだ音声や文字について、活動を通して活用できるように、展開部分を重視した45分の授業を組み立てる()。

●授業を充実させるためのポイント

1.アルファベットの文字の音と形を定着させるために

 アルファベット26文字は、中学年の子供たちにとっては、単なる記号として捉えられている場合が多い。そこで、文字を意味のあるものと認識させ、ある程度の定着を図るには、週1回の外国語活動だけでは効果が期待できない。それよりも、週3回程度の短時間学習で、何度も発音を聞かせ、子供たちが自らも発音しながら文字を見ることで、刷り込ませることができる。そして、その集大成としての2週目の45分は、何度も見聞きした文字を発信する良い機会とする。この連携を上手く行うことで、文字に対する抵抗感を減らし、積極的に文字を受け入れる素地をつくりあげることが可能である。

2.短時間(15分)学習と45分学習との完全無比な関係の継続

 短時間学習をいかに効果的に行い、45分につなげるか。まずは、短時間学習から考えてみる。これを行う場合には、無駄を省くことである。15分はアッという間である。授業開始や終わりの挨拶は無駄である。Good morning.程度で始め、See you.で終わる。振り返りの時間も無駄である。評価も必要ない。それよりも、15分でどれだけ子供たちに音を聞かせ、インプットを図るかである。そのためには、担任が一人でCDや電子黒板、IT機器を活用しながら行った方が効率がよい。

 また、45分の授業では、先の短時間学習で身に付いた表現や語彙を、再度ALTなどと発音を確認させたり、スモールトークを聞かせたりしながら、さらに高みへと子供たちを誘うことである。そして、さまざまな発信の状況をつくりあげ、達成感を感じさせるような活動を組み立てることである。

 

Profile
大阪樟蔭女子大学教授
菅 正隆
かん・まさたか 岩手県北上市生まれ。大阪府立高校教諭、大阪府教育委員会指導主事、大阪府教育センター主任指導主事、文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官並びに国立教育政策研究所教育課程研究センター教育課程調査官を経て現職。調査官時代には小学校外国語活動の導入、学習指導要領作成等を行う。

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大阪樟蔭女子大学教授

岩手県北上市生まれ。大阪府立高校教諭、大阪府教育委員会指導主事、大阪府教育センター主任指導主事、文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官並びに国立教育政策研究所教育課程研究センター教育課程調査官を経て現職。調査官時代には小学校外国語活動の導入、学習指導要領作成等を行う。

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