学校教育・実践ライブラリ Vol.7特集 「主体的・対話的で深い学び」に必要な学習ツールの活用―子供たちの思考力・判断力・表現力を活性化する方法
授業づくりと評価
2019.10.29
「主体的・対話的で深い学び」に必要な学習ツールの活用―子供たちの思考力・判断力・表現力を活性化する方法 田中博之 早稲田大学教職大学院教授
新学習指導要領が求めるこれからの授業の在り方が、「主体的・対話的で深い学び」という日本式アクティブ・ラーニングになった。主要なOECD加盟国と比較して、日本の学校ではまだ、教師による発問と板書を主とした一斉授業が多すぎることを改善したいからである。一斉授業では、知識・技能の習得は効率的に行えるが、それらを活用した課題解決的な学習による思考力・判断力・表現力の育成は十分にできない。
そこでこれからの授業づくりでは、子供たちの学習の基盤となる資質・能力として思考力・判断力・表現力の一層の向上が期待されているため、子供たちが身に付けるべき資質・能力を可視化し、創意工夫をしながら思考・判断・表現をするための知的な道具が不可欠になる。
それが、筆者が「学習ツール」と呼ぶ、思考・判断・表現のための多様な知的ツールである。その特徴と授業での活用方法を紹介しよう。
学習ツールとは何か
「学習ツール」とは、子供たちの思考・判断・表現を助ける道具のことである。「主体的・対話的で深い学び」は、課題や問いを子供たちがつくったり、協働的な学びを通して子供たちが主体的に資料や情報を集め加工して表現したり、情報の要約・整理・構造化・関連付けのために思考したり、物事の正誤や真偽、善悪を自己判断したり、さらに自分の言葉で考えて自己表現したりする学習であることから、それらを支え活性化する学習ツールの充実が不可欠になる。
汎用的な学習ツールには、イメージマップやロジックツリーなどの思考ツール、レーダーチャートなどの分析・診断ツール、ホワイトボード・付箋紙・アイテムカードなどの操作ツール、それらをデジタル化したタブレットなどのICTツール、はがき新聞などの表現ツールなど多様なものがあり、それらを子供たちの課題解決的な学習を通して組み合わせながら、タイミングよく活用していくようにすることが大切である。
より教科の特質に応じた固有の学習ツールとしては、道徳科での子供たちの善悪の判断を促す「真心カード」や「心の関係図」「心のビンゴカード」といった判断ツールが開発されている。
思考ツールとしてのイメージマップ(ウェビング)
まず、イメージマップやウェビングと呼ばれる思考ツールを紹介しよう。イメージマップは、「自分の頭の中にある雑多なイメージやアイデア、知識や概念、そして体験のエピソードや感覚の記憶などをネットワーク状に整理するために描く図」のことである。その中心に一つのキーワードや絵・図を描いて、そこから連想される用語や単文をより詳しく放射状に書き続けていくことで、自分の記憶やアイデア、そして知識構造や体験の意味付けなどを整理したり深めたりすることができるようになる。
学校では、国語科の物語文や説明文から読み取ったことを整理させたり、物語や説明文の創作表現の設計図を描かせたり、生活科や理科、社会科で観察したことやインタビューしたことをまとめさせるときに使えば、より構造的な内容理解につなげたり、分かりやすくおもしろい内容をもつ創造的表現を生み出すことができるようになる。
イメージマップの学習効果は次の4点で捉えられる。
一つ目の効果は、自分の頭の中に雑多に入っている知識や情報、そしてアイデアを整理することができるようになること。
二つ目の効果として、人に対して分かりやすい話をしたり、分かりやすい文章を書いたりすることができるようになること。多くのユニークな発想が生まれやすくなり、子供たちの創造性を養うことにもつながっていく。
三つ目の効果は、カルタ(イメージマップやウェビング図)の中の枝(リンク)をどんどん伸ばしていくことによって、考えを深めたりより詳しく考えたり、必要であればすべての場合を尽くして考えたりする習慣を身に付けることができるようになること。
四つ目の効果は、カルタをあるトピックについて学習する前半と後半とに2回描かせて、その変容を捉えさせることによって、自己の認識の深まりや広がりに気付かせることができること。そうすると、子供は自分の認識レベルでの成長が視覚的に分かりやすくなるので、学習の充実感や達成感を味わいやすくなるのである。そのためには、1回目に描いたカルタのうえに、2回目には色を変えて新しく気付いたり考えたりした言葉やリンクを書き足していくとよい。
このように、イメージマップは言語を用いた子どもの思考力や創造性を高めるために有効な学習ツールの一つである。