教職 その働き方を考える

高野敬三

教職 その働き方を考える[第3回]これからの授業の在り方と校務改善

トピック教育課題

2019.09.27

教職 その働き方を考える
[第3回]これからの授業の在り方と校務改善

明海大学副学長 高野敬三

『リーダーズ・ライブラリ』 Vol.3 2018年7月

●本稿のめあて●
今回は、教師が行う授業の定義とともに、新学習指導要領で求められている授業改善について詳解する。これからの時代に生きる子供たちの資質・能力を伸ばすためには、教師の不断の授業改善が求められることと、それを可能たらしめるものは、管理職の校務改善の努力であることを説明する。

 

 「教師は授業で勝負する」

 これは、群馬県出身の教育者で優れた教育実践を行った斎藤喜博氏の有名なことばです。学校に務める教師の仕事については、きわめてその範囲が広いと前号では紹介しましたが、やはり授業が教師の命です。「無限の可能性」「授業の創造」「ゆさぶり」「教材解釈」なども、氏の創作したことばですが、プロフェッショナルな職人としての氏の授業観は現在でも通用するものです。

授業とは

 教師サイドから言えば、授業とは、ある教科の教材を媒体にして子供たちに学ぶべきことを伝達していく過程であり、それは教授過程です。子供たちサイドから言えば、授業とは、教材で伝達されたことを習得していく過程、つまり、学習過程です。つまり、授業とは、教授過程=学習過程として教師が組織することに他なりません。一方的な知識注入方式で、教師が教材を子供たちに伝授し、子供たちがそれをひたすら受け入れていくことは、学習過程が存在せず授業とは言えません。逆に、子供の自発性を尊重するあまり、子供たちに授業の進行を任せ、教師が必要なことがらを伝達しないことは、教授過程が存在せず、これまた、授業とは言えません。至極当たり前なのですが、授業とは、教授過程と学習過程が一体的に行われるものです。

 一単位時間の授業(教授過程と学習過程)の計画を立てるに当たって重要なことは、教材研究です。教材研究では、教師は、あらかじめ立てた授業の目標を基に教材を選定して、その教材をどのように教えるかなどを含めて、授業の構想を練ることとなります。そして、一単位時間(小学校は45分間、中学・高校は50分間)を「導入」「展開」と「整理」の三段階で意図的・計画的に構成して、教授過程の段取りや子供の学習過程が整合性のとれたものとなるように指導案を作成します。すべての教師は、一単位時間の授業前に、こうしたプロセスを構想しているのです。このような準備をして初めて、教師は授業で勝負するのです。

これからの授業の在り方

(1)「主体的・対話的で深い学び」の視点からの授業改善

 平成28年12月の中央教育審議会答申では、新しい時代に必要となる資質・能力の育成と学習評価の充実の中で、学習指導要領改訂の方向性として、どの校種にも共通して、子供たちに求められる資質・能力を三つ示しています。それらは、第一に、何を理解しているか(生きて働く「知識・技能」の習得)、第二に、理解していることをどう使うか(未知の状況にも対応できる「思考力・判断力・表現力等」の育成)、そして第三に、どのように社会と関わり、よりよい人生を送るか(学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力・人間性等」の涵養)です。これらは、新たな、学力の三要素とも呼ばれています。

 このような「子供たちに求められる資質・能力」、つまり、「何ができるようになるか」は、これまでも学習指導要領改訂のたびに示されてきましたが、今回の改訂で特筆しなければならないのは、このことに加えて、子供たちが「どのように学ぶか」が初めて示されたことです。「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニングの視点)と言われているものです。つまり、子供たちの学習過程の改善が求められているのです。裏を返せば、こうした学習過程が子供たちに保証された授業を教師が行わなければならないということです。

・主体的な学びとは、学習した後で自らの学びの成果や過程を振り返ることで、次の学習に主体的に取り組む態度を育む学びです。

・対話的な学びとは、他者との協働などを通して、自らの考えを広げ深める学びです。

・深い学びとは、教科等の特質に応じて育まれる見方・考え方を働かせて学習内容の深い理解につなげる学びです。

 教師は、常日頃から、授業において、子供たちが「何ができるようになるか」、つまり、学習のめあてを明確にして、「何を学ぶか」という学習内容と、子供たちが「どのように学ぶか」という学習の過程を組み立てることが求められています。

(2)「ICT等教育機器活用」の視点からの授業改善

 新学習指導要領においては、情報活用能力が、言語能力、問題発見・解決能力等と同様に「学習の基盤となる資質・能力」と位置付けられ、「各学校において、コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を活用するために必要な環境を整え、これらを適切に活用した学習活動の充実を図る」ことが明記されるとともに、小学校においては、プログラミング教育が必修化されるなど、今後の学習活動において、積極的にICTを活用することが想定されています。このため、文部科学省では、新学習指導要領の実施を見据え「2018年度以降の学校におけるICT環境の整備方針」を取りまとめるとともに、当該整備方針を踏まえ「教育のICT化に向けた環境整備5か年計画(2018〜2022年度)」を策定しました。

 今後は、教師が電子黒板で授業をしたり、子供たちがタブレット端末を使用して学習することがますます求められてくるため、こうした視点からの授業改善が求められています。

校務改善の方向性

 新学習指導要領実施における成功の秘訣は、教師の授業改善にかかっています。教師がこれまでの授業スタイルから脱却して不断の授業改善を行っていかなくては、子供たちに求められる資質・能力を伸ばすことはできないということを自覚する必要があります。また、今次の学習指導要領の改訂の基本方針として併せて示されている、「社会に開かれた教育課程」の実現のためには、教育活動に必要な「ヒト・モノ・カネ」を見直すとともに地域等の外部の資源の利活用を図る必要があります。

 教師の授業改善の促進、開かれた教育課程の実現を後押しするのは、学校の管理職です。管理職は、校務分掌の見直しを通した校務改善を断行することにより、教師に対して質量とも充実した教材研究や授業準備の時間を確保する必要があります。

 

Profile
明海大学副学長
高野敬三
たかの・けいぞう 昭和29年新潟県生まれ。東京都立京橋高校教諭、東京都教育庁指導部高等学校教育指導課長、都立飛鳥高等学校長、東京都教育庁指導部長、東京都教育監・東京都教職員研修センター所長を歴任。平成27年から明海大学教授(教職課程担当)、平成28年度から現職、平成30年より明海大学外国語学部長、明海大学教職課程センター長、明海大学地域学校教育センター長を兼ねる。「不登校に関する調査研究協力者会議」委員、「教職課程コアカリキュラムの在り方に関する検討会議」委員、「中央教育審議会教員養成部会」委員(以上、文部科学省)を歴任。

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