教職 その働き方を考える

高野敬三

教職 その働き方を考える[第4回]学校における各種調査回答事務の実態

トピック教育課題

2019.09.28

教職 その働き方を考える
[第4回]学校における各種調査回答事務の実態

明海大学副学長 高野敬三

『リーダーズ・ライブラリ』 Vol.4 2018年8月

●本稿のめあて●
学校に対して、各種調査は毎年のように教育行政機関などが実施しています。教育課題の多様化・複雑化とともに、その調査の数は、きわめて多くこのことが学校の多忙化の要因の一つとなっています。今回は、こうした調査の実態を明らかにするとともに、このことの課題を解消するために行政に求めるポイントを明らかにします。

学校に対する各種調査

 学校の校長、教頭や教員に対して、多忙感を抱かせ、学校教育に集中できないといった苦情の要因となっている最たるものが、この各種調査であるかと思います。この各種調査を実施者別にみますと、国が求めているもの、都道府県が求めているもの、区市町村が求めているものや教育研究機関・民間団体が行う調査など、その種類や内容は多岐に亘ります。その上、調査内容がほぼ同じようなものが教育委員会の各部署から五月雨式に来たり、調査項目が膨大であるにもかかわらず、回答期限が極めて短い場合もあります。

 こうした学校に対する調査については、回答内容によっては、その後、校名を付して公表されることもあり、学校の管理職としては、正確性を期すため慎重にならざるを得ない場合もあります。

各種調査の実態

(1)国からの調査・回答

 国の場合は、地教行法第54条に基づき行う調査や学校基本調査、学校保健統計調査、学校教員統計調査など統計法に基づく基幹統計に関する調査などがあり、こうした調査には学校として回答する義務がある場合がほとんどです。文部科学省によれば、平成29年度はこうした定期的な調査の数は26件としています。国の調査については、毎年ほぼ同じ時期に調査依頼がある場合がほとんどであり、学校としては、いわばルーティンとして対応することは容易ではありますが、かなり正確な数値データの提供を行う必要が生じてきます。

 また、国の調査依頼は、国から都道府県教育委員会、区市町村教育委員会を経由して各学校に降りていき、調査回答に当たって、学校はその逆のルートで回答していくわけですから、時間もかかり、途中、都道府県教育委員会や区市町村教育委員会からの確認行為などがあり、学校にとっては、回答すればそれで終わりであるとは限らない場合もあります。

 

(2)都道府県教育委員会・区市町村教育委員会からの調査・回答

 学校の設置者である教育委員会は、学校教育法第5条(設置者管理主義)に基づき独自に調査・統計等への回答を学校に求めることができます。調査内容も多岐に亘っていて、学校の施設設備の整備・保守状況、教職員の現況、児童生徒の学習指導(各教科・領域)、生徒指導や進路指導、使用する教科書、補助教材・副教材、教員研修、児童生徒の保健・安全、環境衛生、学校給食、生涯学習、スポーツ、文化に関することなどがあり、ぼぼ学校教育に関する全般的な調査となっています。この他にも、県として教育に関する独自の事業を行う場合など、設置者が施策を策定する上で必要となる調査や実施した施策の遂行状況に関する調査などもあります。

 また、議会からの学校教育に関する質問に付随して、設置者は所管する学校に対して調査を行う場合もあります。

 なお、都道府県教育委員会は、基本的には、区市町村立学校の設置者ではないのですが、広域行政としての立場から、区市町村教育委員会を経由して小中学校に対して調査を行う場合も多くあります。

 ある小学校では、市教育委員会からの調査本数が年間300件、県教委育委員会からの調査が年間40件ほどあったという実態も明らかとなっています。

 

(3)学校に係る事件・事故に伴う緊急調査

 いじめ、体罰、プール事故、不審者、児童虐待など学校の児童生徒に係る事故事件が起こるたびに、国、都道府県教育委員会、区市町村教育委員会は所管する学校に対して、緊急調査を行います。

 

(4)教育研究機関や民間団体からの調査・回答

 教育行政機関からの調査の他、学校には、外部の研究機関や民間団体から、DMで、非常に多くの調査が来ます。こうした調査については、回答の義務がありませんが、社会的に重要な機関からの調査については回答せざるを得ない場合もあります。

 これまで、各種調査の実態をみてきましたが、学校に対して、年間300件以上の調査という数字をどう考えるかです。1年365日の毎日、調査回答をするといった塩梅です。筆者は都立高校で校長を経験したことがありますが、その数は驚くべきものでした。また、調査内容について、細かな設問は若干異なるものの、全体としては、同じ内容の調査が教育委員会の複数の部課から来るという事態もありました。国や教育行政機関からの調査に対しては、校長は正確さを期すため、何度も確認行為をして、回答していくわけです。その間、副校長、分掌主任、担当の教員の業務が増えていくこととなります。

各種調査と学校における働き方改革

 学校における働き方改革において、国も調査・統計等への回答については課題の一つであるとして、調査項目の見直し、調査内容の重複排除、報告者負担の軽減に努めることを挙げています。また、都道府県レベルでも、同様なことを課題として認識して独自の働き方改革のプランを策定する動きがあります。調査・統計の縮減という抜本的課題解決は、こうした教育行政機関の取組をまつこととなりますが、ここでは、そのポイントを示します。

①経年的に実施する調査の数の縮減

 毎年、調査を実施することが果たして適切なのか、5年に一度でいいのかなどの視点で見直しをかけます。また、毎年回答してもらう調査結果が、あまり教育行政に活用されていないものであれば、思い切って、その調査を廃止します。

②調査内容・項目の精選

 実施すべき調査は、その内容の精選を図るとともに、学校が回答に要する時間の縮減を図るため、一つの調査の中での項目を最低必要な数とします。

③調査実施主体間の調整と調査時期

 教育情報を所管する課が、実施しなければならない調査については、一元的に管理して、各部各課からの調査の重複を排除します。また、1年を通して、調査実施の時期について調整を図ります。

 

Profile
明海大学副学長
高野敬三
たかの・けいぞう 昭和29年新潟県生まれ。東京都立京橋高校教諭、東京都教育庁指導部高等学校教育指導課長、都立飛鳥高等学校長、東京都教育庁指導部長、東京都教育監・東京都教職員研修センター所長を歴任。平成27年から明海大学教授(教職課程担当)、平成28年度から現職、平成30年より明海大学外国語学部長、明海大学教職課程センター長、明海大学地域学校教育センター長を兼ねる。「不登校に関する調査研究協力者会議」委員、「教職課程コアカリキュラムの在り方に関する検討会議」委員、「中央教育審議会教員養成部会」委員(以上、文部科学省)を歴任。

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