ここがポイント!学校現場の人材育成
ここがポイント!学校現場の人材育成[第1回]新任教員の即戦力化〈その1〉
学校マネジメント
2019.08.13
ここがポイント!
学校現場の人材育成
[第1回]新任教員の即戦力化〈その1〉
●本稿のめあて●
教員の大量退職・大量採用によって、新任教員が各学校で増加するとともに、教員の年齢構成も歪になっています。学校では、様々な年齢層の教員がいてそれぞれの特性に応じて指導を展開できるのですが、特に新任教員の育成は学校管理職・教育委員会にとっても喫緊の課題となっています。そこで、本稿では、新任教員の育成について考えていきます。
新任教員の増加による課題
教員の大量退職に伴う大量採用については、ここ1、2年落ち着いてはきましたが、依然として、各自治体では、小学校、中学校、高等学校における採用数は多く、現実の学校現場においては、新規採用教員を複数名配置している状況もあります。年齢構成をみると、20歳台前半から30歳台後半までの若手教員が増加するとともに、40歳台の中堅として学校教育を担う教員が少なく、50歳台の教員が多いといった歪な構成(下表は、東京都の公立学校の教員の年齢分布)となっています。東京都では、毎年2000人規模の新規採用教員を任用しています。
新規採用の教員が増えることは、児童生徒と年齢が近い教員が教育指導に当たるわけですから、若さ溢れて情熱的で教育愛に満ちた指導が学校現場で展開されるという点では強い利点です。しかしながら、経験に裏打ちされた実践的指導力という観点では、課題が生じています。
特に、小学校においては全科教員が基本ですので、大学卒業後、教壇に立ったその日から学級担任として教員生活を送る新規採用教員が増えています。また、かつては、中学校や高等学校においては、いわゆる副担任を経験したのちに学級担任となることが普通でした。しかしながら、現在では、大学を卒業後、副担任を経験せず、いきなり新規採用教員を学級担任とする学校が増えています。実践的指導力に長けたベテランの教員が定年退職をして新任教員が増えることにより、学校内で児童生徒指導や教科指導に関する技術などが継承されない事態が生じています。
課題解決のための視点と方策
第1の視点は、そもそも教員採用試験合格者を学校の教員として採用する前に、再度、自治体の現状を踏まえた「講座」を開講してスムーズに4月から教壇に立てるようにする仕組みを構築できないのかということです。もちろん、任用後は、法律の定めるところにより初任者研修を受けなければならないことは当然ですが、任用開始前に、何らかの方法でプレ研修が必要となっている時代かと思います。
第2の視点は、教員は、大学等における教職課程において教育職員免許法で定める科目の単位を修得していることが前提となっていますが、この大学等における教職の科目や科目内容などが学校現場で求められるものとなっているかどうかです。
第3の視点は、初任者研修が本当に機能しているかどうかです。教育公務員特例法では、採用した日から1年間初任者研修を実施するように規定されています。国が示した初任者研修実施要項モデルや指針では、初任者は、校内での研修を週10時間以上、年間300時間以上、校外における研修を月1から2日程度、年間25日以上受けることとされています。特に、校内における研修については、校長がその内容項目を設定して組織的に初任者研修を行うことが必要です。
本連載の初回の今回は、特に、第1の視点について、学校の管理職や教育委員会としての取組と役割についてお話をさせていただき、次回以降に上記第2、第3の視点について触れていきます。
スクールリーダー・教委の取組と役割
筆者が東京都教育委員会で勤務していたころ、教員の大量採用がすでに始まっていた小学校の管理職に、初任者に関する実態調査・聞き取り調査を実施したことがありました。聞き取り調査結果では、小学校の初任者は若くて教育に関する情熱は感じられるが、コミュニケーション能力に欠ける、教科指導については、特に、体育や理科の授業が不得手であり、きちんとした指導力が身に付いていないなどの声が多数寄せられました。
そこで、公立学校の退職校長の活用を図り、学校現場に、4月から教壇に立つ教員採用候補者約2500名に対して、東京都のいわば「財産」である東京都公立学校退職校長会の力を借りることとして、「採用前実践的指導力養成講座」を平成25年度から実施しています。講座という名称ですが、事実上、全員を対象とした悉皆研修です。この講座は、11月から2月までにかけて実施する全5回の構成となっています(平成29年度現在)。講座内容は、学習指導や学級経営、特別支援教育、保護者との信頼関係づくり、また、体育や理科実験等について講義や体験活動を通して学び、採用前に実践的な指導力を身に付けることを目的としています。
教員としてのスタートを円滑にできるような採用候補者に対する「研修」については、いくつかの自治体も実施するようになりました。今後は、大学等と連携して内容の充実とともに回数の拡充が求められます。さらには、学校管理職としては、退職校長だけに任せるのではなく、こうした講座の講師となり、自校に勤務する可能性にある人材をスタートライン手前から指導することも必要です。
Profile
明海大学副学長
高野敬三
たかの・けいぞう 昭和29年新潟県生まれ。東京都立京橋高校教諭、東京都教育庁指導部高等学校教育指導課長、都立飛鳥高等学校長、東京都教育庁指導部長、東京都教育監・東京都教職員研修センター所長を歴任。平成27年から明海大学教授(教職課程担当)、平成28年度から現職、平成30年より明海大学外国語学部長、明海大学教職課程センター長、明海大学地域学校教育センター長を兼ねる。「不登校に関する調査研究協力者会議」委員、「教職課程コアカリキュラムの在り方に関する検討会議」委員、「中央教育審議会教員養成部会」委員(以上、文部科学省)を歴任。