ミドルリーダーが創るこれからの学校

大脇康弘

ミドルリーダーが創るこれからの学校 第3回 学校における協働の基礎

トピック教育課題

2019.07.04

ミドルリーダーが創るこれからの学校

第3回 学校における協働の基礎
個業リンク型組織
『新教育課程ライブラリ Vol.3』2016年3月

教員の協働

 学校における協働(cooperation)について考えてみたい。「協働」とは、複数の主体が目標を共有して力を合わせて活動することをいう。

 中教審答申「チームとしての学校の在り方と今後の改善方策について」(平成27年12月21日)は、「チームとしての学校」を提起し、教員の連携・協働を基盤に、多職種の専門能力スタッフとの協働へと舵を切ろうとしている。文部科学省は、教員の多忙化、教育課題の複雑化・多様化の中で、教員が子どもの指導時間を確保する施策として、教員定数の拡充ではなく、多職種の専門能力スタッフを活用することで、学校の直面する課題を解決しようとしている。答申は「専門性に基づくチーム体制の構築」(答申2(1)①)として、次のように述べている。

 「我が国の学校の教員は、従来から、教育に関する専門性を共通の基盤として持ちつつ、それぞれ独自の得意分野を生かし、学校の中で、学習指導や生徒指導等の様々な教育活動の場面で『チームとして』連携・分担し、成果を上げてきた。(中略)今後、教員の資質・能力を上げていくためには、それぞれの学校において、教員集団の資質・能力の向上に取り組むことが重要であり、教員が『チームとして』教育活動に取り組むことが求められている」

 学校づくり、学校経営において、教師の協働意欲を高め、課題意識を共有することが基本中の基本である。しかし、これに取り組んで学校改革の起点を築くことは難しく、スクールリーダーは工夫と苦心を重ねている。

学校づくりと授業づくり

 学校改革が叫ばれて久しい。学校は次々に下されてくる教育施策の具体化に追われ、学校が創意工夫して新たな取組みを行うことは難しくなっている。その中でも、学校づくり、授業づくりに取り組み、活気ある教育を生み出している学校は少なくない。地元の学校関係者、教育委員会、一部の教職員、研究者には知られているが、都道府県、全国レベルでは情報は限られてくる。HP、SNSなど情報が溢れる時代であるが、情報発信・交流の工夫が求められる。

 筆者は縁あって、総合選択制高校の創設、総合学科への改編、小・中・高校一貫教育の創造などに参画し、先生方と共に学校づくりについて研究討議し、実践を省察し、実践を雑誌連載する取組みを重ねてきた。その時に経験したのは、学校の教職員は改革に対してかなり慎重であるが、実践の感触を得たり納得すると改革に前向きになることである。

 いくつかの学校では、少数のスクールリーダーが教員集団を牽引する段階を経て、改革の機運が出てくると多様な取組みが重ねられ、それらを膨らませて教職員をつないでいく「ファシリテーター」役が重要となる。学校改革が広がりをみせ、元気な学校が現れてくると、その実践をまとめ、発信できれば多様な交流が生まれ、さらなる実践を生み出す契機がもたらされる。また、その実践の内実とそれを担った教職員の肉声を次世代に継承することになる。

 学校改革に参画して学んだことは多い。中でも、学校づくりは授業づくりと連関させることが必要不可欠である。学校づくりは、新たなシステムづくり、生徒指導の立て直し、教育の周辺部での新たな実践などを起点としてスタートする。他方、校内授業研究は新たな校内研究テーマを設定して組織的に取り組むが、これまでの授業研究のあり方を再構成するのではなく、付加的に取り組む場合が多い。いずれにしても、学校づくりから授業づくりへ、あるいは授業づくりから学校づくりへの展開は難しい。

 学校改革は授業改革を核とすることを私は学んできた。こうした認識から、今宮総合学科における学校づくりの実践をまとめた時、書名を『学校を変える 授業を創る』(学事出版)とした。また、中学校の学校づくり実践をまとめた太田洋子先生等は、学校改革の本丸は授業改革にあったとして『中学校「荒れ」克服10の戦略』(学事出版)を刊行している。他方、「学びの共同体」の学校づくりでは、茅ケ崎市立浜之郷小学校の『学校を創る』『学校を変える』(小学館)などにみるように、授業改革を起点とした学校づくりに取り組んでおり、授業研究協議会の実践、教師の自己変革が核におかれている。

 このように、学校づくり、授業づくりにおいて教職員の協働をいかに組織するかが問題となる。その際、学校は学級制を基盤とした個業を基礎単位として、その上に分業―協業が仕組まれていることを認識すべきである。この認識が弱いと、教職員に参加、協力、支援、援助、助け合いと学び合いを声高に呼びかけることになる。

「個業リンク型組織」としての学校

 授業づくり・学級づくりは、教師が教室で児童生徒集団40人(クラス)を相手に展開する。一人の教師が特定の教室で児童生徒集団に対して実践する。つまり、学級が学校の基礎単位であり、教師の仕事はそこを起点に組織されている。一人の教師が教科指導・生徒指導を基本的に取り仕切る裁量権を与えられ責任を負っている。この学級制を基礎に学年団(教科部会)が基軸となり、学校全体へと組織される。

 この学級-学年-学校という三層の教育組織を支えるのが校務分掌組織である。学校には事務職員が少数しか配置されないので、教員が学校事務の多くを担っている。校務分掌組織は校種・地域・各学校によって異なるが、一般には総務部、教務部、生徒指導部、進路指導部、保健部、事務部(名称は多様)などから構成される。そして、教育組織と校務分掌組織をつなぐのが学校運営組織であるが、運営委員会(企画会議)―職員会議―校長を基本とし、各種の委員会が設置され、必要に応じてプロジェクトが設けられる。

 教員は、学級担任・教科担任を基礎にして、分掌校務のいずれかに所属し、学校運営組織に参画して学校の意思形成に関与する。つまり、学級・教科、分掌校務、運営組織に所属し、一人数役を担うのが一般的である。

 学校の基礎単位が学級であり、教師が単独で学級・教科を担っている。その上に、教員の協働が組織される。ここでは教師の専門性と自律性を基礎として、教師の同僚性と集団性を高めることと、学校の組織性・階層性を仕組むこととの矛盾と均衡が追求される。それは学校づくりと授業づくりの両輪をいかに連関させるのかという組織的課題でもある。

 

大阪教育大学連合教職大学院教授
大脇康弘
Profile
おおわき・やすひろ 教育経営学・教師教育学専攻。大学・教育委員会の連携事業としてスクールリーダー・フォーラム事業を組織し、日本教育経営学会実践研究賞を受賞。『学校をエンパワーメントする評価』『「東アジア的教師」の今』『学校を変える授業を創る』など。

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大阪教育大学連合教職大学院教授

教育経営学・教師教育学専攻。大学・教育委員会の連携事業としてスクールリーダー・フォーラム事業を組織し、日本教育経営学会実践研究賞を受賞。『学校をエンパワーメントする評価』『「東アジア的教師」の今』『学校を変える授業を創る』など。

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