ミドルリーダーが創るこれからの学校

大脇康弘

ミドルリーダーが創るこれからの学校 第4回 ミドルリーダー層の拡充

トピック教育課題

2019.07.08

ミドルリーダーが創るこれからの学校

第4回 ミドルリーダー層の拡充
『新教育課程ライブラリ Vol.4』2016年4月

教員の年齢構成の変動

 現在、教員の年齢構成が急激に変化している。年長教員が大量退職し、その後に若手教員が大量採用されている。大都市部の学校では、20代30代の若手教員が多数を占めることも珍しくない。職場に若さと活気がみられる一方で、教員の実践的知見や教育様式・教員文化が伝わりにくい、職場の連携が取りにくいなどの問題が現れている。今回は、ミドルリーダーを生み出す基盤である教員の年齢構成についてみていく。

 教員の年齢構成はその形態から類推して、つり鐘型、ワイングラス型、ふたこぶラクダ型、ダンベル型、フラスコ型などと象徴的に表現されている。生徒減少期で採用数が極端に少ない時代から、1970年代に大量採用されたベビーブーマー世代をはじめとする教員が大量退職し、入れ替わる形で若手教員を大量採用する時代へ、そしてまた、教員採用規模が縮む時代へと変化することになる。このため、教員の年齢構成の型は、特に大都市圏ではワイングラス型からダンベル型へ、ダンベル型からフラスコ型へと変化する。これは教員の大量採用と少数採用を繰り返す30年間弱のサイクルに起因している。

 ワイングラス型は、教員の高齢化が進み、50代の年長教員が半数を占めて、40歳前後の中堅教員が極めて少なく、若手教員が少し膨らむ形になる。

 ダンベル型は、新採用教員が毎年増加し、20代30代の若手教員の塊と50代の年長教員の塊、それにはさまれる30代後半から40代前半が極端に少ない形となる。そして、数年後には年長教員が大量退職して、20代30代の教員が大きな塊となり、年長教員、中堅教員が少ないフラスコ型となる。

 次頁の図は、関西の大都市圏にあるX市の小学校教員のダンベル型年齢構成である。全校で17校あるが、採用数が少なかった時代は毎年4~5人、大量採用時代には16~29人と4倍を超えており、年齢構成がアンバランスとなっている。この教員の年齢構成の地殻変動は大都市圏で顕著にみられ、地方圏では緩やかである。これが学校現場の日常の営みに変化をもたらし、そして教育界の人的資源の交換に大きな影響を及ぼす。

人材育成・人材登用の課題

 教員の世代交代が急速に進む大都市圏では、人材育成・人材登用が学校の課題であり、教育行政の最重要課題となる。学校現場では、年長教員の実践知・経験値の継承が難しくなり、学校を支えてきた指導様式・経営慣行・教員文化が曖昧となり不安定になってきた。人材育成・人材配置からみて直面している課題は多いが、次の3点に要約できる。

 第一に、大量に採用した新任教師の研修と職場への定着という問題である。教育改革が急激に幅広く進展する中で、学校現場は新任教師を即戦力として使いこなすことに傾き、人材として育てる余裕を失ってきている。若手教員が互いに切磋琢磨するとともに、中堅教員、年長教員が若手教員を支援する体制が必要である。

 第二に、中堅教員が量的に少なく、しかもリーダー経験が乏しいため、ミドルリーダーの役割を担える人材が限られている問題である。教員の高齢化が進んだワイングラス型の時代には、現在の中堅教員は年長教員に囲まれて組織リーダーとして活動する機会が乏しく、学校づくりの視野と方法を培う経験に浅い。けれども、人材不足の現在は、自らの能力と経験を超えてミドルリーダーの役割を担うことも少なくない。また、若手教員は早くからリーダー経験を積みながら、ミドルリーダーとして成長していくことを期待される。彼らが役割を遂行しながら、ミドルリーダーとして成長するためには、経験を通した学習に取り組める研修機会を整備することが求められる。

 第三に、校長・教頭の絶対的不足というアポリア(難問)である。10年前からミドルリーダーの絶対数が不足し、校長・教頭の若手化と人材確保が必要とされていた。その後、教育改革の激動期に突入して校長・教頭職への忌避傾向が強まり、人材不足の傾向は一層強まってきた。特に、大阪市の小学校では、教頭が全校に配置できず、中学校籍の教頭を小学校にまわすことも発生している。校長・教頭の組織的・計画的育成に取り組むことが必要不可欠である。

ミドルリーダー層の拡充

 さて、ミドルリーダーが絶対的に不足する現在、ミドルリーダーをいかに育成していくかが課題である。ミドルリーダーは学校づくりの要であり、校長・教頭と教職員集団をつなぐ連結ピンとして活動する。中規模学校で、3~5名のミドルリーダーは必要である。

 ミドルリーダーがいないか、役割が十分遂行できないと、年長教員層と若手教員層のつなぎ役がいなくなり、両者の意思疎通や教育実践の連携が弱くなる。その結果、①学校の運営力、危機対応力の弱体化、②教育様式・経験値の伝承の困難、③教職員のまとまりの欠如、目標の共有の弱さ、④学校の総合力の低下につながる。

 学校現場では、ミドルリーダー候補者を人材登用し、支援しながらリーダー経験を積ませていくこと、教職5年目の教員にメンターとして人材育成の経験を積ませながら、成長を図ることなどが試みられている。

 教育委員会・教育センターでは、ミドルリーダーの量と質を確保するために、ミドルリーダー対象の研修プログラムの開発に取り組んでいる。ミドルリーダーの対象範囲を中堅教員から若手教員さらに年長教員にまで拡大し、リーダーシップの学習と育成に取り組んでいる。

 教員は学級制を基盤にした個業を軸に活動しているので、学級から学年レベルで教科指導と生徒指導を両輪とする世界に定住し、学年から学校全体へ、分掌校務から学校全体へと視野を広げ役割を拡大する契機は極めて少ない。これを打開し、スクールリーダーとしての視野と役割を持つために仕掛けを行い、学習機会を設けることが今求められている。

 

大阪教育大学連合教職大学院教授
大脇康弘
Profile
おおわき・やすひろ 教育経営学・教師教育学専攻。大学・教育委員会の連携事業としてスクールリーダー・フォーラム事業を組織し、日本教育経営学会実践研究賞を受賞。『学校をエンパワーメントする評価』『「東アジア的教師」の今』『学校を変える授業を創る』など。

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大阪教育大学連合教職大学院教授

教育経営学・教師教育学専攻。大学・教育委員会の連携事業としてスクールリーダー・フォーラム事業を組織し、日本教育経営学会実践研究賞を受賞。『学校をエンパワーメントする評価』『「東アジア的教師」の今』『学校を変える授業を創る』など。

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