ミドルリーダーが創るこれからの学校
ミドルリーダーが創るこれからの学校 第1回 ミドルリーダー像の再構成
トピック教育課題
2019.07.03
ミドルリーダーが創るこれからの学校
第1回 ミドルリーダー像の再構成
(『新教育課程ライブラリ Vol.1』2016年1月)
■連載の趣旨■
力のあるミドルリーダーがいない、ミドルリーダーの育成が重要課題だとの声が、校長・教頭から聞こえてくる。学校現場では教員の世代交代が急激に進んでおり、若手教員が半数を占める職場も珍しくない。この状況では、これまでの中堅教員像を転換し、新たなミドルリーダー像を構成すべきと考える。
その際、ミドルリーダーとしての基礎力と可能性をもつ人材を見出して育成し、リーダー経験を積ませて省察することで、リーダーシップ能力を高めていくという「人材育成サイクル」を重視すべきである。若手のミドルリーダーがリーダーシップのあり方を学び、リーダー経験を交流し振り返る「学びの場」を創り出すことも必要である。
他方、年長教員が学校づくりに貢献し、教職員のまとめ役として活動することにも意を注ぐ必要がある。今、ミドルリーダーが多様化することは不可避であり、学校現場の実態に応じて人材を配置・登用し、柔軟に役割を決めていく時代となっている。
この連載では、教育変動期におけるミドルリーダー像を考察し、その役割・実践・成長について論じることにする。
ミドルリーダーを見定める
ミドルリーダーとはだれか、どんな役割・機能を担い、どのような属性をもつのか。この点は明確にされているとはいえない。ミドルリーダーを扱っている書籍を見ると、教務主任から学年主任を含む主任層を扱うものから、新設の主幹教諭を主対象としたものまで多様であり、明確に定義されていない。佐久間茂和編集『ミドルリーダーを育てる』(教育開発研究所、2007年)は学校現場の実践知を幅広くまとめた本であるが、次のように述べている。
「ミドルリーダーを『現場のリーダー、頼りになる先輩』と改めて規定し、多様でズバリととらえにくく、だれもが一言で言いきれないミドルリーダーの概要を、71人に語ってもらい、浮かび上がらせようと挑戦した」
こうした実態と理論的動向をふまえて、最初にミドルリーダーについて定義しておきたい。ミドルリーダーは「学校づくりを最前線で担うチームリーダー」であり、トップとローワーを結ぶ連結ピンとして、校長・教頭の補助、担当校務の企画運営、関係教員の連絡調整・支援を行う。これには、主幹教諭・指導教諭、教務主任・研究主任・生徒指導主事・進路指導主事、学年主任などを含む。ミドルリーダーは担当校務によって役割は多様であるが、加えて学校規模、教員構成、学校文化、地域によってその役割と活動は多種多様となるのである。
ミドルリーダーが登場する前は、中堅教員、中堅リーダー、ベテラン教員などの用語が広く使われていた。それは教育指導力があり組織運営に力を発揮し、同僚教員から信頼される存在であった。教員集団の支持を受けて、校長と対等か、時にはそれ以上の発言力と実行力を兼ね備えており、学校の企画運営の一翼を担っていた。中堅リーダーの属性は、教職経験20年、年齢40歳が一つの目安とされ、主要な主任を2、3種経験していた。そのリーダーシップは職位・権限に伴う影響力というよりも、力量・経験・人物を基盤にした「自生的リーダーシップ」であった。学校の自律化政策が展開する前の1990年代までは、この自生的リーダーシップの役割が大きかったのである。
ミドルリーダーの存立基盤
次に、中堅教員に代わってミドルリーダーという用語が普及してきた背景を4点にわたって整理したい。ここには、学校経営改革が2000年以降取り組まれる中、いくつかの社会的・教育的要求が重なり合う問題状況が見え隠れしている。
(1)教員構成の変動
教員の年齢構成の地殻変動は、学校の組織運営を根底から揺さぶっている。教員構成は、ワイングラス型からダンベル型へと急速に変化してきた。ダンベル型は、新採用教員が毎年増加し、20代30代の若手教員というかたまりと50代の年長教員というかたまりが両極をなし、それにはさまれる30代後半から40代前半の中堅教員が極端に少ない形となる。加えて、少子化による生徒数の減少で学校規模が縮小し、1校当たりの教員数が相当減少している。この中で、中堅教員層が絶対的に不足し、ミドルリーダーの組織的計画的育成が急務となってきたのである。
(2)スクールリーダーシップの重視
学校管理職、教育管理職に代わってスクールリーダーという用語が普及してきたのは、2000年代に入ってである。スクールリーダーは「学校づくりの中核を担う教職員」と定義され、校長・教頭をはじめ事務長、および先にみたミドルリーダーを含む。スクールリーダー概念には、自律的学校経営を担う役割、教育活動を組織する教育リーダーシップ(instructional leadership)の重視、そして、分散型リーダーシップ組織への転換が含まれていた。ミドルリーダーは、このスクールリーダーの系列にあり、教育リーダーの役割を重視している。
(3)組織マネジメントの導入
これに対して、新公共経営(New Public Management)による行政改革が取り組まれる中で、学校に企業経営の手法である組織マネジメントが導入されてきた。学校の目標・ビジョンの設定、経営過程の管理、成果による評価という新たな管理システムが学校に組み込まれた。ミドルリーダーはこの組織マネジメントを支える組織リーダーの役割を担う存在に位置付けられている。
(4)ミドル・アップダウン型組織づくり
そして、これまでの同僚性・水平型組織から階層性・ピラミッド型組織への再編がなされる中で、注目されてきたのがミドル・アップダウン型組織である。そこではミドルリーダーが校長と一般教員をつなぐ「連結ピン」となって、学校全体の立場からビジョンを具体化し教職員をリードしていく中軸的な役割を担う。このミドル中軸型組織は、学校の教職員に支持され受容されている。
以上の四つの要因は、互いに異なり対立を含みながらつながっており、ミドルリーダーの役割と条件を枠づけている。次回から、ミドルリーダーの存立基盤を検討しつつ、その役割と実践をみていこう。
大阪教育大学連合教職大学院教授
大脇康弘
Profile
おおわき・やすひろ 教育経営学・教師教育学専攻。大学・教育委員会の連携事業としてスクールリーダー・フォーラム事業を組織し、日本教育経営学会実践研究賞を受賞。『学校をエンパワーメントする評価』『「東アジア的教師」の今』『学校を変える授業を創る』など。